易経で学ぶ古代中国語《鬼方》
「鬼方」の意味について
いつの時代の中国にも、中央の朝廷に従わない異民族や抵抗勢力が存在しました。古代においてもまた然り。白川静氏の解説にもある通り、方とは朝廷に従わない異族全般を指す名称です。鬼方も数多く有る異族の一種であり、易経の世界を彩るアクターとして本文中に登場します。
易経の文中に於ける「鬼方」について
易経本文中に於いて、鬼方は高宗に討たれる抵抗勢力として登場します。高宗というのは帝王に対する廟号(死後の称号)のことで、ここでは殷代中期の王・武丁を指します。三年にわたる戦いの末、ようやく倒すことができたということは、鬼方はかなり手ごわい相手だったのでしょうか。高宗と鬼方の戦いを描写した上の一文ですが、実はその内容は歴史的事実ではなく、周代に作られた説話だそうです。
『殷-中国史最古の王朝』(落合 淳思)に依ると、殷代の最も信頼できる一次資料である甲骨文字に鬼方は確かに登場するけれども、その記述例は僅か10例に満たないとのこと。落合 淳思氏は上記の著書の中で、高宗が遠征の末討ったのは別の「方」であり、鬼方を討ったというのはあくまで説話であると述べています。
因みに最後の一文である「小人勿用(小人用いる勿れ)」ですが、これは、善悪の区別もつかない分別の無い人間を重大な事に関わらせてはいけないということであり、古代の戦争に限らず、現代社会におけるビジネスをはじめとするあらゆる場面に於いてもこの警句は適用できるでしょう。
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