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ラブレター

4月11日のミスiD2021卒業式が終わって、零時を過ぎる頃、私は家の玄関の廊下に突っ伏していた。

さっきまでの空間に馴染んでいた鮮やかなピンクとパープルで統一された衣装は私のクローゼットの中では異色で、玄関前に立て付けられている鏡には今日、惑星に戻ったら一生映らないであろう魔法少女が映っていた。

スカートの後ろに何か貼ってある。
剥がしてみると"末次どりる"と書かれた紙が張り付いていた。

180席以上の座席をそれぞれのファイナリストが間違えないよう、スタッフさんが用意してくれたものだった。

そっか、私は末次どりるなんだ。

LINEとTwitterには末次どりる宛のお祝いのメッセージがたくさん届いていた。

幸せだった。
ミスiD2021 戸田真琴賞を私が受賞してしまった。
美しすぎる名前の入った賞を、この私が。

これを幸せと呼ばずしてなんと呼ぶ。

さっきまで抱えていた"人生で一番嬉しかったこと"が塗り替えられる出来事が起きてしまったのだ。

というのも、何を隠そう私は彼女の大ファンなのだ。

デビューした当時から彼女のことを知っている。

彼女の本業はAV女優だが、私はどちらかというと彼女の書く文章のファンで、無料で公開しているブログはもちろん、著書、雑誌、インスタに投稿された文章まで隅々と読んでしまうくらい、私は彼女の文章が好きなのだ。

受賞スピーチでは「私は戸田真琴さんのことが宇宙で一番大好きで、戸田真琴さんのことを勝手に知った気になっているから、私が賞をもらえるなんて思っていなかった」と話した。


戸田真琴さんが、ファンだからという理由で自分の賞を渡すことはない。それははっきりしていた。

そこに間違いはなく、卒業式が終わった後、何回も「末次さんが私のファンじゃなくっても、私のことを全く知らなくても、賞を渡していたよ」と話してくれた。

大森靖子さんの"流星ヘブン"の歌詞に「私が君に会いにきた 君も私に会いにきた」という歌詞があって、それを私たちが具現化してしまったようだった。

去年の夏、まだ私が一番可愛く写る角度も照明の明るさも知らなかった頃。

YouTubeに公開されたZOOM面接で話した内容は戸田真琴さんに宛てたラブレターだったこともようやく話せることの一つで、この動画を見てくれた人が「誰にも邪魔されずその人にみつけて貰えたら良いなと思った。」とコメントしてくれたことに涙してしまったくらい、私がミスiDに挑戦する理由の一番の後押しが彼女の存在だった。

何かに挑戦するたびに真面目な理由を用意しないといけない世の中で、「なんでミスiDに挑戦しようと思ったのか」という聞き飽きる質問にも、もうすらすらと答えられるようになってしまったけれど、今になって本音を言うと、ただ好きな人に知って欲しかっただけなのだ。

愛の力は大きい。
人間嫌いが愛する力はもっと大きい。

私と彼女は少し似ていて、大衆に向けた話はしない。いつも一人と一人だった。

とんでもない熱量の彼女の選評を私は今すぐ読みたいから今日は会社を休んだ。

ファイナリスト一人ずつに宛てたラブレターをじっくり読んでは、戸田真琴さんが見てきたものを今日もまた知った気になる。

こんなにもたくさんの人を君は見てきたんだね。

愛してくれてありがとうございました。

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