握手

十年に一度しか会わないような友達がいる。

十年前は彼のたっての希望で、秋葉原のメイド喫茶に行った。美味しくなる魔法か何かでオムライスにハートが書かれた。

その日の別れ際。

僕が勿体ぶってそれらしい別れの言葉を繕おうとすると、彼は、

「別に、また会うやろ」

そう言って中学校時代のよう手も挙げずに去っていった。

去年のこと。「今度上京するから」と言うので十年ぶりに彼と会った。

日本橋の小さなクラフトビール店で、他愛のない話をした。彼は地元の工場で課長になって、中間管理職らしい喜怒哀楽の中で生きていた。

その日の別れ際。

僕は彼の流儀に倣って味気なく、少しだけ手を挙げて別れようとした。

すると彼は、「じゃあな」「またな」と何度も言いながら、選挙中の政治家のように握手をしてきた。

僕は彼の手を握り返すと、地下鉄の駅に吸い込まれていく後ろ姿を、見えなくなるまで送った。

あなたの御寄附は直接的に生活の足しになります。