「訪問者」シナリオ/『桜子さんの企み』#100文字ドラマ

サトー兄弟さんの「訪問者」のシナリオです。

あらすじ

 大学三年生の秋山周平(21)は、彼女の内山花音(19)の誕生日プレゼントを買うため、「一日留守番をするだけで日給10万円」というバイトに応募する。バイトを依頼してきたのは、ごく普通の主婦・伊崎桜子。娘の亜実(赤ちゃん)を家に一人で残しておけないから、自分が出かけている間、周平に家に居てほしいとのこと。桜子は、「もし誰かが訪ねてきたら、『桜子さんは近くに買い物に出ているだけ』と伝え、家で待っていてもらうこと」「周平も含め、絶対に亜実がいる奥の部屋に人を入れないこと」という約束をさせ、外出する。
 周平が留守番をしていると、警察官がやって来て「この近くで赤ちゃんの誘拐事件があった」と言う。周平がまさか、と青ざめていると、次に斎藤大地(26)が来て、「桜子さんは子どもを産めない体なんだよ」と語る。周平がますます動揺していると、次に田村梓(25)が来て、「あの女(桜子)と徹さんの間に子どもなんているわけがない」と言い出す。
 そこに桜子の夫・伊崎徹(30)が帰宅し、周平が止める間もなく奥の部屋に入ってしまう。すると、ベビーベッドには亜実の姿はなく、代わりに「亜実を連れて、愛するYくんとどこか遠くで暮らします」というメモと、離婚届が置いてあった。周平は、”Yくん”とどこかへ逃げた桜子から、「逃げるための時間稼ぎをお願いしたかった」と電話で告げられ、無事に部屋に置いてあったバイト代の十万円を手にする。

登場人物

秋山周平(21)…大学三年生。
内山花音(19)…周平の彼女。

伊崎桜子(28)…周平に留守番のバイトを依頼する主婦。

<訪問者>
伊崎徹(30)…桜子の夫。
斎藤大地(26)…桜子の彼氏。
田村梓(25)…徹の愛人。
警察官

シナリオ

○マンション・部屋
   リビングでお茶を飲んでいる秋山周平(21)。
   と、伊崎桜子(28)、奥の部屋から出てきて。
桜子「亜実、今ちょうどぐっすり寝てるわ」
周平「ああ、よかった」
桜子「赤ちゃんの寝顔って、ほんとにかわいいわよね。それが自分の子どもってなったらもう、天使にしか見えないわ」
周平「(微笑む)」
周平モノローグ「今この光景だけを切り取れば、”子どもが生まれたばかりの幸せな家庭”に見えるだろうか? でも、この人は(微笑んでいる桜子)俺の奥さんじゃないし、ましてや俺に子どもなんていない。俺は、バイトをするためにこの家に来たのだ」

○とあるベンチ(回想)
   並んで座っている、周平と内山花音(19)。
花音「ねえしゅうちゃん、これ見て!」
   と、周平にスマホの画面を見せる。
周平「んー?」
   スマホの画面、通販サイトのネックレスの写真が表示されている。
花音「それ、めちゃくちゃ可愛くない?!」
周平「ああ、確かにかわいいね……って、十万?!」
花音「私、来週誕生日じゃん? しかも記念すべき二十歳だから、ちょっと良いネックレスほしいなあ、なんて……あ、でもね、もちろん強要はしないよ?! しゅうちゃん年上で私よりは余裕あるかもしれないけど、それでもかなり高価なものだし……」
周平「ら、来週までに十万……」
花音「ほんとにね、無理はしないでほしいんだけど、そんな素敵なネックレスもらったらさらにしゅうちゃんに惚れ直しちゃうなあ、なんて」
   と、とびきり可愛らしく上目遣い。
周平「(完全にハートを射抜かれて)わかった! 花音、誕生日期待しといて!」
花音「えー! ありがとう、しゅうちゃん!」
   花音から顔を背けたところで、一気に困り顔になる周平。

○周平の部屋(回想)
   必死の形相でスマホを操作している周平。
周平モノローグ「愛する花音の手前、かっこつけてしまったが、貧乏大学生の俺にはほとんど貯金がない」
周平「来週までに十万って、そんな割の良いバイトあるわけ……あ」
   と、スマホを操作する手を止める周平。
周平「あった」
   スマホの画面、『日給10万、その場でお渡しします』という文言。

○マンション・部屋(回想戻って)
   リビングで話している周平と桜子。
周平「桜子さん、ほんとに留守番してるだけで十万もいただいちゃっていいんですか?」
桜子「ええ。基本的には留守番してるだけでいいんだけど、一つ、お願いがあるの」
周平「まあ、十万もいただくんですから、そうですよね! なんでしょう?」
桜子「もし私のことを探して誰かが訪ねてきたら、ここで待ってもらってほしいのよ。桜子さんは近くに買い物に出てるだけだから、って言って」
周平「はあ……じゃあ、この部屋に上げて、一緒に桜子さんの帰りを待ってればいいんですか?」
桜子「そうよ。でもね、亜実が寝てる、奥の部屋には絶対に入れないで。あ、秋山くんも入ったらだめよ」
周平「え、でも、赤ちゃんを放置するのって、危なくないですか? 俺、てっきりお子さんのお世話を頼まれるのかと……」
桜子「大丈夫よ。亜実、一回寝たらしばらく起きないし。それにね、お世話してほしいならベビーシッターにでも頼むわよ。その方が断然安上がりじゃない?」
周平「確かに……」
桜子「まあ、万が一亜実が泣き始めたりしたら、さっき教えた番号に電話してくれる?」
周平「はあ……とりあえず、桜子さんの許可なしに入っちゃだめなんですね?」
桜子「そうよ。あ、もし訪ねてきた人に怪しまれたら、桜子さんのいとこです、とか言って適当に乗り切って? とにかく、奥の部屋には入らせないようにして待っててもらえればそれでいいから」
周平「上手くできるかな……」
桜子「十万も払うんだから、それくらいの演技は頼むわよ。じゃあ、私そろそろ行くから。よろしくね」
   と、出ていく。
   残された周平、訝しげな表情で首を傾げる。
     ×   ×   ×
   お昼のワイドショーが放送されているテレビ。
   テレビを観ながらソファに寝転がっている周平。
周平「ま、こうやってだらだらしてるだけで十万もらえるならいいよなあ」
   と、ピンポーン、とインターホンが鳴る。
周平「げ、誰か来た……」
   と、渋々立ち上がり、玄関へ行く。
周平「(恐る恐る)はーい……」
男の声「(ドア越しに)○○警察署の者ですけど、ちょっとお話伺ってもいいですか?」
周平「警察?!」
   と、驚いてドアを開けると、警察官が立っている。
警察官「突然すみませんね、○○警察署の尾崎と申します」
   と、警察手帳を見せる。
周平「は、はあ……俺、ただ留守番してるだけのいとこなんですけど」
警察官「あ、そうなんですね。実は、この辺で赤ちゃんの誘拐事件がありまして、聞き込みしてるんですよ」
周平「あ、赤ちゃん……?」
周平モノローグ「まさか、奥の部屋にいる赤ちゃんって……」
警察官「はい、ユウヤくんという生後七か月の男の子なんですが、この辺で見かけたとか、何かご存知だったりしないですかね?」
周平「(ほっとして)ああ、男の子なんですね! なんだあ」
警察官「あれ、何かご存知なんですか?」
周平「あ、いえいえ、特に何も知らないです」
警察官「そうですか。ご協力ありがとうございました」
周平「いえいえ」
   と、ドアを閉める。
周平「ビビったあ……まさか、な」
   と、部屋へ戻る。
   落ち着かない様子の周平。
周平「(小声でぶつぶつと)でも、十万も払ってバイト頼むって、おかしいよな……亜実ちゃんって言ってたけど、ほんとは男の子の可能性も……?!」
   と、奥の部屋のドアノブに手を掛ける。
周平「でも、さすがに人の子どもの服脱がして確認するってやばいよな……いや、でも」
   と、ピンポーン、とインターホンが鳴る。
周平「まさか、警察が戻ってきたとか……?!」
   周平、慌てて玄関へ行く。
周平「はーい……?」
男の声「(ドア越しに)桜子さん、俺だよ!」
周平「警察じゃないな……あの、どちら様ですか?」
   と、恐る恐るドアを少しだけ開ける。
   そこには、若い男・斎藤大地が立っている(26)。
大地「あ、お前、まさか桜子さんの旦那?!」
   と、周平に掴みかかってくる。
周平「いやいやいや! 違いますよ! 俺は桜子さんのいとこです!」
大地「いとこ?」
周平「そうです! 俺、桜子さんの旦那さんにしては若過ぎないですか?! ね?!」
大地「まあ、確かにそうだな……悪かったよ」
   と、周平から手を離す。
     ×   ×   ×
   リビングで座って話している周平と大地。
周平「じゃあ大地さんは、桜子さんの不倫相手、ってことですか……」
大地「不倫相手って言うなよ! 俺は桜子さんと結婚するつもりなんだから!」
周平「ひいっ、すみません!」
大地「一昨日から桜子さんと連絡つかなくて困ってるんだよ。パートも休んでるし」
周平「あ、桜子さんってパートしてたんですね」
大地「お前、いとこなのにそんなことも知らねえのかよ。桜子さんは俺の働いてる会社でパートしてるんだよ」
周平「ああ、そこで出会って、不倫関係に」
大地「(遮って)だから不倫って言うなって!」
周平「ひいっ」
大地「それで、桜子さんはほんとに帰ってくるんだよな?」
周平「はい、桜子さんからそう言われてますから」
大地「さっき近くに買い物に行ってるって言ってたけど、近く、ってどこだよ」
周平「えっと、詳しくは知らないんですけど……」
大地「知らないって、俺は桜子さんが心配で心配で、わざわざ有給取って家まで来てるんだぞ?! ただ待ってろって言われても落ち着かねえだろ!」
周平「そんなこと言われても、知らないものは言えないですよ! でも、そんなに遅くはならないんじゃないですか? 赤ちゃんだっているんだし」
大地「はあ? お前、今、赤ちゃんって言った?」
周平「え、はい……普通、赤ちゃん置いてそんなに長時間出掛けないですよね?」
大地「赤ちゃんって、桜子のか?!」
周平「普通に考えてそうじゃないですか……?」
大地「そんなわけねえよ! 桜子さんは子どもが産めない体なんだぞ!」
周平「……えええええ?!」
大地「桜子さん、それで旦那とぎすぎすしてるっていつも嘆いてたんだよ。俺ならそんなことで桜子さんを責めたりしないのに」
周平「じゃ、じゃあ、(奥の部屋を見ながら)そこにいるのはほんとに誘拐された赤ちゃん……?」
大地「誘拐? お前、何言ってるんだ?」
周平「あ! いえ……」
大地「で、その赤ちゃんっていうのは? (立ち上がり、奥の部屋を指差して)そっちにいるのか?」
周平「(慌てて大地を制して)あ、いや、だめですよ! 桜子さんから誰も入れるなってきつく言われてますから!」
大地「はあ?! 俺はいいだろ、どけろよ」
周平「(ドアの前に立ちふさがって)ちょっと大地さん、ほんとにだめですって!」
   と、ピンポーン、とインターホンが鳴る。
周平「あ! 桜子さんが帰ってきたのかも! ほら、大地さん、一緒に行きましょう!」
   と、強引に大地を引っ張っていく。
     ×   ×   ×
   玄関のドアの前で大地を連れて立っている周平。
周平「はーい!」
   と、ドアを開ける。
   そこには、若い女・田村梓(25)が立っている。
大地「なんだ、桜子さんじゃねえじゃん」
周平「(行こうとする大地の腕を掴んで)大地さんちょっと待って! ……えっと、どちら様ですか?」
梓「徹さんの部下の田村梓です。桜子さんいらっしゃいますか?」
周平「えっと、桜子さんは近くに買い物に行ってるんです。うーんと、徹さんっていうのは……」
大地「わかった。お前、桜子さんの旦那の愛人だろ? 桜子さんが言ってたんだよ、旦那が会社の若い女と不倫してるって」
周平「W不倫……」
   大地、梓、ほぼ同時に。
大地「不倫って言うなって!」
梓「不倫って言わないで!」
周平「ひいっ、すみません!」
     ×   ×   ×
   ずかずかと部屋の中へ入ってくる梓。
   その後に続く周平と大地。
梓「私、今日は本当にここに赤ちゃんがいるかどうか、確かめに来たの。会社の人たちが、徹さんに子どもが生まれたって話してるの聞いて」
周平「(明らかに動揺して)え! それは……」
梓「何、もしかしてほんとにいるの?! ありえない!」
大地「なあ?! やっぱありえないよな?!」
梓「ありえないわよ! だって徹さん、私と出会ってからは奥さんとはそういう関係になってないって言ってたもん!」
周平「は、はあ……なんかもうドロドロ過ぎてよくわかんないな」
大地「こいつが言うには、あの奥の部屋に赤ちゃんがいるって言うんだよ」
周平「ちょっと、大地さん!」
梓「え、そうなの?!」
   と、ずんずん進み、奥の部屋のドアノブに手を掛ける。
周平「(慌ててドアの前に立ちふさがって)だめですよ! 桜子さんに絶対誰も入れるなって言われてるんですから!」
梓「どけてよ! 私、わざわざ有給取って確かめに来たのよ?!」
周平「とにかく、桜子さんはすぐに帰って来ますから! それまで待っててくださいよ!」
梓「何? そんなにこの部屋に何かあるわけ?」
周平「そんなの俺だって知らないですよ! 俺はただ、花音のためにどうしても十万円必要なだけで……(我に返って)あ」
大地「十万円?」
梓「何、もしかしてあんた、あの女に金もらってんの?」
周平「え、えっと……」
   と、ガチャリと鍵を回し、誰かが急ぎ足で入ってくる音がする。
   周平、大地、梓、はっとして後ろを振り返る。
   慌てた様子で入ってきたのは、スーツ姿の伊崎徹(30)。
梓「徹さん!」
徹「(息を切らしながら)桜子?! 桜子は?! (周平と大地を見て)ていうか君と君は誰だ?! 梓も、どうして」
周平「あの、桜子さんは、近くに買い物に行ってるだけで」
徹「(遮って)桜子にそうやって言えって頼まれたんだろう?!」
周平「えっ」
徹「あいつ、隙を見て俺から逃げようとしてたんだよ。さっき電話で確認したらパートも辞めてるって言うし……まさか、亜実も」
   と、奥の部屋のドアノブに手を掛ける。
周平「(慌てて)ちょっと、待ってください!」
   徹、周平が止める間もなくドアを開けてしまう。
   と、そこは子ども部屋だが、亜実の姿はない。
   ベビーベッドには、二枚の紙が置いてある。
周平「え?!」
徹「遅かったか……」
   と、膝から崩れ落ちる。
梓「やっぱり赤ちゃんなんていないじゃない!」
大地「桜子さんが子ども産んでるわけねえよな」
周平「どうなってるんだ……?」
   と、周平のスマホ、着信音が鳴る。
周平「(スマホを耳に当てて)もしもし? ……桜子さん?!」
   大地、梓、徹、一斉に周平を振り返る。
桜子の声「秋山くん、もう大丈夫だから、奥の部屋開けてもいいわよ。そこにバイト代の十万も置いてあるから」
周平「今旦那さんが来て開けちゃいましたよ……でも亜実ちゃんはいないし、一体どういうことなんですか?」
桜子の声「あら、そう。まあ、もう逃げきれたから大丈夫よ。秋山くんにはね、ちょっと時間稼ぎをしてほしかっただけなの」
周平「時間稼ぎって、何の……?」
桜子の声「私と彼が安全な場所に逃げるまで、ってところかしらね」

○海外っぽいどこか
   スマホを耳に当てて話している桜子。
   その隣には、亜実を抱っこした若い男が寄り添っている。

○マンション・部屋
   ベビーベッドに置いてあったメモを手に、震えている徹。
   メモには、『亜実を連れて、愛するYくんとどこか遠くで暮らしま
   す』と書かれている。
   さらに、もう一枚の紙は離婚届である。
   と、徹、周平からスマホを奪い取って。
徹「桜子! 悪かったよ! 確かに先に不倫してたのは俺だ。だから、桜子が不倫してたことを責めるつもりはない! 梓とも、他の女とも別れる、何でもする! だから戻ってきてくれ!」
梓「徹さん、最低……! 私は本気だったのに!」
大地「桜子さん、俺は本命じゃなかったってことかよ?! 子どもができない体っていうのも嘘か?!」
   周平、他の三人が騒いでいる中、ベビーベッドに置かれた封筒を手に
   取って。
周平「何かよくわかんないけど、これで花音にネックレスが買える……!」
   と、にっこり微笑む。
<完>

最後にひとこと

 最後まで読んでくださってありがとうございます!「桜子さんは赤ちゃんを誘拐してきたの?!」「桜子さんの狙いって?!」と、先が気になるような展開になれば……と思って書きました。まだまだ技術が足りないので、そう思ってもらえたかはわかりませんが……(笑)
 改めて、最後まで読んでくださってありがとうございました。全テーマのシナリオ書けるように頑張ります!

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