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[学内に畜舎!?]10年代伝説のアングラサークルに迫る

※本記事は、マガジン「変なサークル学会 調査報」の三本目として寄稿した記事である。

筆者は前回の記事で、2010年代後半のSNS上で大量の学生サークルが生まれた様子をレポートした。そして、そうしたサークルをその性質から「インフルエンサーサークル」と名付けた。

大変ありがたいことに多くの反響があり(当社比)、中にはサポート金を送ってくれる方もいた。

さて、今回は前回提示した概念である「インフルエンサーサークル」の実例を取り上げる。このインタビューを通して、あのサークルブームの実像に迫っていくのが今回の記事の目的である。取材対象は酪農系サークル「畜産大学」(仮称)である。なぜ仮称?と思った方もいるだろう。それは、このサークルがかなり過激な活動を行っていたためである

もちろん畜産系サークル自体はそれほど珍しくない。特に北海道に多く、帯広畜産大学の「酪農どうでしょう」や北海道大学の「にとべこ」などがある。これらのサークルは基本的には自ら動物は飼育せず、外部または大学公式の畜産施設の見学を行っている。一方で、鳥取大学のヤギ部や京都大学のクジャク同好会など、自ら動物を飼育することを活動目的としているところもある。

「畜産大学(仮称)」もまた自ら動物を飼育することを活動目的としていた。しかし、この畜産大学が他の畜産系サークルと異なっていたのは、彼らが無断で学内に畜舎を建設したことである。

写真はイメージです

繰り返しになるが、キャンパス内に畜舎を建設したのだ。それも無断でだ。これが許されるのは森見登美彦作品だけであって当たり前だが現実でそんなことをしたら大問題になる。特に大学の自治管理が厳しくなっている近年においては、許されるはずもない。

しかし、この畜舎は取り壊されなかった。

もちろん大学当局が存在を公認したわけではない。だから「匿名/仮称」なのである。この記事を書くことで、関係各所に迷惑がかかる可能性があるのだ。このインタビュー記事に嘘はないが一部ぼかしはある。ご了承をお願いしたい。

筆者は2月1日に鶯谷の某中華料理店にて、創設者のS氏(現在は卒業し社会人)にインタビューを敢行した。なぜ畜舎を建てたのか、そしてなぜそれが可能だったのかという謎に迫っていこうと思う。また後半部分では簡単にサークル運営の秘訣について伺ったので、最後まで楽しんでほしい。

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O(筆者):はじめまして、今日はよろしくお願いします。

S(S氏):よろしくお願いします。

※筆者とS氏は、変なサークル運営者仲間として以前から知り合いです。

サークル設立前夜について

O:早速ですが、設立までの経緯を教えてもらっても良いですか ?

S:もともと別のサークルにいたんです。はじめは真面目に活動していたんですけど、途中で辞めちゃって。そしたら暇になったので、友だちと「学祭でなんか出店しようか」ってなったんです。

O:たしか大学祭ではじめて「畜産大学(仮称)」って名前を使ったんですよね?

S:そうですね。なにを出店しようかってなったときに、当時部屋で余ってた〇〇があったから「それを販売しよう」って。それで、やるんだったら、どうしても陽キャ感欲しいなって話になって笑。テニサーとかの陽キャ団体が作ってるサークルTシャツみたいなのを作ったんです。

O:あっ、あれってサークル員の結束のためじゃなかったんですね笑

Tシャツ販売と学祭当日

S:それをTwitterに上げたら、「これ、いくらで売ってますか?」って聞かれて。お、コレは金になるなって...。まあ、ゆったら当時僕は3万円台の部屋に住んでましたし、他の連中は大学寮に住んでて、要は金がなかったんです。で、「売ります」って募集かけてみれば、売れるわ売れるわ笑

O:すごい笑、何枚売れたんですか?

S:65枚くらいですかね。50,000円くらい利益がでた。「お~やったぜ」ってなって、そこで出たお金で、テントとか色々買ったんですよね。それで、学祭当日になったら、新入生から「入れますか?」とか「何やってる団体ですか?」ってめっちゃ聞かれたんですよ笑

O:Tシャツあるし勘違いしますよね笑

S:そうなんです。はじめは「何もやってなくて...」ってちゃんと断っていたんですけど、あまりにも多いから「お、これはいけるのでは?」ってなり始めた。そこから、一発ネタからサークルになった印象です。だから畜産大学(仮称)って、サークルに入ってない寮の連中と、サークルを辞めた私が、不適合者同士の傷の舐め合いをしてたら勝手に始まったていう感じですかね。

O:私の運営していたトイレ研究会も、僕がサークル辞めて暇だったのと、なんか入りたいって人がいたので動いてった感じでした。それって結構「変なサークルあるある」かもしれません。

畜舎建設前夜について

O:学祭後、本格的に活動するわけですよね。

S:そうですね。当時、っていうか1回生の頃からなんですけど、「東北の田舎出身なのに全然農業をやったことがない」っていう謎のコンプレックスがあって。だからどうにかして、畜産や農業に関わるサークルをやってみたいなって思いがありました。

O:あーなるほど。

S:特に1回生の時からずっと動物を飼ってみたいなって思ってたんです。一回、下宿先の大家さんに飼っていいか聞いたことがあるんですけど、「動物禁止なのに良い訳ないだろ」って笑。

O:そりゃそうですよ笑。

S:それで外で飼える場所ないかなーって思ってたんです。そしたらちょうど、キャンパス内に謎のスペースを見つけた。大量にゴミが捨てられるし、草木も生い茂ってる。ここなら動物の小屋が立てられるな...って。そのときは1人だったから無理だったんですけど、今なら設計図を書ける人もいるし、手伝ってくれる人もいるし、だから最初の畜産大学の活動でそれをやろうって提案したんです。

サークルの外部支援者

O:建設費用は学祭の売上ですか?

S:7万円くらい足りなかったんですけどね。Twitterで「足りないから助けて」みたいにいったら、お金を寄付してくれる方がいて。

O:畜産大学シンパですね笑

S:ちょっと怖かった笑。そう、でその人たちの話を聞いてみて薄々思ったんです。どうやら僕らのことを左翼団体かもって勘違いしてるみたいで。僕らはそういう意図まったくなかったんですけど笑。

O:実際、初期の畜産大学(仮称)って、やってることが反権力的だし、ヒッピー的なDIY精神もあるし、そう解釈されてもおかしくないですよね。

S:なんか1回生のメンツとかみてても、もしかしてそれが理由で入った?みたいな人がチラホラいました。まあ、それはそれでありかなって。

畜舎建設の下準備

S:下準備としてまずは、バレないように畜舎を作るために警備員の見回りの時間を調べました。

O:え、それって職員から聞いたりしたんですか?

S:や、建設予定地を深夜交代制で監視しました笑、この曜日はこの時間に来るって把握して。僕たち、反社会的団体じゃないですし、怒られるのは嫌だったんですよね。いや、どうやっても怒られるんですけど。

O:そのときはバレて怒られるって思ってなかったんですか?

S:思ってなかったです笑。

O:いやいやいや笑。

S:いや、だって、こんなところ誰も来ないですし、みんなゴミ捨ててるし、畜舎があっても問題にならないだろって。それで2日かけて立てたんです。一日目の夜に土台だけ作っておいて、二日目に上を作って。だから、ほんとに一夜城ですよね。

畜舎の発覚

O:バレたのはいつですか?

S:翌日です笑、大学のメールに「これ作った人は名乗り出なさい」ってきて。やばいなって。動き早いし、メールの文面めっちゃ怒ってるし。なんでばれたんですかね。

O:あれ?僕当時SNS見てたんですけど、「畜舎作ります」って言ってませんでしたっけ?

S:言ってましたねえ。「建立した」ってつぶやいた。見てないと思ってたんですけどねえ。

O:いや、絶対見てますよ笑、Sさんのアカウント、他大学の私から見てもかなり目立ってましたし。

S:それで大学側の山田(仮名)さん。今でも覚えてる、山田さんだ。柔道やってそうなイカつい感じで、「おい、おめええら!」ってしっかり怒られて。一応、事前に2つ言い訳用意してたんです。一つが、みんなもゴミ捨ててるから、畜舎も捨てただけですっていう。もう一つが、もしものときのために畜舎を地面から浮かせてたんです。その時点で不動産じゃなくて、動産になる。言うならば背負ってるリュックを置いてるだけみたいな。

O:車輪つけるみたいな話はなんだったんですか?

S:それは教員の方のアドバイスですね。動産のアピールしたいのなら車輪をつけろって言われました。

VS大学

S:大学側には「勝手にゴミ捨てて申し訳ないです。他の人がゴミ捨てたら僕らも捨てます」って頭下げて何回も謝罪しながらも伝えました。そしたら「他の団体、どこが捨ててるの?」て聞かれたので、「〇〇サークル...✖︎✖︎サークル...」って名指しにして笑。「彼らが片付けたら僕も片付けます」って。長い議論の末、一旦保留になって。

O:笑

S:で、そうなると今度は大学側が言い方変えてきたんです。「ゴミ捨てるな」から「危ないから入るな」に。これって逆にいえば、「危なくなくなればいいんだな...」と。それで2日かけて、自然傾斜だったところに階段を作って、雑草も抜いて、一帯をコンクリートで固めて。「安全になりましたよ」って大学の方に見せたら、山田さんが階段を踏みしめながら「...良く出来てるなあ!!」って笑。

O:なんか許し始めてますね笑。

S:向こうも入試が近づいてきた時期だったからか、忙しくなって誰からも連絡来なくなって。「もしかして俺ら、見捨てられたんじゃないかな」って...笑。そこから当分連絡が来なかったんですけど、なんか山田さんが、別の部署に移動するってメールが来て。「お前たちのこと、後任に伝えたからな。今後はそっちと話してくれ」って完全に投げやりのメールが。で、後任の人に会ったら、山田さん以上にやる気がないゆるふわ系の人で、「へえ~~気をつけてねえ」って笑。

O:適当さに救われましたね笑。

学生自治について

O:いや、さっきから話がめちゃくちゃなんですよ....。学生自治が成立しちゃってるじゃないですか。

S:あっ学生自治の話だったら面白い話があるんです。自分が〇〇サークルのことをダシにして逃げたわけで、で謝ったんですよね。そしたら向こうも「ごめんなさい、勝手にゴミ捨てちゃって」みたいになって、お互い謝りまくってたら仲良くなった。
それで彼らに部室の獲得経緯を聞いたんです。そしたら、〇〇サークルの部室って、実はもともと畜舎のところに勝手に建てたみたいで。バラック小屋みたいなのを作って、それを取り壊す代わりに正式な部室作ってもらったって。

O:大学の自治空間ってこうやって生まれるんですね...。

畜産大学(仮称)の今

O:今は畜産大学(仮称)と関わりはありますか?

S:4年生の頭に引き継いでからは、ほとんどないですね。卒業後、久しぶりに学祭にいったんですけど、知らない人ばっかりだし、もう完全に別のサークルだなって笑。手伝おうとしたんですけど、ちょっと挨拶だけして返っちゃった。「畜産大学(仮称)が今後も残ってほしい」みたいな気持ちは全く無くて。あの頃に同期や後輩たちと楽しく過ごせた思い出だけで十分だなって。

O:僕もトイレ研やっててほんとうにそう思いますね...。

S:面白いのが、同期と後輩が今同じ会社にいて!それとたまに集まって、酒飲みながら「あのときの俺ら、なんであんなことやってたんだろう?」って笑。

O:うわー最高ですね!!!

組織運営について

O:組織運営の話に移りたいんですけど、組織化する上で困ったこととかってありますか?

S:んー特になかったですかね。もともと組織にするつもりはなくて、でも畜舎には動物がいるしで、思ったよりも責任ができた。でも、別に続けるのも、やめるのも自由だと思ってたましたけど、まあ、なるようになるだろって。一応、後輩に運営マニュアル的なのはあげたんですが。

O:どういうアドバイスを書いたんですか?

S:んー、アクティブメンバーを維持するために、定期的に所属してる感を出さないといけないとかですかね。学祭とか、あとはバーベキューとか。俗っぽいけど。

SNS運用について

O:SNS運用については何か意識していることってありましたか?畜産大学(仮称)さんってかなりバズってましたけど、ウケとかは意識してましたか?

S:正直かなり意識してましたね。といのも、そこ経由でしか人を集められないと思っていたから。

O:うまくいきましたか?

S:いきましたね。リアルでのつながりは欲しいけど、リアルの部活とかサークルとかは馴染めなかったり、Twitterにいるけどラブライブとかのオタクカルチャーには興味なかったり、そういう人たちが集まりやすかった印象です。実際みんな、ほどよい距離感で交流して、とくに大きな揉め事もなかったし、今でも仲良く集まれるのよかったです。あとは、SNS運用だと、活動内容が過激に見えないように親しまれることを意識してました。

O:イメージ戦略ですね。

S:そうです。後輩の就職活動にマイナスになるのだけは避けたいなと。自分のことは別に良かったんですど。まあ、はじめに畜舎建てちゃいましたからね...。だからできるだけ、クリーンな活動を広げて、畜舎のイメージを薄めさせたいなって。

O:SさんってSNS運用うまいですよね...。コツとかってあるんですか?

S:うーん、そうですかね。SNSでウケたのは、大学で動物飼っているっていうギャップがあったからですかね。あと、もともとメンバーにTwitterをやってる人が多かったから、身内だけで20人30人はリツイートしてくれますよね。常に火薬があった感じ。あとは、事前にたくさん射撃(筆者注:ツイートの下書き)を用意しておいて、受けそうなタイミングでそれを出すっていう。

現在のSNSとの関わり方について

O:でもあれだけ目立っていたのに、今は完全にSNSをやられてないですよね。大学も4年でサッと卒業して、会社も硬いところに入られたわけだし。

S:SNS楽しいんですけどね。予想通りバズった時に脳内麻薬めちゃくちゃでるし。でも、あんまりずっとフラフラしてたら、僕を見た後輩が「このままサークルにいていいのかな?」って不安になるかもしれない。だから、コンサルやら硬いところばっかり就活で受けて、一応一通り受かって。まあ、後輩に道は示せたしフェードアウトでいいかなと。

O:うわー偉い。変なサークル運営者って留年したり、就職しても前やってたサークルの人気に縛られて、なかなかSNS辞めれなかったりするんですよね。

S:結局は今やってることが楽しいかが大事だと思うよ。今僕は仕事も楽しいし、妻との暮らしも楽しいし。当時の人からすると、「あいつSNS消して、落ち着きやがった。ケッ」みたいに思うかもしれないけど、僕は僕で別の楽しさを謳歌してるというか。

O:なるほどなるほど。

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インタビューは以上になります。いかがでしたでしょうか。もしかすると、意外とあっけないと思った方もいるかもしれません。また、学生自治のための活動に従事している方からすると、政治色のなさに驚かれるかもしれません。

しかし、それでも私は畜産大学(仮称)の活動は、語り継いでいく意味があると考えています。理由は以下です。

(1)畜舎獲得の方法が柔軟で、興味深い
一般的に自治獲得というと、どうしても大学に対して強硬な姿勢が想起されます。しかし、畜産大学の場合は非常にあっさりしており大変興味深いです。ただし、筆者は学生自治についてそこまで詳しくないので、この例が珍しいのか判断できません。今後の宿題とさせていただきたいです。

(2)インフルエンサーサークルがどのように拡大するかの適切なサンプルとなる
インフルエンサーサークルの多くは元々実態がなかったが、次第に部員が集まり実態が生まれる、という流れを取ります。このサークルはまさにその流れ通りに拡大しています。また、外部の支援者がいるという話も興味深いです。サークルが成立するのは、サークル内部だけでなく、サークル外部の目も重要になってくると思われます。

(3)サークル運営方法として参考になる
個人的な話になってしまいますが、私はS氏を尊敬しています。それは多くのサークル設立者が留年したり、あるいはサークルの引き継ぎに失敗したり、あるいは卒業してもちょっかい出し続けたりしている中で、S氏は4年の頭で引き継ぎを終え、それ以降基本的にサークルと関わることなくストレートで卒業したからです。インタビューを通して分かったのはS氏自身の人柄。周囲の人や今現在を大切にするからこそ、それが可能だったのです。この話は、多くのサークル運営者の参考になると思います。(ある意味これが「大人」になるということかもしれません)

さて、以上のように、私個人として感じたことを簡単に書かせていただきました。もちろん、他にも多くの示唆に富むインタビューでした。この場を借りて、答えてくださったS氏に感謝を申し上げたいです。

変なサークル学会では、月1回~2回を目安に記事を公開しています。興味のある方は是非、マガジンのフォローをよろしくお願いします。


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