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心はいつも曇天です

「今幸せな人は、去年も一昨年も幸せだったはずだ。今不幸な人は、結婚しても、10年たっても不幸だろう」

最近、そんな感じの言葉を見かけた。

この手の「すべては気の持ちよう」タイプの言葉は、僕は好きではない。いかにも自己啓発的で、要するに世界にコミットしようとしないからだ。

でも、わからなくはない。

僕は、物心ついてこの方、心の中から不安が消えたことはないように思う。

持っていなければ欠落の不安があり、何かを手にすれば失う不安に、褒められればその信頼を失う不安に、同時に駆り立てられる。

一点の曇りもない青空のような気持ちになったことは、たぶん一度もない。

そしておそらく一生、この天気は変わらないと思う。

それはまるで僕が生まれ育った石川県の天気のようなもので。静岡やブラジルの人は、また世界の見え方が違うんだろう。

「不安を感じるのは人間の生存本能であり、楽観的な人間は進化の過程で絶滅した」

識者は言う。素敵な気休めの言葉である。

雨は傘でしのぐ楽しさや相合傘の喜びがあり、曇天には美しい晴れ間がある。

雲から溢れ出る光の柱は神々しく、湿度を帯びた冷気は優しい。木々の葉に遊ぶ雨露は瑞々しく、滴り落ちる雫は陽を浴びてきらめく。

僕はきっとそういうものに励まされながら、この先も生きていくのだろう。

あなたの御寄附は直接的に生活の足しになります。