ねこのごんごん / 大道あや
童話というのはお手軽そうで難しいものだと思う。子供に言葉を響かせるのは一番難しいと思うから。
僕の座右の一冊はサン=テグジュペリの『星の王子さま』だが、子供の頃に読んでも意味がわからなかったと思う。
子供の頃に読んで間違いなく感動したと言える童話はたった一冊しかなくて、それは大道あやさんの『ねこのごんごん』である。幼い頃、母に何度も何度も読み返してもらった。
主人公はお腹を空かせた小さな迷い猫で、食べ物の匂いにつられて一軒の民家に潜り込み、そこで老猫の「ちょん」に出会う。
子猫は捨て猫で名前がなかったから、名無しの権兵衛で「ごんごん」となる。
ごんごんはちょんに色々なことを教わりながら成長していく。
その都度言われるのが、
「なにごとも じぶんでおぼえるが かんじん。わかったか。」
という言葉。
この言葉は大人になっても憶えていた。実は本の題名も作者も忘れていたのだが、もう一度読みたくてこの言葉で検索したら引っかかった。
この絵本における個人的なピークタイムは2回ある。
まず最初に、ごんごんに名前がないことから捨て猫だと判断したちょんが、「わしが あの おばさん(家の主)に たのんで おまえもこのいえのねこに してもらうから あんしんしな」というシーン。この漢気にぐっとくる。
次は一人前になったごんごんが年老いたちょんのためにねずみを獲って帰ってきたらちょんが動かなくなってしまっていたシーン。ごんごんがちょんのお墓にねずみを供えるのである。ここで泣く。
子どもの頃、誰か知り合いを亡くすという経験が一切なかった私には「生き物は死ぬのだ」というのは強烈なインパクトであった。
この2つのピークタイムを伴いつつ、全編を通じて繰り返されるのは、油絵のような温かい絵とは不釣合いな「自分の頭で考えろ」という強いメッセージ。これは間違いなく自分の人格形成に大きな影響を与えた。
そして、深い夜の青色と、抜けるような夏の空の色、海からの風にそよぐ木の葉が記憶に残っていた。
しかし、大人になってから読み返してみたら、そんなシーンは一つもなかった。
童話とはそういうものかもしれない。
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