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東南アジアドリーム

シーズンオフに入り日本に帰国し、
来季に向けてトレーニングをすると共に
JPVoltesFCとの契約を更新するか
また新たな移籍先を探すか悩んでいた。

そんな12月のある日
一通のメールが届いた。

「来季うちのチームの外国人枠として加入して欲しい」

同じフィリピンリーグに所属し
今年できたばかりの新興クラブであったが
来シーズンの国内タイトル、国際大会への切符を
獲得するため潤沢な資金と戦力補強により
強化を図るチームからのオファーだった。
後に聞いた話では監督が自分のプレーを
気に入って獲得を提案していてくれたらしい。
それを聞いてとても嬉しかった。

お世話になったJPVoltesFCを去る事は
難しい決断ではあったが、
クラブの獲得意欲は提示された契約内容に表れていた。
好待遇で外国人枠としては珍しい3年契約
年俸も充分に満足いくものだった。

ここで選手としての価値を更に見出す
絶好の機会だと思った。

こうして4シーズン目となるシーズンを前に
Davao Aguilas FC(以下Davao)と契約を交わした。

その後最悪の事態になるとは
この時は微塵も思わなかった、、、

年が明け1月のプレシーズンがスタート。
チームは昨年からメンバーが
ガラッと変わりほとんどが
ヨーロッパを中心に育った
ハーフのフィリピン人選手が占めた。

本当の意味での海外生活がスタートした。
選手のみんなが流暢な英語を話し
前所属クラブのように日本語を使う機会も
減り、日本人選手は自分の他にもう一人。
外国人であるのにも関わらず対等、
下に見られるくらいの態度にも感じた。

自分がチームの中で価値ある選手だと
いうことをまずは証明していく必要があった。
毎日の練習が刺激的で充実していた。

自分の強みは何かを常に考え
その強みをチームの中でどう活かすか?
ここを特に意識していた。
なぜならDavaoで任されたポジションは
主に右サイドハーフ、トップ下、
特にサイドハーフは今までやって来たことの無い
ポジションなので新鮮で
ただ迷いや試行錯誤の多い時間もあった。

シーズンの開幕に向けてチームを作っていく中で
個々の選手のレベルは高いが
チームとして機能していないように感じた。

「難しいシーズンになるかもしれない」

個人としてもチームとしても何か
噛み合っていない。
さらに追い討ちをかけるように
昨シーズンの終盤の試合で問題行為を
起こしてしまった自分は
協会から2試合の欠場処分を科された。

そんな中始まったリーグ戦
開幕から2試合を1勝1分でまずまずのスタート。
決して内容が満足いくものではないが、
最低限の勝ち点を積み重ねた。

3節目
Davaoでのデビューを果たし
そこから2試合でスタメンでプレー。
だが2試合をプレーした後
肝炎を患ってしまい入院と治療のため3試合を欠場。

上手くいかない日々が続いた。

約3週間チームを離れてしまい
その間チームは勝ち点を積み重ねるのに苦労し
内容も改善がなされないまま
苦しい時期を過ごしていた。

ここで最悪の事態が起きた。

チーム復帰を果たしてから2試合を終え、
監督が解任された。
新監督が来たと同時に恐怖を覚えた。

最初の練習では
スタメンでもサブ組でも無い。
完全に蚊帳の外になった。

それでもやるしかなかった。

とにかく毎練習を出し切る以外
もう何もできない。
練習を重ねる毎に少しずつ立場にも
変化が生まれた。

試合にはスタメンとして使ってもらえる所まで
信頼されるようになってきた。

だが監督は中間の移籍マーケットを前に
新たに2人の外国人選手を連れてきた。


「誰かがクビになる」


そんな不安の中で毎日を過ごした。
ただスタメンでコンスタントに試合にも
出場できていたし契約は3年ある。
監督との関係も良好になりつつあり、

「お前は移籍マーケットで放出しない。安心しろ。」

監督からも直接こう言われ、
自分でも大丈夫だろうと思っていた。

だが迎えた移籍マーケット初日

チームに自分の名前は無かった

チームからは何も連絡が無かった。
SNSを通じて自分がリストから外れた
ニュースを見て知った。

母からもチームのホームページに
名前が無くなっていることを知らされた。


東南アジアドリームを掴んでから
たった7ヶ月。

全てを失った


だが今だから言える。

この経験は自分を確実に成長させた。
プレー面での学びも多かった。
どうすれば自分が外国人選手として
価値を見出せるか。

苦しい状況が多かった中で
メンタル面での成長も大きく見られた。

「必ず見返す。」

そう強く思い再出発した。

そこから新たにチームと契約するまで
1年かかった。

つづく















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