元芸人と元AV助監督の交換日記 #1 (いのり)

何か物事を始める時は「自己紹介」から始まる。これは相場で決まっている。「Bond. James Bond.」僕らの大好きなジェームズ・ボンドも女性と体を重ねる時でさえ自己紹介をしていた。だからこれは紳士の決まり事なんだと思っている。

「祈。白井祈だ。」ボンドに倣って名乗ってみた。全然しっくりこない。日本語だからなのか、僕の名前がダサイからなのか。ちなみに言うと僕の出身地もダサイ。味噌村こと愛知県のとある住宅街で生まれ育った。どれくらいダサイかと言うと同じ街の中に超至近距離で2つ駅がある。距離がさほど変わらないはずなのに運賃が倍になる。ダサイというよりキモい。
こんなダサくてキモい街から大学進学のために東京に来た。そして大学卒業後、有名なAVメーカーに就職した。これは本当だ。僕はよく「お前は嘘しか言わない」と言われる。だから「これは本当だ」という言葉を付ける必要がある。これだけで信用度が100%に跳ね上がる。これは本当だ。ちなみに言うと僕の「ナニ」はワニくらい大きい。これは嘘だ。

今日からA先輩と「交換日記」をすることになった。昨夜電話をしていて突然決まったことだ。この辺の経緯は違う時に話すとする。だから今日は先輩と初めて会った時のことを書くことにした。

僕らが出会ったのは大学の落語研究会だった。ずっとラジオが好きだった僕は「放送作家」になりたいと考えるようになっていた。だから「放送作家」=「お笑い」だと信じて疑わなかった。入学オリエンテーションを終えて建物を出ると、外には勧誘活動をするサークルで溢れかえっていた。僕は「落語研究会」と書かれた看板を見つけて一目散に駆け寄った。「落研」の部員一同は勧誘の群れから一際離れた場所にいた。勧誘のチャンスだというのに、新入生に見向きもせず雑談に興じる人がいた。それがA先輩だった気がする。その傍には「落語研究会」と書かれた看板がやる気のなさそうに立て掛けられていた。

実はここから僕らの間に会話はあまりなかった。A先輩は落研の中でも異様に怖い雰囲気を纏っていた。そのせいか結構な期間ちゃんと話すことができなかった。

僕とA先輩が仲良くなるのは1年くらい後のことだった。だけれど、僕は「この人と話すようになれば、認められるんじゃないか」と微かに感じていたのは確かなことだった。

まあ、今回は「交換日記」の初回。この辺でやめておこう。次回はA先輩の「交換日記」。

P.S. 先輩は僕が入学した時のことを覚えていますか。あと、言われてみれば先輩が落研に入部する時の話はあまり聞いたことがないです。


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