忘れられない人

「忘れられない人はいますか?」

若い頃、宗教関係の仕事をしていた時に、ある宗教者の方に聞いたことがある。役得だ。

「いるよ」

彼はそう答えた。

「カミさん」

神さん?

「俺のカミさん、結婚した翌日に死んじゃってさ。やっぱさ、忘れられないよね」

…おっと、シャレではなかった。

「たとえばあんたに忘れられない人がいたとしてさ、まだ生きてるわけじゃん?それだけで羨ましいよ」

「忘れられない人は、どうやっても忘れられないんだよ。だって忘れられない人なんだから」

なるほど、トートロジーだ。

「だから忘れる必要はないの。でも、こじらせちゃダメ」

「その人はどこかで生きている。あんたはその人の幸せを祈る。それでいいじゃん」

彼はそう言ってカラカラと笑った。

そうか、祈るのか。

何かの時には、祈るのか。

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