"「Dismiss Yourself」がインターネット上の奇妙な出来事のハブとなるまで" 和訳

当記事は、 Kieran Press-Reynoldsによって執筆され、Bandcamp Daily上で公開された、以下の記事の和訳となります。

個人用な用途で和訳したものですが、国内で少しでもDismiss Yourselfの活動を認知してもらうため、そしてこれからのネット上での活動とはどのようなものになるのかと考えるヒントとしてもらうため、ここに公開することとします。

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「Dismiss Yourself」がインターネット上の奇妙な出来事のハブとなるまで

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2017年、stickiと名乗る19歳の若者が、"dismiss yourself. "というYouTubeアカウントを作った。彼の思いつき——インターネット上にあるレアでジャンルを超えた奇妙なものをアーカイブする方法が欲しい——によって、このアカウントは立ち上げられた。

唯一のテーマは「カオス」だった。輝くような奇妙さの宝庫を見つけて、それを投稿する——2007年に発売されたゲーム『Sploder』の8時間のサウンドトラックから、100 gecsのハイパーキネティックな『Square Garden』、さらには『Boards of Canada』のブートレグテープまで、ありとあらゆるものが含まれる。

「ライブストリーミングサイト "rabb.it "で友人と音楽を聴いていたのですが、どこにもアップロードされていないものがたくさんありました。」とベイエリアのティーンエイジャーは説明する。「あまりにも地味な活動だったので、知り合いにも教えていませんでした。」

しかし、COVID-19の初期の頃、突然、このチャンネルと彼が投稿した奇妙で魅惑的な記録の周りに、熱狂的なコミュニティが形成され始めた。3年間ゼロに近かったページの閲覧数は、わずか数カ月で数十万にまで跳ね上がった。

何が起こったのか?いくつかのビデオが飛び出した——具体的には、Panchikoの失われたインディーズの宝石『D>E>A>T>H>M>E>T>A>L』や、tomoe_theundyingの戦慄のラップミックス『Rare RCB hexD.mp3』——。これらはどちらも「forum-core」と呼ばれるもので、ネット上の議論の場でカルト的な人気を集める音楽である。

ファンは、アルバムの神秘的な起源や難解なサンプルに関連する複雑な陰謀論を考案する。やがて、無数のフォーラムページやDiscordチャンネル、プライベートなチャットを介して、レコードの周りに陰謀のもやが立ち込めてくるようになる。そして最終的には、バーチャルな聖典のようなものに変化していく。D>E>A>T>H>M>E>T>A>LとRare RCB hexD.mp3はそのうちの2つである。

stickiは、自分が特定の音に惹かれる理由を明確には言えない。「私はジャンルにこだわらず、アーティストの個性やストーリーが好きなのです」と彼は言う。「Panchikoの場合は、コンセプトとして面白そうに聴こえたからです。」D>E>A>T>H>M>E>T>A>Lは、もともと20年前に4人のイギリス人が作ったデモで、2016年に4chanで再発見された。あるユーザーが古着屋で見つけたアルバムをアップロードしたことで、テープの作者に連絡を取るための激しい捜索が始まった。4chanやRateYourMusicのようなサイトの常連でなければ、多くの音楽を見つけるのは難しいため、Dismiss Yourselfは、それらを一か所に集めるという、一種の公共サービスを提供した。

しかし、このチャンネルは、受動的なキュレーションに長くは留まらなかった。2020年半ば、Dismiss Yourselfはhexのネクサスとなった。hexとは、スピードアップしたボーカル、ブルータルなビート、きらびやかなサウンドエフェクトを用いたラップスタイルのこと。曲は「ビットクラッシュ」されており、サンプルレートが下げられているため、すべてが埃っぽく、鋸歯状に聞こえる。stickiによると、"hex"という名前は、このサウンドの先駆者である6人組の「hexcastcrew」に由来しており、彼らは悪魔崇拝を実践している。「彼らは曲に呪いをかけます。彼らの言葉を借りれば、音楽をビットクラッシュすることで呪文を唱えるのです。」

2020年の時点ではまだマイクロシーンでしかなかったhex——surgeとも呼ばれる——だが、Dismiss YourselfがBandcampで初めてリリースした『Surge Compilation Vol.1』によって、集団としてのアイデンティティを確立した。このコンピレーションの成功により、hex以外のアーティストたちは、Dismiss Yourselfのインプリントでアルバムをリリースしてくれないかとstickiに依頼した。数ヶ月前、stickiはレーベル運営に専念するため、大学を中退した。「母は、この仕事を1年以内に成功させるようにと言っていました」とstickiは語った。

Dismiss Yourselfを「レーベル」と呼ぶのは、いささか還元的な表現だ。Dismiss Yourselfは、デジタルに関するあらゆるものを扱うワンストップショップである。そこには、Discordコミュニティ、フォーラム、マーチャンダイズテント、グラフィックハウス、バーチャルライブミュージックイベントなどがある。人々がstickiに「Dismiss Yourselfとは何ですか」と尋ねると、彼はいつも「It's whatever you want it to be(どのような意味でもいい)」と答える。謙虚なレーベル・チーフは、門番というよりも、自分の役割をウィングマンやマッチメーカーとして捉え、他の方法では話したことのないようなアーティストたちをつなぐ役割を果たしている。「ボスではなく、リソースとして見てもらいたいです。——自分はいつも自分自身をアーティストより下に見ています」と彼は言う。

また、レーベルを運営することで、12歳の頃から憧れていたSpaceGhostPurppやBloodline Genesisのようなアーティストと話す機会が得られた。アーティストの中には、stickiがずっと前にバーチャルで知り合った友人が、レーベルのために音楽を作るようにしてくれた人もいる。

「アンダーグラウンドが本当に苦しんでいるのは、声を上げることができないことだと思います」とstickiは言う。「商業的なものではなく、プロフェッショナルなスタイルでのリリースを」。そのため、stickiは「アルバム・リリース・キット」を作成し、初めての人に、.wavでのフォーマット、ステムのレンダリング、アートワークの各レイヤーの保存方法などを教えている。曲のマスタリングやカバーアートの改良に加えて、stickiはすべてのプロジェクトのためにグロッシーなカセットや服を作っている。「アーティストが本来求めていたものを完全に再現しつつ、より魅力的な形で提供したいと思っています——私は、彼らの赤ちゃんを奪う医者にはなりたくありません。」

Dismiss Yourselfは、かつて友人と一緒に行っていたライブ音楽鑑賞の延長線上にあるものだと考えているが、その規模ははるかに大きいものだ。「ルームメイトが何人もいて、みんなで一緒にアートを作っているようなものです。」

これまでに十数枚の作品をリリースし、目まぐるしいリリーススケジュールをこなすDismiss Yourselfは、瞬く間にインターネット上のフリークネスの中心となっている。ここでは、このレーベルの最も気まぐれな7つの作品を紹介する。


Various Artists 『Surge Compilation, Vol. 1』
2020年4月にリリースされた『Surge Compilation Vol.1』は、レーベルのキックオフとなったコレクションだ。82曲入りのこのアルバムには、hexの青写真に独自のバリエーションを加えた様々なアーティストが参加している。始まりは偶然の産物だった。StickiのDiscordの友人の一人が、『Surge Compilation Vol.2』というレコードのために作ったアートを投稿した。 Stickiはもっといいものが作れると思い、ジャケットを作り直した。しかし、その人はそのアルバムが実際には存在しないことを教えてくれた。彼らは遊びで偽のカバーをデザインしているだけだった。しかし、stickiは自分が作ったジャケットをとても気に入っていたので、これを使いたいと思った。そして、友人と一緒にその妄想を現実のものにした。


Vatista 『All of These Rose Petals』
Dismiss Yourselfは最近、小規模なインディー・ミュージシャンにスポットを当てることを目的としたサブレーベル、careを立ち上げた。その最新作であるVatistaの『All of These Rose Petals』は、まるでカーテンを広げて光を取り入れるかのようなアルバムだ。格子状に配置されたシンセと、ヘリウムのような高さのボーカルに加えて、カタカタと音をたてるドラムが踊っている。stickiによると、このテープはもともとビットクラッシュされたもので、曲は華やかなヘックスミュージックの流れを汲んで制作されたという。しかし、発売日の1週間前にレーベルメイトのFrogmanがリマスターを申し出たため、VatistaはFrogmanのクリーンなバージョンを好むようになったという。


Frogman 『Slyme Koro』
任天堂がマリオカートのサウンドトラックにPlayboi Cartiを起用したと想像してみて欲しい。それがSlyme Koroのサウンドだ。スポンジーなネオンビートに乗せて、キーキーとしたボーカルが跳ね、背景にはビデオゲームのような効果音が鳴り響いている。Dismiss Yourselfでカワイイトラップを作る前、FrogmanはSoundClownシーンで活躍していた。SoundClownとは、10年代半ばに流行した、ミームを取り入れたリミックスのことだ(例:Childish GambinoがSuper Smash Bros.のテーマに溶け込んだ)。「彼は "Dire Dire Docks "のマッシュアップから "Cult Party "に直行した」とsticki氏は語っている。


Sienna Sleep 『Ateriavia』
それは、4人のグループチャットから始った。チリ出身のアーティストで、ノイジーなヘックスグループ「Team Mekano」のメンバーであるAnthony1、ロサンゼルスのアグロトランスDJのExodiaと、スクリーモバンド「lord snow」のリードボーカルであるsienna sleep、そしてstickiの4人だ。彼は、それまでコラボレーションをしていなかった3人のプロデューサーを採用し、「無理やり」一緒にアルバムを作ることにした。その結果、昨年12月にリリースされた『Ateriavia』は、おそらくレーベルのこれまでのリリースの中で最もワイルドな作品となっている。ホワイトノイズの雷雲と溶融したディストーションのボルトで溢れかえり、各曲は過熱して曲がっていき、縫い目が解けていくようである。これは、トランス・ミュージックのヘビーメタルだ。


Rx Papi 『100 Miles & Walk’in』
Rx Papiの音楽は、このレーベルの中では他に類を見ないものである。それは、余分なノイズが全くないからかもしれない。あるいは、ヒップホップという一つのジャンルにきちんと収まっているからかもしれない。このラッパーは、ラップするというよりも、胃の中の言葉を貪り食って、爆発する前に全部吐き出さなければならないような感じで喋っている。


fishpaste 『in space the rats just dissolve』
2011年、stickiは、コードを学ぶことなくシンプルなAdobe Flashゲームを作ることができるサイト、Sploder! と出会った。
10年後、今は亡きこのプラットフォームの漫画的なビジュアルパレットと低ビットレートのサウンドライブラリが、このアーティストの音楽に影響を与えている。ローファイ・サウンド・コラージュとビデオゲーム・アンビエントの間を行き来しながら、すべてのトラックには、グリッチなゲップ、発泡性の笑い声、エイリアンの野次などが詰め込まれている。


T€∆M M£K4NØ 『𝙲𝚕𝚊𝚜𝚜𝚒𝚌_𝙿𝚛𝚘𝚓𝚎𝚌𝚝_𝟸000​​.​​𝟹𝚐𝚙』
5人組のTeam Mekanoは、ラテンアメリカ特有のレンズでヘックスをろ過している。悪魔の呪文ではなく、「チリのノスタルジー...そして彼らが育ったクールなもの」がテーマになっている。「"Team Mekano "という名前は、(2000年代の)チリの子供向けテレビ番組に出演していた古いグループに由来しています」。
しかし、何も参照しているか知らなくとも、体を揺らすようなビートと不条理なミーム・ハボックを楽しむことが出来る。つまり、千の記号とスタイル(ショーン・キングストン、シュナッフェル・バニー、ビデオゲームのエフェクト、200bpm以上のダンスミュージックなど)をシェイクして、様々な要素がミックスされたリン光性のカクテルを作るのだ。


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自分にとってはDismiss Yourselfが活動に使用するプラットフォームの多さが印象的であり、現代におけるコミュニティのレイヤーの多さを表しているように感じています。「ボスではなく、リソースとして見てもらいたいです」というStickiのインタビュー中の言葉が、Dismiss Yourselfがレーベルとしての活動を超えた活動を行う意味にあるように思います。そして、プラットフォームの中で上を目指すのではなく、プラットフォームを超越してDismiss Yourselfという共同体にマッチングする——というストーリー作りが、現代のネットにおいて、アンダーグラウンドに関わらず、多くのユーザーをレーベルに集めることに成功しているのだと思います。

しかし彼自身の所在地がベイエリアということもあり、日本国内の空気感との違いは大きく感じられるところです。Discordのサーバーも入ってみましたが、基本的にミームを通して会話するあの海外のオタクの感じは日本には当分馴染まないだろうな〜と思いながら傍観しています。またDismiss YourselfのYoutubeの投稿動画の中には無断転載も数多くあり、日本のアーティストの作品もよく転載されています。Stickiらにとっては、やはり日本の音楽は身近な存在でないため新鮮に聞こえるのでしょうが、そこにはやはり国内の同人音楽やその他アングラシーンに対する理解は抜け落ちているような気がします。そこはやはり問題だと個人的には思いますが、ただこの形のコミュニティが一概に悪だとも思えないという微妙なところですね。日本国内にも同様な形のコミュニティができれば、バランスが保たれるのでしょうか?

これからも引き続き注目していきたいと思います!

また日本のアーティストであるSeaketaさんがDismiss Yourselfにミックスを提供していますので、ぜひ聴いてみてください〜


おわり


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