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花っていうものは、はかないものなんだからね

「卵子は増えない」

最近インターネットを眺めていて初めて知り衝撃を受けた、43歳子供2人持ち男性の私である。義務教育レベルの知識らしい。

女性が生まれた時に持っている原始卵胞は約200万個。それが思春期までに約30万個に減少し、以降、毎月約1,000個ずつ減少していく。単純計算で40歳くらいで尽きることになる、ということだ。

知らなかった。私の認識は、卵子は一方的に減るだけではなく再生産もされ、個人差はあれど、長く元気な卵子を持ち続ける人もいるのだろう、という程度だった。

ここで誤解のないように言っておきたいのは、私が言いたいのは「だから早く結婚しろ」「だから早く子供を産め」「人生の選択肢をよく考えろ」という主張ではない。

私はこの事実から思考の身体性についての男女の相違=そりゃあ男と女の世界観は違うはずだよな、と思ったというだけのことであり、つまりは単なる感想を書いている。

人間はAIではないので、思考は少なからず身体に影響を受ける。酒を飲んだ時や睡眠不足の時は正常な判断ができなくなる。病気や怪我の時もそうだ。個人的にも、交通事故で両足を骨折して入院している間は、脳には何らダメージがないにも関わらず、ずっと気が塞いでいたことを憶えている。

男(の子)という生き物は、ある種の「無敵感」を持っている。もちろんそれは誤解であって、哺乳類は一般的に雌より雄の方が生命力が弱くてすぐ死ぬのだが、オール・オア・ナッシング。死んでなければ、生きている、という感覚がある。「死ぬこと以外かすり傷」というあの名台詞も完全に男の発想だ。

女性の年齢感覚は男性より10歳多い、と何かの本で読んだことがある。例えば男性が40歳の時に感じる(人生ここまで来たなあ)という感覚を、女性は30歳で感じている、という意味だ。この違いを誰がどうやって実証したのかは定かでないが、日本産科婦人科学会の定義では「35歳以上の初産婦」が高齢出産らしいので、女性には潜在的にでも身体から何か影響を受けるのかもしれない。

時間が経つと確実に失われていくものがあり、かつそれが人生の選択肢と密接に関係している、というのは男にはなかなかピンとこない身体感覚だと思う。

恋愛における男女差として、男の恋は「名前を付けて保存」、女の恋は「上書き保存」と表現されることがある。個人的には、女性同士の友人関係にもその傾向を見る気がする。言わば人間関係の損切りで、損切りができる傾向は女性に強い気がする。断捨離や片付けのパイオニアも女性だ。

確実に減少していくものを持っている女性と、それがない男性には、思考の身体性において、潜在的に、有限性への意識の相違があるのではないだろうか。

男の人生は何となく続く。趣味の収集癖があるのも男ばかりだし、「一生、青春」などと張り切っているのも大抵は男だ。

私が好きなサン=テグジュペリの『星の王子さま』では、王子さまが地球に来る一つ前に訪れた星に地理学者がいる。王子さまは、自分の星に残してきた花について、「わしたちは、いつまでもかわらないこと書くんだよ」と言う地理学者と話をする。

この花はサン=テグジュペリの妻コンスエロをモデルにしているというのが定説である。そうでなくても、少なくとも女性をモチーフにしている。

この会話について、私は最近考えていた。

「わしたちは、花のことなんか書かんよ」
「なぜ? とっても美しいんですよ」
「花っていうものは、はかないものなんだからね」

『星の王子さま』(サン=テグジュペリ
;訳・内藤濯)

「書かんよ」と言うことの意味について。それを書く意味について。

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