マガジンのカバー画像

読んだ本

603
自分が読んだ本についての、感想、コメント、連想を、気ままに書いています。
運営しているクリエイター

2021年9月の記事一覧

#136:赤川次郎他著『ミステリーアンソロジー 現場不在証明』

 赤川次郎他著『ミステリーアンソロジー 現場不在証明』(角川文庫, 1995年)を読んだ。タイトル通り、さまざまな作家の「アリバイ」をテーマとした短編を集めた作品集である。収録されている作家は、収録順に赤川次郎、姉小路祐、有栖川有栖、今邑彩、黒川博行、高橋克彦、深谷忠記の7名。五十音順に収録されているようだ。  ネームヴァリューのある作家ばかりだが、収録作の水準はというと・・・私見ではあまり高いとは言えない。この中であえて作品をひとつ採るとするなら、私の感覚では、今邑彩氏の

#135:松木邦裕・藤山直樹著『夢、夢見ること』

 松木邦裕・藤山直樹著『夢、夢見ること』(創元社, 2015年)を読んだ。本書は出版社主催で実施されたセミナーでの、二人の著者の講義とそれについての質疑の記録を書籍化したものとのことである。そういう「出自」もあってか、ハードカバーでありながら約100ページとずいぶん薄い本である。そのように分量が少ない割には校正ミスが目立つのは気になるところではある。  ここ最近の読書経験から、面接においてクライエントが語ること、セラピストが聞くことを、夢を見ることになぞらえて考えてみること

#134:外山滋比古著『思考の整理学』

 外山滋比古著『思考の整理学』(ちくま文庫, 1986年)を読んだ。「今更感」がなきにしもあらずだが、読んでみた。手元にある本は奥付によれば「2014年4月5日 第99刷発行」とのこと。相当なロングセラーである。通常サイズの倍は高さのありそうな「腰巻き」には、「180万部突破!」とある。現時点では、どこまで版を重ねていることだろうか・・・。  内容は、著者流の「知的生産の方法」と言えばピッタリだろうか。確かに「思考の整理」をめぐる内容も多いが、「発想法」に関する内容もかなり

#133:マイケル・カーン著『セラピストとクライエント フロイト、ロジャーズ、ギル、コフートの統合』

 マイケル・カーン著『セラピストとクライエント フロイト、ロジャーズ、ギル、コフートの統合』(誠信書房, 2000年)を読んだ。原著は1991年に初版が出版されたのち、1997年に改訂版が出版されているようで、本書はその改訂版の方を翻訳したものということになるようだ。原題を直訳すれば、『セラピストとクライエントの間 その新しい関係』とでもなるだろうか。本訳書の副題はかなり思い切ったもので(笑)、「えっ?」と思わせる反面、ややミスリード気味と言えなくもない。  内容はタイトル

#132:坪内祐三著『考える人』

 坪内祐三著『考える人』(新潮文庫, 2009年)を読んだ。元になった本は2006年に新潮社から刊行されたとのこと。著者が少し前に亡くなったことはニュースで知っていたが、その文章を読んだことはなかった。たまたま古書店で見かけて予備知識もなく何気なく本書を手に入れた。  読んだ感想は、一言、「面白い」である。16人の著作家が取り上げられているが、そのうち私が読んだことがあると言えるのは、4人だけ。ほとんどが私にとっては名のみ知る人々であったが、本書を読んですべての人の著作を読

#131:岡野憲一郎編著『臨床場面での自己開示と倫理 関係精神分析の展開』

 岡野憲一郎編著『臨床場面での自己開示と倫理 関係精神分析の展開』(岩崎学術出版社, 2016年)を読んだ。本書は、同じ著者らによる『関係精神分析入門 治療体験のリアリティを求めて』(岩崎学術出版社, 2011年)の続編にあたる。  本書は5部構成で、中心になるのは、第2部「治療者の自己開示」、第3部「精神分析における現実」、第4部「精神分析における倫理」であり、それぞれのテーマについて複数(3〜4名ずつ)の著者の論考が並ぶ形になっている。こういう形で読むと、関係精神分析と

#130:坂本賢三著『「分ける」こと「わかる」こと』

 坂本賢三著『「分ける」こと「わかる」こと』(講談社学術文庫, 2006年)を読んだ。元の本は1982年に講談社現代新書として刊行されたとのこと。  第1章から第3章にかけては、古今東西の「分類」のやり方の事例が紹介されて、その原理が考察されている。興味深くはあるものの、私の教養不足のせいで、内容をあまりフォローできなかった(本書のテーマに即して言えば、基本にある著者の「分ける」やり方と私の「分ける」やり方との不一致が大きいパートであったという見方もできる)。  私にとっ

#129:恩藏茂著『『FMステーション』とエアチェックの80年代』

 恩藏茂著『『FMステーション』とエアチェックの80年代』(河出文庫, 2021年)を読んだ。元の単行本は2009年に河出書房新社から『FM雑誌と僕らの80年代 『FMステーション』青春記』として刊行されたとのこと。ちょっとレトロな感じはするけれど、私は元のタイトルの方が好み。本書は新刊書店の店頭に並んでいるのをたまたま見つけて購入した。表紙カバーが素敵。読み始めると面白くて、一気に読んでしまった。  80年代は、私にとっては、中学・高校・大学がほぼすっぽりと収まる時期にあ

#128:吾妻壮著『精神分析的アプローチの理解と実践 アセスメントから介入の技術まで』

 吾妻壮著『精神分析的アプローチの理解と実践 アセスメントから介入の技術まで』(岩崎学術出版社, 2018年)を読んだ。本書が想定している読者は、精神分析に関心はあるけれど、具体的にどのようにして精神分析的な心理臨床に取り組めば良いのかためらっている臨床家ということになるだろうか。どちらかというと、サイコロジストよりも、精神科医に向けて書かれているように感じられる。  私にとって最も興味深かったのは、第10章「精神分析治療における介入の多様性」と第11章「プロセスについての

#127:中井久夫著『「伝える」ことと「伝わる」こと』

 中井久夫著『「伝える」ことと「伝わる」こと』(ちくま学芸文庫, 2012年)を読んだ。本書には1980年代のものを中心に、さまざまな機会に発表された(あるいは未発表の)論文、エッセイ、対談などが納められており、著者の多面的な活動と姿を窺い知ることができる。  著者の文章は、私には穏やかに心地よく感じられる。本当は、「心地よく」という表現はちょっと違う。安心感を覚えると表現する方が近いかもしれない。なぜそう感じるのかはよくわからない。書かれている内容はもちろんだが、おそらく

#126:シャルル・ミュンシュ著『指揮者という仕事』

 シャルル・ミュンシュ著『指揮者という仕事』(春秋社, 1994年)を読んだ。本書の存在は知らなかったが、たまたま近所の中古書店で見かけて手に入れた。  著者は20世紀のフランスを代表する名指揮者の一人。分量的にコンパクトな本だが内容は豊か。これから指揮者を目指す若者に向けてという体で書かれているが、オーケストラ音楽愛好家にとってもとても興味深い内容になっている。  原著は1954年の刊行と古いが、作曲家が書いた音楽をオーケストラと共同して作り上げていく作業は、本質的には

#125:相沢沙呼著『invert 城塚翡翠倒叙集』

 相沢沙呼著『invert 城塚翡翠倒叙集』(講談社, 2021年)を読んだ。著者の作品を読むのは、本作の前作にあたる『medium 霊媒探偵城塚翡翠』(講談社, 2019年)に続いて2作品目。  評判となった前作を、私は非常に面白く読んだ。いくつかの欠点は指摘されており、それはその通りと私も思うが、作者の狙いと技巧には私としては敬服する。マナーとして、内容に触れるわけにはいかないのがもどかしいけれど。  本作は、前作を踏まえての、中編集である。前作と内容的なつながりがあ

#124:D・W・ウィニコット著『改訳 遊ぶことと現実』

 D・W・ウィニコット著『改訳 遊ぶことと現実』(岩崎学術出版社, 2015年)を読んだ。改訳前の本訳書(1979年刊)を、うろ覚えだが20年くらい前に一度通読しているはずなので、今回は再読になる。丁寧に比較したわけではないので印象に過ぎないが、改訳に際してはかなり文章に手が入れられているようである(とはいえ、読み下しにくい部分が少なくない)。  原著が刊行されたのは1971年で、ちょうど50年前。しかし内容はほとんど古びていないと感じられる。移行現象、移行対象、可能性空間

#123:山崎孝明著『精神分析の歩き方』

 山崎孝明著『精神分析の歩き方』(金剛出版, 2021年)を読んだ。これはなかなかに「野心的な」本であると思う。著者の文章の読みやすさも手伝って、巻を措く能わずの勢いで読んでしまった。プロフィールを見ると、著者は私よりおよそ一世代若い人で、この世代の人が日本の精神分析臨床や心理臨床の現状をどのように感じているのか、その一例を知ることができたことも私には有益だった。  第II部の「日本心理臨床史」とそれを踏まえての「日本心理臨床外史」は、精神分析に関心のない、むしろ忌避感や嫌