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読んだ本

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自分が読んだ本についての、感想、コメント、連想を、気ままに書いています。
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2021年10月の記事一覧

#154:北杜夫著『どくとるマンボウ医局記』

 北杜夫著『どくとるマンボウ医局記』(中公文庫, 1995年)を読んだ。単行本は中央公論社から1993年に刊行されたとのこと。  私には、10代後半から20代前半にかけて、著者の影響を大きく受けてた時期があった。最初に著者の作品を読んだのは、確か高校の教科書に載っていた「百蛾譜」だったと思う。そして、その後に読んだ『幽霊』にすっかり参ってしまったのだ。当時の私は、病弱で内向的な主人公の姿にずいぶん自分を重ねて読んでいたのだと思う。著者の影響を受けた私は『トニオ・クレーゲル』

#152:鶴光代・津川律子編『シナリオで学ぶ心理専門職の連携・協働 領域別にみる多職種との業務の実際』

 鶴光代・津川律子編『シナリオで学ぶ心理専門職の連携・協働 領域別にみる多職種との業務の実際』(誠信書房, 2018年)を読んだ。内容はタイトルの通りである。刊行時期からも、公認心理師の資格を強く意識した本であることがうかがわれる。今回私が本書を読んだのも、仕事で使ったり紹介したりする資料として役に立つかどうかを判断したかったためである。  各領域について、架空の事例を提示して、それをもとにそれぞれの領域において必要な知識や力量を解説するというスタイルになっている。読者の対

#151:立花隆著『エコロジー的思考のすすめ 思考の技術』

 立花隆著『エコロジー的思考のすすめ 思考の技術』(中公文庫, 1990年)を読んだ。元々は日本経済新聞社から1971年に刊行された本を改題して加筆したものとのことである。私が読んだのは中古の文庫本だが、現在は新装版が中公新書ラクレの1冊として刊行されているようである。  あとがきによれば、本書は著者の事実上のデビュー作とのこと。著者30歳時の著作ということになる。本書は「Ⅰ 人類の危機とエコロジー」「Ⅱ エコロジーは何を教えるか」の2部構成であり、前半ではエコロジーの考え

#149:佐藤岳詩著『心とからだの倫理学 エンハンスメントから考える』

 佐藤岳詩著『心とからだの倫理学 エンハンスメントから考える』(ちくまプリマー新書, 2021年)を読んだ。ちくまプリマー新書の一冊ということで、平易な体裁で書かれているが、内容は見かけよりもはるかにハードな本であった。  扱われるテーマは、美容整形から、スマートドラッグ、性の多様性の問題、遺伝子操作、そしてモラルエンハンスメント(この言葉は本書で初めて知った)まで、幅広い。これらのテーマを通じて問いかけられるのは、私たちが新しく手に入れた、そしてこれから手に入れるだろう科

#148:諸井誠著『交響曲名曲名盤100』

 諸井誠著『交響曲名曲名盤100』(音楽之友社, 1979年)を読んだ。というか、35年ぶりくらいに読み直した。もうずいぶん昔に手放してしまっていたが、ふと思い立って、某密林サイトで探してみたら、頃合いの値段で中古品が出ていたので、改めて手に入れた。  本書は私にとっては思い出深い本である。中学2年生頃から、熱心なオーケストラ音楽のリスナーになっていった当時の私にとって、吉田秀和著『LP300選』(新潮文庫, 1981年)と並んで、本書は未知の曲を聞き進めるための、そして貴

#145:吉田洋一著『零の発見 数学の生い立ち』

 吉田洋一著『零の発見 数学の生い立ち』(岩波新書, 1939年)を読んだ。調べてみると、岩波新書がいわゆる「赤版」としてスタートしたのは1938年とのことで、本書はその翌年に刊行され、二度の改版と改訂を経て現在も現役の、ロングセラーということになる。本書の存在は学生時代から知ってはいたが、実際に読んだのは今回が初めて。  古代から近代にかけて、算術と数学(両者が区別されてきたことを今回初めて認識した)がどのような問題に直面し、その課題や問題を乗り越えるために、長い時間をか

#144:湯川秀樹著『旅人 ある物理学者の回想』

 湯川秀樹著『旅人 ある物理学者の回想』(角川文庫, 1960年)を読んだ(私が実際に読んだのは、2011年に角川ソフィア文庫から発行された改版初版である)。「あとがき」によると、1958年に朝日新聞に連載され、同年に朝日新聞社から単行本として刊行された本が、早くも1960年に文庫化されて角川文庫におさめられたとのことである。朝日新聞への連載開始は著者51歳時、ノーベル賞を受賞して約9年後ということになる。  本書の内容は著者の半生を振り返ってたどるもの。本書で語られるのは

#142:館直彦著『ウィニコットを学ぶ 対話することと創造すること』

 館直彦著『ウィニコットを学ぶ 対話することと創造すること』(岩崎学術出版社, 2013年)を読んだ。本書は著者が「はじめに」の冒頭に書いているように、「ウィニコットの入門書」である。ウィニコットについて、関心がある、あるいはこれから学んでいきたいと考えている読者にとっては、本書は良い入り口となるだろう。  私はウィニコットについては詳しくないのだが、最近になってもう少し理解を深める必要があると感じるようになり、先日相当久しぶりに再読した『遊ぶことと現実』に続けて本書を読ん

#141:有栖川有栖他著『大密室』

 有栖川有栖他著『大密室』(新潮文庫, 2002年)を読んだ。本書は8人の作家による、タイトル通りに「密室」をテーマにした短編ミステリを集めたアンソロジー。1999年に新潮社から刊行された本を文庫化するにあたって、作品が一つ追加されているとのこと。本の作りからして、おそらくは、全作品が本書のための書き下ろしのオリジナル作品と思われる。  執筆陣は豪華だが、私見では、作品の水準のばらつきは大きい。「密室」へのアプローチの仕方はさまざまで(積極的な意味でもそうでない意味でもかな

#137:大竹文雄著『競争と公平感 市場経済の本当のメリット』

 大竹文雄著『競争と公平感 市場経済の本当のメリット』(中公新書, 2010年)を読んだ。著者の姿は以前Eテレで放映されていた『オイコノミア』でよく見かけており、本書を読んでいて、その語り口がしばしば思い出された。  私は経済学のことはほとんどわからず、あまり関心があるとも言えない。本書の内容は、経済や経済学の解説であるよりは、社会の一般の人々がそれをどのように認識したり感じたりして経済活動や労働を行なっているかに焦点を当てて解説したものであり、その点で興味深く読むことがで