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「人生リハーサル」シナリオ/『リハーサルを与えられた者の使命は』#100文字ドラマ

abさんの「人生リハーサル」のシナリオです。

あらすじ

 高校生の風間正義(17)には、毎日が二回ずつある。正義(まさよし)は、同じく毎日が二回あるという父・義之(45)から、「リハーサルを与えられた者の使命は、リハーサルを活かして人を救うこと」だと幼い頃から繰り返し教えられてきた。
 正義はある日、1日目のリハーサルで、幼馴染の上野隼人(17)が車に轢かれるところを目の当たりにする。これまで正義は忠実に父の教えを守ってきたが、隼人を救うことを躊躇する。なぜなら隼人は、正義がずっと片想いしていた同級生の佐々木美月(17)を、正義の想いを知っていながら奪ってしまったからだ。正義は幼い頃から何度も、好きになった人を悉く隼人に奪われていた。
 決心がつかないまま迎えた2日目の本番。リハーサル通り、隼人が車に轢かれそうになるが、正義は過去の悔しい失恋の記憶が蘇り、何もしない。しかし、間一髪のところで義之が現れ、隼人を車から救う。
 激しい罪の意識に苛まれる正義に、義之は「お前は人生リハーサルを与えられた人間として失格だ」と言い放つ。正義はその日を境に、毎日が一回ずつしかない普通の人間になってしまう。

登場人物

・風間正義(17)…高校二年生。毎日が二回ずつある。
・上野隼人(17)…正義の幼馴染。
・佐々木美月(17)…正義が想いを寄せている同級生。
・風間義之(45)…正義の父。毎日が二回ずつある。

シナリオ

○歩道(朝)
   歩いている、制服姿の風間正義(18)。
   と、その正面から来る小さな男の子、道端の石に躓いて転ぶ。
男の子「うわあああん」
   と、泣き出す。
   正義、男の子に駆け寄って。
正義「大丈夫?!」
男の子「痛いよお」
正義「うわ、派手に擦りむいちゃったね……」
   男の子の膝、血が出ている。
   と、男の子の母親、急いで駆け寄ってきて。
母親「翔!大丈夫?!」
男の子「ママ!」
   と、母親に抱きつく。
母親「(正義に向かって)すみません、ありがとうございます」
   と、頭を下げ、翔の手を引いて去っていく。
   神妙な面持ちで二人の姿を見送る正義。

○学校・教室(朝)
   お喋りをしている生徒たち。
   黒板の日付、「3月3日」と書かれている。
   正義、入ってきて自分の席につく。
   その隣の席、佐々木美月(17)が座っている。
美月「あ、正義くん! おはよう!」
正義「(照れて)お、おはよう!」
美月「ねえ正義くん、数学の課題やってきた? 私、わかんない問題あるんだけど」
正義「え、数学って課題あったっけ?!」
美月「あれ、正義くん忘れてたの? 今日提出だよ?」
正義「うわ、やっば……」
美月「じゃあ誰か他の人に聞いてみようかな」
正義モノローグ「最悪だ……せっかく美月に良いところ見せるチャンスだったのに!」
   と、上野隼人(17)、背後から来て。
隼人「みーつき! 俺が見せてやるよ」
美月「わ、隼人くん!」
隼人「数学の課題だろ? 俺、全部やったから」
   と、美月の机にプリントを置く。
美月「(プリントを見て)わー! 隼人くん、ありがとう!」
正義「……(がっかり)」
隼人「正義、忘れてたんだろ? お前も急いで写せよ」
正義「ああ、うん……ありがと」
   と、落ち込みながらも急いでプリントを埋めていく。
正義モノローグ「明日で取り返すしかないな……!」

○歩道(朝)
テロップ「翌日」
   歩いている、制服姿の正義。
   その正面から男の子が歩いてくる。
正義「やばい、急がないと!」
   道端に落ちている石を慌ててどかす正義。
   男の子、何事もなく歩いていく。
   と、男の子の母親、男の子に駆け寄って。
母親「翔! 先に行っちゃだめって言ってるでしょ?」
男の子「だってママ遅いんだもーん」
   と、手を繋いで歩いていく男のこと母親を見守る正義。
正義「これでよし、と」

○学校・教室(朝)
   お喋りをしている生徒たち。
   正義、入ってきて自分の席につく。
   その隣の席、美月が座っている。
美月「あ、正義くん! おはよう!」
正義「(照れて)お、おはよう!」
美月「ねえ正義くん、数学の課題やってきた? 私、わかんない問題あるんだけど」
正義「ああ、やってきたよ! よかったら見る?」
   と、鞄からプリントを出し、美月に渡す。
美月「わー! 正義くん、ありがとう!」
正義「(照れて)いえいえ」
美月「私、ほんと数学苦手なんだよね」
正義「あ、俺でよかったら今度教えるよ?」
美月「ほんと? やったあ」
   嬉しそうな正義。
正義モノローグ「俺はこうして、昨日のミスを取り返すことができる」
   「3月3日」と日付が書かれている黒板。
正義モノローグ「なぜなら、俺には毎日が二回ずつあるから。一日目はリハーサルで、二日目が本番。リハーサルがあるおかげで、俺の人生はなんでも上手く……」
   と、隼人、背後から来て。
隼人「みーつき! 数学なら俺の方が得意だぞ」
美月「わ、隼人くん!」
隼人「俺、小学生のときから数学得意なんだよ。なあ、正義?」
正義「あ、まあ、そうかもしれないけど」
隼人「な? だから俺が美月の先生になってやるよ!」
美月「えー、そんなに得意なら隼人くんに教えてもらおうかな」
正義「……(がっかり)」
   楽しそうに喋っている隼人と美月。
正義モノローグ「こんな風に、リハーサルをしても上手くいかないことだってある」

○歩道(夕)
   道端に落ちているビー玉を拾っている、正義の父・義之(45)。
   と、正義、歩いてきて。
正義「あれ、父さん?」
義之「おお、正義。学校終わったのか?」
正義「うん。父さん、何やってんの?」
義之「このビー玉な、昨日のリハーサル通りにいけば、今からここを通りかかる男の子が拾って飲み込むことになってたんだよ」
正義「え、そのビー玉を?」
義之「小さい子は何でも口に入れようとするからな。しっかり回収しておかないと」
   と、ビー玉をポケットに入れる。
   正義と義之、並んで歩き始める。
正義モノローグ「そう、父にも毎日が二回ずつある。俺は小さい頃、それが普通だと思っていた。けれど、普通の人にはリハーサルなど存在しないということを、俺は父から教わった」
義之「正義、お前、リハーサルを無駄にしてはないだろうな?」
正義「してないよ。今朝も転んでけがするはずの男の子助けたし」
義之「よし、それでいい……俺たちはリハーサルがある分、いろいろ人生で得をすることも多いだろう? でもな、この能力は、自分のためにあるわけじゃない。人様を救うためにあるんだ。決して、リハーサルを私利私欲のために悪用するなよ」
正義「はいはい、その話、もう何万回も聞いたから」
義之「まあ、お前もそれなりに人助けをしてるみたいだが……これからもリハーサルを活かしていろんな人を救ってあげるんだぞ。それが俺たちの使命だからな」
   並んで歩いていく正義と義之。

○学校・教室(夕)(日替わり)
   窓の外、きれいな夕焼け。
   黒板の日付、「3月4日」と書かれている。
   席に座り、「進路希望調査」を書いている正義。
   と、隼人、駆け寄ってきて、正義の進路希望調査を取り上げる。
正義「おい、隼人! 何するんだよ」
隼人「へー、正義、やっぱA大志望なのかあ。俺もA大目指そっと」
正義「(進路希望調査を取り返して)別に、俺に合わせることないだろ」
隼人「え、お前は俺と別々の進路になって寂しくないのかよ?! 俺たち、幼稚園の頃からずっと一緒なのにさあ」
正義「高校まではまだしも、さすがに大学からは自分で決めた方がいいよ。隼人ならA大より上も目指せるだろ?」
隼人「えー、俺、正義がいないと寂しいもーん」
   と、進路希望調査に正義と同じく「A大」と書く。
隼人「よし、これで提出しよっと! ……あ、そうだ、正義……俺、お前に言わなきゃいけないことあってさ」
正義「なんだよ、急に深刻な顔して」
隼人「実は、さ……俺、美月と付き合うことになったんだ」
正義「……(ショック)」
隼人「ごめん! 俺、お前が美月のこと好きなのは薄々勘付いてたんだけどさ、俺も美月のこと好きだったから……美月から告白されて、どうしても断れなかった」
正義「……そっか。おめでとう」
隼人「ごめんな、正義。前も同じようなことあったのに、俺、また」
   正義、最後まで聞かず、鞄を掴んで出て行く。
隼人「正義!」

○歩道(夕)
   むしゃくしゃした様子で歩いている正義。
正義モノローグ「いつもそうだ。幼稚園の頃からずっと、隼人は俺の好きな人を、平気で奪っていく。初恋のアヤちゃんも、小学生のときに好きだったカナミちゃんも、中学の頃に初めて付き合ったユイちゃんも、みんな隼人に取られていった(一人一人、失恋の記憶がフラッシュバックする)」
   と、隼人、向かい側の歩道から走ってきて。
隼人「正義! ちょっと待って! 俺、ちゃんと謝りたいから!」
正義「(ちらりと隼人を見るが)……」
隼人「正義、待てって!」
   と、信号のない道路を横断し始める。
   そこに猛スピードで走ってくる車。
   次の瞬間、「ドン!」と大きな音が響く。
正義「……?」
   と後ろを振り返ると、倒れている隼人と、止まっている車。
   隼人の額から、血が流れている。
   正義、腰が抜けたようにその場に尻もちをつく。
正義「は、隼人……」
   車から降りてきた男、青ざめた顔でスマホを耳に当てている。
男「い、今すぐ救急車お願いします!」
正義モノローグ「落ち着け……大丈夫、今日はリハーサルだ。明日の本番で事故を防げれば、隼人は……」
     ×   ×   ×
(フラッシュ)
   過去のアヤ、カナミ、ユイとの失恋の記憶。
     ×   ×   ×
(フラッシュ)
隼人「実は、さ……俺、美月と付き合うことになったんだ」
正義「……(ショック)」
     ×   ×   ×
(フラッシュ)
隼人「へー、正義、やっぱA大志望なのかあ。俺もA大目指そっと」
     ×   ×   ×
正義「俺は、これからもあいつに……」

○学校・教室(翌朝)
   「3月4日」と日付が書かれている黒板。
   思い詰めたような表情で自分の席に座っている正義。
   隣に座っている美月、正義を見て。
美月「正義くん、なんか今日元気なくない? 大丈夫?」
正義「(無理に笑顔を作って)ああ、大丈夫大丈夫!」
   と、隼人、入ってきて。
隼人「正義、おはよう! 美月も!」
美月「隼人くん! おはよう!」
正義「……お、おはよう」
隼人「正義、お前どうしたんだよ、そんな青ざめた顔して。具合でも悪いの?」
美月「やっぱ正義くん具合悪そうだよね? ほんとに大丈夫なの?」
正義「大丈夫だよ、ほんと、具合悪いとかじゃないから……」
   机の下の正義の手、小刻みに震えている。

○同・同(夕)
   窓の外、きれいな夕焼け。
   席に座り、「進路希望調査」を書いている正義。
   と、隼人、駆け寄ってきて、正義の進路希望調査を取り上げる。
正義「おい、隼人! 何するんだよ」
隼人「へー、正義、やっぱA大志望なのかあ。俺もA大目指そっと」
正義「(進路希望調査を取り返して)別に、俺に合わせることないだろ」
隼人「え、お前は俺と別々の進路になって寂しくないのかよ?! 俺たち、幼稚園の頃からずっと一緒なのにさあ」
正義モノローグ「どうしよう。このままじゃ昨日と全く同じだ……」
隼人「俺は正義がいないと寂しいもーん。これで提出しちゃおっと」
正義モノローグ「どうするんだ、俺。俺はどうするつもりなんだ……」
隼人「……あ、そうだ、正義……俺、お前に言わなきゃいけないことあってさ」
正義モノローグ「まさか俺、このまま隼人のことを……」
     ×   ×   ×
(フラッシュ)
   過去のアヤ、カナミ、ユイとの失恋の記憶。
     ×   ×   ×
正義モノローグ「もし俺がこのまま昨日と同じ行動を取れば、もう隼人に好きな人を奪われることも……」
隼人「実は、さ……俺、美月と付き合うことになったんだ」
正義「……」
隼人「ごめん! 俺、お前が美月のこと好きなのは薄々……」
   と、正義、最後まで聞かず、鞄を掴んで出て行く。
隼人「正義!」

○歩道(夕)
   動揺した様子で足早に歩いている正義。
   と、隼人、向かい側の歩道から走ってきて。
隼人「正義! ちょっと待って! 俺、ちゃんと謝りたいから!」
正義「……」
隼人「正義、待てって!」
   と、信号のない道路を横断し始める。
   そこに猛スピードで走ってくる車。
   立ち止まり、恐怖で目を瞑る正義。
   と、「キキイッ」と、車が急ブレーキを踏む音。
正義「(恐る恐る目を開け、後ろを振り返って)……!」
   道路に倒れている、隼人と義之。
   正義、腰が抜けたようにその場に尻もちをつく。
正義「なんで、父さんが……?」
   驚いて起き上がる隼人。
隼人「あれ、正義のお父さん?! 大丈夫ですか?!」
   と、倒れている義之を慌てて揺さぶる。
正義「まさか、父さん……」
   と、義之、ゆっくりと起き上がる。
義之「よかった……隼人くん、危なかったな。だめだよ、ろくに周りを見ないで道路を渡ったりなんかしたら」
隼人「すみません……俺、お父さんが助けてくれなかったら、今頃……」
   車に乗っていた男、降りて来て。
男「(動揺して)すみません……! 二人とも、け、怪我は……?!」
義之「ああ、どこも怪我してませんから、大丈夫です。でもねお兄さん、ちょっとスピード出し過ぎですよ。もちろん急に飛び出してきた隼人くんも悪いが、気を付けないと」
男「すみません、急いでて……これからは気を付けます……!」
   尻もちをついたまま動けないでいる正義。

○歩道(夕)
   並んで歩いている正義と義之。
正義「(激しく動揺した様子で)と、父さん、俺……」
義之「お前はリハーサルを与えられた人間として失格だ。この能力は人様を救うためにあると、あれだけ言っただろう」
   その場にしゃがみ込み、声を上げて泣く正義。
正義モノローグ「この日を境に、俺はリハーサルを失った」

<完>      

最後にひとこと

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!今回のストーリーでは隼人はそこまで極悪人?(笑)ではありませんが、隼人の立場の人をもっと冷酷な人(例えば会社でパワハラを繰り返す上司、もっと言えば殺人犯とか)にして、「それでも救うのか?」というストーリーにしてもいいのかな、なんて思ったりもしました。


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