ある恋の成就

ある恋の成就
「君が好きだよ、本当に心から」
「だめよ、そんなこと、どうかおっしゃらないで・・私たちは肌の色が違いますもの」
「肌が黄色いってことが、そんなに気になるのかい?」
「ええ、だって、あなたの肌は雪のように白くて美しいわ」
「きみの肌だって、つやつやと輝いて、いかにも健康的でぼくは大好きだよ」
「嬉しい!でも私たち、こんなに傍にいるのに一つになれないのはなぜ?あなたに私のすべてを捧げたいのに」
「ぼくだって、きみと結ばれるのなら死んだっていいさ」
 
 その時だった。二人のいる、ひんやりした部屋の大扉がいきなり開かれたのは。見慣れた顔の、無精髭をはやした若い男が二人の視界に現れた。白のランニングシャツに<闘魂>と描かれた派手なボクサーパンツ姿のその男は、目ヤニのこびりついた眠そうな眼を上下左右に動かし、部屋中を気忙しそうに見渡している。
 
「怖いわ、もしかして今度こそ私たちの番かも・・」
「大丈夫、ぼくときみは愛を確かめあったのだから何が起ころうと平気だよ」
「そうね・・でも、こっちを見てるわ・・いやあ来ないで、きゃああ、助けてえ」
 
男はにんまりと笑い、扉の外の埃っぽくゴミゴミした広い空間に、二人を軽々とつかみ出した。それから彼らをその辺にぽいと転がすと、ふんふんと鼻歌を歌いながら、包丁を研いだり湯をぐらぐらになるまで沸かしたりしていた。
 と、その男は突然ギラリと黒目を光らせ、ぶるぶる震えている二人をにらみつけた。同時に男の毛むくじゃらの片腕がすいと伸び、乱暴な手つきで二人の純白の洋服をばりっと破り、すっ裸になった彼らをあっというまに熱たぎった油の中に落とし入れてしまった。一寸のためらいも見せず、情け容赦なく・・
 
「くそオ、また失敗しちまったぜ、最後の一個だったのに・・まあいいか、食っちまえばどうせ腹の中か」
 
 男はガス台の前で舌打ちをし、煙のたったフライパンの中身をいまいましげに見下ろしていた。白と黄色のまだら模様をした、できそこないの目玉焼きがジュージューとやかましい音をたてている。
 男のおかげで夢にまで見た願いがかない、二人はようやく一つに結ばれたのだった。今や、身も心も燃えつきそうなほど熱く、大波小波のようにとめどもなく打ち寄せてくる快感を思う存分味わっていた。
 
「愛してるわ、死にそうなくらいに」
「僕もだよ・・生まれてきてよかった」
「ああっ熱い、もうダメ、失神しそう、アッハンハーン」
「こっちもエクスタシー!」
 
 めくるめくような絶頂感の中、よだれをたらした男の「いただきまーす」という言葉は二人の耳には聞こえていなかった。
 

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