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ペアーズ活動記②そのぬくもりに用がある

 仕事で課されるよりもヘビーな書類を休みの日に書いていたせいで、この9月はだいぶ忙しかった。そんな中でランナーズ・ハイ気味に実現させたアポ(男性との面会)は3件。それぞれの所感を簡単に列記する。

①Aさん
 Aさんは、メッセージへのレスポンスが異常に速かった年下の男性である。メッセージとサブ写真から、かなり近所に住んでいることが判明したため、こちらから夕食兼お茶に誘った。容姿の印象は写真よりも遥かに良かったが、のっけから話が止まらないマシンガントーカーで、私は始終目を回していた。相槌を打ちながらメニューを広げて「これ食べるためにお昼少なめにしたので、お腹空いてしまいました~」とオーダーを促しても、そこに気を配る様子もなく喋りまくる。私はマジで腹が減っていたので、半ば強引に相手の注文を決める展開になった。
 はじめは緊張しているのかと思い、端々で話題の拡張を試みたものの、音声編集済みYouTuberのごとき余白の狭さで、彼は己の道を突き進んだ。私は彼の勤め先の福利厚生にやたらと詳しくなった。勤務地が田舎にあることを除けば、これ以上ないくらいのホワイト企業である。読者に就活生がいたらこっそりオススメしたい。

②Bさん
 メッセージの段階から印象が良く、実際に会ってみても期待を裏切らなかった人である。かなり年齢が離れているので、最初のうちは恐縮されている感じがしていたが、打ち解けてきてからは楽しい時間を過ごせた。ちなみに、Bさんとは執筆時点で既に2回目のデートを済ませており、3回目にもなんとか漕ぎ着けられそうである。でも「三回目のデート神話では結ばれなくちゃおしまい」って、つばきファクトリーは言ってるんですよね……

③Cさん
 長年インターネットに打ち込んで培われたはずの勘が、見事に裏切られた。彼こそが前回の記事に登場した「ヤリモクっぽい人」である。下ネタを除けば電話での話しぶりも好印象だった。しかし、私は車から降りて彼をひと目見た瞬間に、写真では見抜けなかったヤバさを嗅ぎ取り、出会って早々から不安を覚えたのだった。
 気になったのは、無精髭と白髪交じりの茶髪、そして伸び切って色あせたTシャツ。写真のなかの彼は健康的に見えたが、実物は清潔感がかけらもなかった。食事後の車内で、嫌な予感は的中した。
 ランチの後はドライブでも、と事前に打ち合わせていたので、なんの疑問も持たずに助手席に乗り込んだが最後だった。彼は運転しながら私の股ぐらに手を滑らせてきた。蛇行する車体に生命の危機を感じ、激しく抵抗して気分が悪くなった旨を主張すると、私の車の停めてある駐車場に戻ることにはなったが、その道中で「せっかく遠くから来たんだから」と胸を触られた。意地でもガソリン代とメシ代の元はとってやろうという根性が伝わってきた。怖すぎて疲れたし、他に被害者を出さないうちに死んでほしい。

 レポートは以上である。Aさんはまだしも、Cさんのような人とうっかり出会ってしまうと、相当に気力を消耗する。とはいえ数少ないBさんのような異性と知り合ったところで、必ずしも私を気に入ってもらえるとは限らない。3人との時間は、アプリ婚活の大変さと、一期一会の重大さを、私に思い知らせたのであった。


 怒涛の9月が過ぎ、今は10月。ペアーズのメッセージも2,3人としかやりとりしなくなり、気温の下降にあわせて身の回りも落ち着いてきた。そんな私の心の隙間に、ここ数日で様々な人から「婚活を焦らせる」類の情報が舞い込んできた。そのすべてに少なからぬショックを受け、ひそかに打ちひしがれた。ここ1年近くエッチな掲示板ばかりを眺めてきたので、世俗の動きを一切感知できていなかった。私は28歳の1年間を、結婚には興味も実感もないそぶりをしながら、短絡的なスケベ心のために棒に振ったのだった。

 そして私はようやく、寂しいのだと気がついた。単身で田舎に移住して3年半、寂しさをはっきりと自覚したのはこれが始めてである。
 ペアーズの力でパンドラの箱を開けた今となっては、勉強や読書に没頭してもこの寂しさは覆い隠せない。そう簡単には得られない信頼関係を手に入れるには、青い山に分け入るようなひたむきさが肝要である。そのことに気付くにはもはや遅すぎる年齢に達してしまったが、努力して自分を変えていかなくてはならない。

 私がぬくもりという名のケモノ道にまみえる日は、果たして来るのだろうか。次回へ続く!(続かないかもしれない)

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