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あなたの人生は何点ですか/週刊少年マガジン原作大賞・企画書部門応募作品

キャッチコピー(1文で50字まで)

生涯人生評価制度が導入された日本で、死者の人生を辿る主人公を通して「正しさ」の意味を問う物語

あらすじ(300字まで)

SNSの普及による監視社会に拍車がかかり続け、ついに自殺死亡率が40%を超えた日本。
その状況を打破するため、2090年に政府肝入りの政策「生涯人生評価制度」が導入される。
その制度は、死亡した日本国民すべての人生を人間とAIの手によって評価し、その内容に応じた勲章・褒章を与えるというものだった。
首相は叫んだ。「誇れる人生を全うしよう」と。

制度導入から30年。最高名誉を受けた父を持つ芝雪斗(しばゆきと)は、自らもエリート街道を進み、修士課程修了後に国家公務員となり、その2年後、評価調査部門に配属される。
そこで彼が目にしたのは、名誉に縋り、苦しみ、もがき、時に拒絶しあらがう、あらゆる人々の姿だった。

第1話のストーリー(1,000字まで)

評価調査部門内で、部門長とセクション長の計6名で会議が行われている。
部門長の長田がいう。

「本日配属の芝雪斗だが、最高名誉勲章受賞者である芝光太郎氏の息子だ」

小さなどよめきが起こるが、上原だけは関係なさそうな顔で窓の外を見ている。

「海外の大学で機械工学を6年学び、日本に帰国して国家公務員になった。2年間の監察期間をへて、評価調査部門が適切であると上が判断した。」
「ということはDevelop配属ですか」
AIのアルゴリズムを担当するセクション長の山本が発言した。

「いや、実は本人が強く再調査セクションを希望してるんだ」

再調査セクション長の上原も含め、全員が驚きの声を上げた。

上原が言う。「なんでうちなんですかよりによって。調査結果にクレームつけられた場合に再調査する泥臭い部署ですよ。そんなエリート坊ちゃん扱えませんよ。」

「本人がそれ以外のセクションなら配属を拒否すると言っている。君も知っての通り評価調査部門は特性上、AIと国家トップクラスの上級役人たちが問題なしと判断した人間しか配属させることができない。彼は10年ぶりのオールAだ。これを逃すわけにはいかない。」

こうして芝雪斗は26歳で評価調査部門・再調査セクションの担当者となった。

— 半年後

5年前に他界した高野宏一(78)の黒勲章授与に対し不服申し立て再調査依頼が入る。
匿名希望の代理人弁護士からのものであった。

死亡後に与えられる名誉は、冠位十二階をもとに紫、青、赤、黄、白、黒の6段階に分かれている。
名称はすべて「名誉勲章」であり、それに色がつく。正式表記は「名誉勲章-紫」等であるが、通称では「紫勲章」や「紫」と色のみで呼ばれることもある。

先輩の鴻巣美香(30)と再調査に乗り出した雪斗は、大企業の重役で、立派な人生を送ってきた高野が赤勲章を得ていることに疑問を感じない。

しかし再調査の結果、宏一は10代の頃に仲間と共に女性に乱暴を働き、妊娠中絶のうえ金で揉み消していた事実が発覚する。再調査依頼はその女性の母親によって行われたものだった。

雪斗は上司の上原と共に勲章剥奪を家族に伝えにいく。
理由の言及は秘密保持の観点で許されない中、雪斗は鷹の一家の横柄な態度に思わず理由を口にしてしまう。
しかし彼らは全てを知っており、そのうえで「そんなことは人生の評価には関係しない」と意に介さない。

思わず立ち上がりかけた雪斗を上原が止める。

第2話以降のストーリー(3,000字まで)

再調査部門の上原は高野一家に説く。

「怒りはわかる。そもそも人の人生を他人が評価すること自体が狂っている。
その評価が誰にとってなのか、何に対してなのかも、俺たちもわからない。
その時は正しかったことが、いまは正しくないこともある。
ただ、宏一さんが若い頃にしたことは、他人の人生を踏み躙ることだ。
それはいつの時代でも正しくない。
宏一さんももしかしたら良心の呵責があったのかもしれない。
そのために身を粉にして働いて、あなたたちにとっては最高の父親と夫だったのかもしれない。

それでも俺らは宏一さんに勲章は渡せない。
生き抜いたことに経緯は払うが、勲章は残された人たちのためにあるものなんだ。

明確に宏一さんに傷つけられた人間がいた以上、その人のために俺たちはそれを渡すことはできない。国家の名の下に勲章は剥奪とする。」

雪斗は4年前に亡くなった父親の言葉を思い出す。

「人生評価制度なんて恐ろしいだけの制度だよ。あの時正しいと思っていたことが、今になると正しくなかったりするんだ。俺にとって正しくても他人には正しくないこともある。正しさは時に人を傷つけることもある。名誉なんてそんな重たいものを、俺はお前に遺したくない。」

雪斗は上原に告げる。
「僕の父は人生評価制度を恐ろしい制度だと言っていました。僕に名誉なんで重たいものを遺したくないと。僕自身も母も、父の名誉に苦しめられたことが何度もあります。」

上原は「父の名誉に苦しめられた」という言葉を苦々しく思う。
「しかもお前の父親は殉職じゃない、純粋な貢献による初めての最高名誉授与だったからな」

雪斗「人は役割を与えられるとそれに相応しい振る舞いをしようとする。僕は最高名誉の父の息子で、母は妻でないといけなかった。それは苦しかった。でも、勲章を剥奪された遺族になった彼らにはまたきっと別の苦しみがあるのだとたまらない気持ちになります。」

上原「だからおまえは調査部門のしかも再調査セクションを希望したのか?」

雪斗「はい。僕はこの制度の恩恵を受けている人間だと思われて生きてきましたが、犠牲者だと思っています。ただ、いつも父がいっていたように目線を変えると物事は見え方が常に変わります。再調査セクションには性質上、複雑な案件が集まると噂を聞きました。ここでしか自分の中での制度に対する気持ちの整理はできないと思っています。上原さんはこの制度についてどう思いますか。」

上原「一言では説明できん。一つ言えるのは制度なんてのは誰かに利益があるからつくられるんだ。金で買われて調査結果をちょろまかしてる奴らだってうじゃうじゃいる。だが、たかが名誉、されど名誉だ。俺にできるのは、そんなことに巻き込まれた一般国民たちが満足のいく結果を出せるように努力するだけだよ。」

雪斗「たかが名誉、されど名誉」

上原「目的だった自殺率は実際に下がってはいるが、自殺して名誉剥奪になれば遺族に迷惑かけるから死にづらくなっただけだ。何も本質は変わっちゃいない。日本の監視社会を増長させる制度だよ。」

雪斗「上原さんはこの制度で幸せになった人を見たことがありますか?」

上原「建て付けとしては、この制度は人を幸せにするために生まれたんだ。くそみたいな制度だがそれが人を救うこともある。」

別件での再調査依頼が入る。消防士の父親を亡くした娘からの再調査依頼だった。

白勲章が与えられているが、市民の安全を守る消防士という職業からすると他の消防隊員に比べ階級が低いことに雪斗も疑問を持つ。
調査部門に嫌がられながらも詳細を追っていくと、救命のため建物内に突入した1名の消防隊員が命を落とした大規模火事の消防活動に、その父親が参加していたことがわかる。
亡くなった消防隊員には最高勲章が与えられていた。

再調査のために娘、早紀の元に訪れた雪斗は、悲痛な声を聞く。

「父はあの日のことをずっと後悔していました。非常に危険な状況の中、それでも父とバディの隊員は建物内に果敢に突入しました。しかし父は突入した瞬間にその先に進むことは不可能であると思ったそうです。奥から被害者の助けを呼ぶ声が聞こえてもそれは変わらなかった。その場に父が立ち竦む中、バディの佐藤さんは進まれました。そして被害者を救出したところで足を挟まれその場で動けなくなったそうです。救出された被害者の証言から、佐藤さんのご遺族から父はなぜ一緒に行かなかったのかと激しく叱責されました。」

「父はその責苦を一生受け続けました。私にも勲章はきっと大したものは残せない、すまない、と常々言っていました。私は勲章などどうでもいいと思いました。なぜなら私は父が生きて帰ってきてくれて嬉しかったからです。私にとっては正しい行いだったんです。」

「それでも今回、白勲章が与えられ周りの反応を受け続けるうちに、国によって私の父の人生が冒涜されたように感じたのです。誰に認められなくても私が知っていればいいのかもしれない。ただ、父は正しいことをしたのだとどうしても私は国に認めてもらいたいのです。そうではないと、父の人勢は多くの人に追って、間違っていたことになってしまう。」

雪斗はそれから、佐藤の遺族を繰り返し訪れ、佐藤自身が生前語っていたことや人となりを徹底的に調べ、当時その場面において早紀の父親が突入せずに立ち去ったのは正当な判断であったと結論づける。

しかし、監査部門、部門長および統括部門の審査の結果、立ち去ったことが正当な判断であったとは言えないと棄却される。

落胆する雪斗だったが、早紀は雪斗に感謝の意を述べるのだった。

「私の父親の人生を一人でも、深く知ってくれる人が増えたことを嬉しく思います。私はこれからも父の人生は胸を張れる正しい人生であったと信じて生きていきます。」

本来、亡くなった後に付与された勲章の階級は口外禁止である。これは遺族が不当な扱いを受けることがないように条文で定められているが、噂話はどこからでも流れる。
彼女はこれからも厳しい人生をしいられるかもしれない。

品行方正な人生とは、人に誇れる人生とはなんなのだろうか。
人生は思い描いていたように進むものじゃないだろう。
はじまりだけがあって、終わりのない物語だ。それを他人が評価するとは烏滸がましいにも程がある。
それでも遺された人間には「その人が正しく生きた証」が必要であることがある。
物事の多くは、遺された人間のためにある儀式であることが多い。
葬式はそれの最たるものだと雪斗は思っている。

遺された人間に必要な証であるのであれば、どうすれば正しい判断とできるのだろうか。
正しさとはなんなのか。
答えがでないまま、雪斗は眠りについた。


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