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世界が美しいと言うのは早計だ

まだ本格的な寒さは来ていない、秋の夕暮れの頃。大学図書館の玄関近くの段差に腰かけて、友達と話をしていた。

「今度、A君と遊びに行くことになったよ」

ふと彼女は言った。

へえ、うまくやったじゃん、A。

彼には以前から、彼女のことを紹介してほしい、と頼まれていた。

「そう」

僕は応えた。

それから一週間くらい経った、ある日の帰り道。

彼女から「この前、A君と遊んできたよ」と報告があった。

「どこ行ったの?」

「映画見てから、ご飯食べた」

「どうよ?彼」

「う~ん、合わないかなあ」

「そう」

そこから僕はいよいよ彼の人物評価を並べ立てた。

Aは軽いノリ、親しげな態度の中に人を見下したような傲慢さが垣間見える、損得勘定で動く、勘に障る男。

「でも、事前に言うのはフェアじゃないと思って。君は彼を気に入るかもしれないから」

彼女は正面を向いたまま、少し笑った。

「君が合わない人とは、私も合わないと思うよ」

その言葉は、頭が理解しようとする前に、僕の胸の辺りを温かくした。

「そっか」

僕も正面を向いたまま、少し笑った。

北陸の灰色の空。晴れ間はすぐに消える。

世界が美しいと言うのは、早計だ。

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