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ペアーズ活動記①ヤリモクとの遭遇、会社の先輩に垢バレ編

 8月下旬にペアーズを始めてみたところ、思いがけず面白い出来事にばかり遭遇するので、筆を取ることにした。ちゃんと出会えている同年代リアル友人の皆さんが使っているペアーズと私が使っているそれは、はたして本当に同じアプリなのだろうか? この記事を書いている段階で既に挫折しそうだが、一応は新たな展開に期待して、タイトルに番号を振っておく。

 この私が「なんとなく婚活してみようかな」と思ったきっかけはコロナ禍である。2020年9月7日現在、ここクソ田舎では、これといった正当な理由なく新型コロナウイルスに感染すると、アホほど厳しい社会的制裁が待っている。これは弊社が同時期に、不法行為を起こした社員と濃厚接触者認定された社員とを「社員としての自覚と責任を持て」という言葉をして同じように扱った(処分されたのは前者の社員だけであるが)ことからも明らかである。また、弊社とは無関係だが、コロナに感染した職員が勤務している事業所のガラスが割られる事件もあった。私には当面、この治安極悪タウンで生活する以外の選択肢がない。

 真剣な交際は負荷が大きいので、時々性欲だけアウトソーシングできれば良いか、と考えていた私の人生設計は、新型コロナウイルス感染拡大防止のために潰えた。私が相手をどのように思おうと、新しい性活用式下では、「正当な」性交渉にしか市民権が与えられていない。ならば、これを機に表向き真面目に生きてみようということで、1000万人が利用する国内最大級の恋活・婚活マッチングアプリ「ペアーズ(Pairs)」を使ってみることにした。

 プロフィール画像は、盛れた自撮りストックの中から最新のものを選択した。私はこう見えて、自撮りをかなりやりこんできた人間である。化粧のコンディションがよかったり、身体が絞れてきたなと感じたりすると、撮影しては非公開フォルダに画像を放り込んでいる。ペアーズの世界では、親しい友人の存在を仄めかして相手の信頼を得るため、他撮りの写真がもっとも有効とされているが、あいにく孤独な私にはそのような写真がない。

 次にプロフィールの文章。これには予めテンプレートが設定されており、空欄部分に自分に当てはまる情報を入力していけば完成するようになっている。ところが、テンプレをそのまま利用すると「普段は会社員の仕事をしています」のような、頓痴気な文が出来上がってしまう。私はテンプレの文章構成を意識しつつ、オリジナルのプロフィール文を仕上げた。当初は真剣な気持ちで他人と向き合いたいと思っていたので、絵文字などの虚飾は努めて排した。

 ところで、プロフィールの入力画面では、同性の「人気会員」、すなわち被いいね数が500以上の猛者たちのプロフィールを見ることができる。試しに覗いてみたところ、いかにもほんわか可愛らしい女性が「ピラティスはじめました(キラキラ)数カ月後には、ちょうどいい体型になっているはずです!期待していてください(ハート)」というようなことを仰っておられたので、ベランダから飛び降りたくなった。何食ったらそんな自己紹介が自然にスッと書けるようになるんだよ。

 プロフィールのほかにも、自分の趣味嗜好をアピールする「コミュニティ機能」がある。ミュージシャン、映画、作家などのほか、「寂しがり屋の一人好き」のようなお気持ち表現系のコミュニティもあり、どう見てもミクシィである。とはいえ、コミュニティ内で交流する機能はないため、できることは同じコミュニティから条件の合う人を探していいねするか、逆に条件の合う人がどんなコミュニティに参加しているか(参加コミュニティが重なると強調表示される)確認するくらいしかない。基本的にサービス開始時から更新されていないのか、ももいろクローバーZが5人だったり、Juice=Juiceが5人だったり、でんぱ組.incが昔の6人だったりするので、ちょっと残念ではある。まあ、こんなところでアイドルオタクと繋がっても意味がないので、どうでもいいんですが……

 とはいえこのような私にも、蓋を開けてみれば「いいね!」はそれなりについてきた。現状で100以下なので、残念ながらモテてはいないようである。メッセージは続いたり続かなかったりするが、人によって「コイツは無理~」の決め手が異なるので気にしないことにした。誰とマッチングしても特になんの感情の盛り上がりもないまま、今日の天気の話しかしない人からプロフィールの内容をくまなく質問する人まで、様々なタイプの異性とメル友になっていった。職場の男性陣はみな二回り以上高齢なので、同じ県に暮らす若い人たちの生活を知るのは純粋に楽しかった。

 何人かのメル友と、そろそろオフでも会いましょうか(これをマッチングアプリ界隈では「アポ」と呼んでいる)、という雰囲気になってきた頃、一人の男性から電話しませんかと誘われた。旅行や登山が好きなようで、やりとりしている人たちの中では、比較的良い印象だった人である。ただ一点、プロフィールで顔出ししていないのが気になった。

 約束の時間にペアーズのビデオ通話機能を繋いでみたところ、彼のカメラはオフになっていた。曰く、まだ仕事が終わらないのでオフィスからかけている、とのことであった。忙しいのに律儀だなと思った。はじめは、彼の趣味である旅行の話題から切り出してみることにした。なんでも中学生の頃から一人旅をしているとの話で、「そこ、普通に行けんの?」と驚くような場所にまで滞在していた。旅行エピソードは興味深く、掘り下げた質問をしてみると、報道などで知るイメージとは異なる回答が得られたりして面白かった。

 面白くて話しやすくていい人そうだな、と思った矢先に「僕は素敵だと思う人とは、最初のデートでハグとかキスとか、その先もしたくなっちゃうんだけど」と、彼は突然ヤリモク風の発言を繰り出してきた。非モテの国のアリスである私は気が動転して、「付き合ってない人としたことある?」との質問に、このnoteに書いてきた処女喪失の経緯などを赤裸々に答えてしまった。それからの会話はあまり子細に覚えていないが「学生なら徐々に仲を深められるが、社会人がアプリで恋愛するなら、一回のデートの密度を上げないと進展が厳しい」という説明には納得がいった。

 実際のところ、ヤリモク男子(便宜上こう呼ぶことにする)の生活圏との距離は、同じ県内といっても東京~高尾間かそれ以上離れており、他にマッチングした人たちもおおむね同様である。しかも、地域間の移動には峠などの難所の攻略が必須で、交際の拠点を「中間地点」とすることができない。したがって、どちらかが現状の生活を変えない限り、同居しながらの結婚生活は不可能だ。彼はできれば家庭を持ちたいと考えているらしいが、「素敵な人」との「結婚」はもはや諦めているのかもしれない。

 1時間の通話の後で、LINEアカウントを教えあって、写真も送ってもらった。この電話のおかげで、私は「結婚」よりも「素敵な人」を求めているのだと気づいた。互いの生活を脅かさず、楽しいことを共有して有事の際に駆けつけられる距離のパートナーが見つかれば、それはそれで幸せの形といえるのではないか。もとより私は、すべてを望めるほどの姿かたちで生まれてきていない。

 だったらやっぱり、オフパコで生きていくしかないのか――と考えながら、仕事とペアーズのメッセージを卒なくこなしていた。そんなある日、本社のボスに相談する用件ができたため、上司に伴ってボスの部屋へと向かった。ボスのスケジュール等を所管する課があるフロアを通ると、顔見知りの先輩が物凄く驚いた様子で立ち上がり、こちらに視線を送ってきた。嫌な予感がした。

 話が終わって退室しようとすると、受話器を持った先輩が恐ろしい表情で手招きをしてきた。そしてあろうことか電話を保留にして、私のもとへとにじり寄ってきた。

「ねえ……ペアーズやってるよね?」

 はい、としか言いようがなかった。この先輩は行きつけの松屋でもよく遭遇する、恐るべき人物である(現在は先輩が来店しそうな時間帯を避けて通っている)。先輩とは年がそれなりに離れているが、限界的境地に身を置く者同士、何かと重なり合う部分があるのかもしれない。「そのまんまの写真だから驚いたよ……いいねって感じで、がんばってね!」と言われて解放されたあと、車に戻って上司に事の顛末を話すと「そんなことを言うために電話を置くのはヤバイ」「そもそも同じ地域に住んでる人なんて全然いないでしょ、やめたら?」という、ごく常識的な返答が得られた。

 定時後、私は「もうあのフロアに行っても話しかけるな」と伝えるために、先輩のアカウント特定と突撃を決意した。年齢と職業が判明しているので、あとは推しの芸能人のコミュニティで試しにソートをかけてみたところ、あっさりとヒットした。当県の人口は想像よりはるかに少ないのである。

 どんなメッセージが返ってくるか、ワクワクしながら待っていたが、ログインの形跡があるにもかかわらず、丸2日経った現在も梨の礫である。自粛警察ならぬペアーズ警察なのかもしれないと思ったら、さすがの私も腹が立ってきた。私を監視してる場合じゃおまへんや、もっと真面目にやれ。

 以上がペアーズ初週の出来事である。今回は、ヤリモクと先輩を通じて、田舎の当県でアプリを使うことの限界と脅威を学んだ。次回の記事には、おそらくヤリモクと、近所に住んでいる男子とのアポレポートが掲載されるだろう。お楽しみに。

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