じゃあ将来は
高校生のある日の朝、私は家で取っていた地方新聞の4コマ漫画を読んでいた。サザエさんを薄めたような、サラリーマン家庭のほのぼの漫画である。
私はその漫画が好きではなく、いつもゴルゴ13のように眉一つ動かさず読んでいた。同級生のMはその漫画をとても面白いと言い、私はいつも首を傾げていた。本当に、1ミリも心が動かされない漫画だった。
その日の作品はこういうものだった。
1コマ目
息子「ママー、○○君はサッカーがうまいんだ」
2コマ目
ママ「じゃあ将来はサッカー選手ね」
3コマ目
息子「ママー、△△君はすぐウソつくんだ」
4コマ目
ママ「じゃあ将来は政治家ね」
その瞬間、私は激烈な怒りを覚え、漫画が載っていた新聞の角を握り潰した。
隣にいた母が驚いて「アンタ何してんの!」と言った。確かに子供が突然新聞紙を握り潰せば普通の親なら驚きもするだろう。
端的には、いつも毒にも薬にもならないサラリーマン家庭のドタバタを描いている地方新聞の4コマが、突然、知ったような風刺をしてみせたことに腹が立ったのだ。
お前に政治の何がわかるんだ。
もちろん俺もわからないけど。
地方新聞の読者に向けて、お前はこれをどういう気持ちで描いたんだ。
私はおそらく地元を出ることもなく、それで十分に満足した一生を終えるつもりだった。
その気持ちは地元の大学を出て、地元で就職してからも変わらなかった。
だが、ひょっとしたらあの日の4コマ漫画は、少しばかり私のコンパスを狂わせたのかもしれない。
あなたの御寄附は直接的に生活の足しになります。