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I Love Yu.
風呂が好きだ。
どのくらい好きかって言うと、それほどでもないと思う。
長い間湯船に浸かっているのが好きだ。平均して一時間は入っている。
何かを考えながら、しかし何も考えてはいない。脳は湯船と一体になって、思考回路が断線し、解決するわけでもない様々な思いが、ヨーヨー釣りのように浮かぶ。エアポケットに入ったように、日常の狭間に落ちる。
疲れているとたまに寝てしまう。気がつけば朝方で、お湯が冷たくなって目覚める。もう一回お湯を温める。「そんなことしてたら死ぬよ」と言われるが、風呂で死ねたら本望だと思う。
小学校の頃から長湯だった。
どこも大差ないとは思うが、僕の通っていた小学校は男の子同士のマウント合戦が激しかった。
天パだ、タレ目だ、脛毛が濃い、ニキビだらけだ。子供はありとあらゆる差異を見つけて、弱い者を潰しにかかってくる。
容姿容貌や名前への中傷に始まり、髪を引っ張る、砂の塊を投げつけるという物理攻撃も行われる。鉄棒で遊べば落とされる。
猫をスーパーの袋に入れて川に流す同級生、常に不機嫌ですぐ殴ってくる同級生、教室の前を通れば足をかけて転ばしにくる上級生。そういった異常者たちに、素手で立ち向かわなければならない。
トイレで大をすることなどできない。個室に入ればあいつウンコだと叫ばれ、上からブラシや洗剤が投げ込まれる。朝から腹が痛くても、我慢して一日を乗り越えなければならない。
小学校はさながら戦場で、毎日悲壮な覚悟で登校していた。
「全然、焦っているようには見えないです」
大人になった今でもよく言われる。
その頃に無表情を身につけたのだ。動揺を悟られると相手につけ込まれるから。
中学校に入ると、今度の相手は暴力教師である。
なまじクラス会長などをやっていたので、態度の悪い不良を放置すれば教師に呼び出されて殴られ、おそるおそる不良を注意すれば今度は不良に殴られる。中学生の頃はほぼ毎晩金縛りにあっていたが、たぶんその辺が原因だろう。
人生で一番辛かった時期ベストテンでは中学校時代が一、二を争う。
高校に入れば、ノリのいい連中のテンションについていくことに疲弊しきっていた。テレビのバラエティ番組でやっているゲームに付き合い、負ければ罰ゲームで窓を開けて何かを叫ぶ。他愛のないこと。他愛のないことだが、毎日確実に心をすり減らしていった。
二人でいる時は大人しく親しげな同級生は、集団になった途端に何かに取り憑かれたような目をして嘲笑の言葉をかけてきた。
僕は、集団が恐ろしい。感情にとらわれた人が恐ろしい。何かに夢中になっている人さえ恐ろしい。
物心ついてから、いつも疲れていた。
そんな僕の安らぎの場所が風呂だった。
浴槽は胎内にたとえられることがあるが、その通りでいいと思う。僕は弱かったし、今でも弱い。
子供の頃の夢は、大きな風呂のある家に住むことだった。
今住んでいる家の風呂は、実家の風呂より少しだけ大きい。
そういう意味では、僕の夢は一つ叶った。
I Love Yu.
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