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ひそひそ昔話

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20歳前後までの忘れ去られた記憶を手繰り寄せて、話します。恥ずかしいので、ひそひそ喋るから耳を近づけて読んであげてください。
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#トラウマ

ひそひそ昔話-その14 2004年のライトフライ-

恐れるべくは、ライトに届くフライボールだった。絶望するべくはグローブからこぼれ落ちるであろうソフトボールだった。冬至の近い日曜日の夕方、紅白試合は佳境を迎えていた。 傾いていく太陽が僕の影をどんどん引き伸ばしていくのが分かる。僕は自分が日時計の一部になったように感じる。僕はその針なる自分の影に向かって早く4時を刺せと念じる。その鋭利な針の先でそいつを刺し殺せと強く願う。それが即ち練習の終わりの合図だからだ。 右打ちバッターよ、ここまで打たないでくれ。 ピッチャーよ、どうにか抑

ひそひそ昔話-その4 私を傷つけ続ける大人たち。永遠という、まんざらでもない表情で寄り添ってくる3つの顔-

乾いた泥を掴むと、ぽろぽろと崩れて地面に落ちる。どんな状態にも、どんな空間にもフィットするほどなめらかな身体を持っていたはずなのに、太陽のもとに晒されると脆くなってしまう。  私にとって怒りという感情はそういう具合に、時間が経てば経つほど無意味で無価値で、誰からも無関心であるみたいに、やがて心の片隅に掃きだめを作る。  私も忘れよう忘れよう、と何度も思うのだが、そういう怒りは、どうしようもないくらいに心の片隅で疲れ果てた姿で居座る。で、ことあるごとにその存在が引っかかってしま