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休職制度についての整理メモ

先日、休職命令の発令の可否について法務意見を求められました。この機会に休職に関して整理メモを書いてみたいと思います。

情報・通信業などのデスクワーク中心の会社ではどこも同じかもしれませんが、従業員の休職事由はうつ病などの精神疾患が大半を占めている印象があります。

統計は詳しく調べていませんが、感覚的には裁判などで争われるケースはごく一部で、ほとんどのケースでは、主治医から診断書が提出され、産業医からも休職相当の意見が付されているなかで本人も納得の上で休職に入るパターンが圧倒的多数です。

私の場合、従業員のメンタルヘルス事案で事前に相談を求められるのはおそらく全体の20〜30%くらいでしょうか。裏を返すと、休職命令の可否に関連して、法務に意見を求められるのは、欠勤が目立つ(orパフォーマンスが著しく悪い)社員から、診断書が出てこないし、本人が休職に納得していない、というパターンかと思います。

休職制度に関する基礎知識

休職制度に関して押さえておくべき基本知識を備忘的に書いておきたいと思います。

まず、休職制度を導入している会社は多いかもしれませんが、休職制度の導入は、法律上、義務ではありません。休職制度を設けない、という選択肢もあります。

他方で、休職制度を導入するときは、就業規則に定めなければなりません(労働基準法89条11号)。また、就業規則に関する一般的なルールとして、合理的な内容であることと、従業員への周知が求められています(労働契約法7条)。

ちなみに、スタートアップの方が従業員を雇うときには、就業規則を作成されると思いますが、厚生労働省が公表するモデル就業規則を参考にしていることが多いかもしれません。モデル就業規則では、休職制度が導入されています。

(休職)
第9条 労働者が、次のいずれかに該当するときは、所定の期間休職とする。
① 業務外の傷病による欠勤がXか月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき 
  X年以内
② 前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき
  必要な期間
2 休職期間中に休職事由が消滅したときは、原則として元の職務に復帰させる。ただし、元の職務に復帰させることが困難又は不適当な場合には、他の職務に就かせることがある。
3 第1項第1号により休職し、休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって退職とする。

【モデル就業規則より引用】

上記のモデル就業規則9条3項にあるとおり、休職期間が満了しても傷病が治癒しなかったときは退職扱いになります。このことから、休職制度は解雇の猶予の制度である考えられています。

ここまでが一般的に説明されている休職制度の基礎的な部分です。ここからはさらに深堀りしてみたいと思います。

解雇と休職の関係

休職制度を導入している企業を前提にしますが、一般的な休職制度では、休職期間が満了しても傷病が治癒しなかったときは就業規則に従って退職扱いになります。これを先ほどは解雇の猶予の制度と書きました。

他方で、就業規則には解雇の規定など退職に関する事項を定めなければなりません(労働基準法89条3号)。たとえば、さきほどのモデル就業規則では、「精神又は身体の障害により業務に耐えられないとき。」という解雇事由があります(モデル就業規則51条1項4号)。

どちらも終着点は、従業員としての身分を失ってしまうものですから、双方の関係について自分なり整理をしておいたほうがよいでしょう。

たとえば、メンタル不調の従業員がいて、有給休暇も消化済み、欠勤が不連続で続いていてパフォーマンスが上がらないとしましょう。欠勤が続き業務に耐えられないことに着目して解雇と即断してよいか?といわれれば、答えはNoです。

参考になる有名な事件として、日本ヒューレットパッカード事件(平成24年4月27日最高裁判決)があります。被害妄想など精神的な不調にあるエンジニアが有給休暇を取得後、約40日にわたって欠勤したを続けたことに対して、会社側が諭旨退職処分をしましたが、これが無効と判断されたものです。

「精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては,精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想されるところであるから,使用者である上告人としては,その欠勤の原因や経緯が上記のとおりである以上,精神科医による健康診断を実施するなどした上で」・・・「その診断結果等に応じて,必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し,その後の経過を見るなどの対応を採るべきであ」る。

ちなみに、第一審では会社側の主張が認められ、諭旨退職処分は有効になり、控訴審では処分は無効と判断されています。

実務上、悩ましいのは、日本ヒューレットパッカード事件のように従業員本人に病識がないケースです。ただ、従業員のメンタル不調が疑われるときは、健康診断の実施や医療機関への受診を勧めて、休職命令を検討しなさい、ということをですから、メンタル不調+欠勤で業務に耐えられない事案では、いきなりの解雇は選択肢として否定されていると考えられています。

さらに整理すると、うつ病などの精神障害は再発する可能性が高く、休職と復職を繰り返す従業員をときどき見かけることになり、いわゆる通算規定の合理性が問題になりますが、野村総合研究所事件が参考になります(東京地方裁判所平成20年12月19日判決)。

(私傷病)休職と業務上の傷病の関係

休職は、私傷病や業務以外の原因によって労務の提供を免除させる制度と考えられています。他方で、業務上の傷病は労働災害で、会社に責められるべき事情があって労務の提供ができなくなったというものですが、これらは法律上の取扱いが異なります。

しかし、実態として従業員がメンタルヘルスで就業できない状況が続いている点は同じですから、会社によっては、規定上、休職の原因を「私傷病など業務以外の原因」と「業務上の原因」に分けて、それぞれの休職期間を規定しておき、1本の休職制度として運用している会社もあります。

このような休職制度を採用している場合、注意点があります。それは、休職手続を行う際に、休職に至った原因をきちんと調査して証拠を保全しておくことです。

というのは、業務上の傷病のときは、療養のための休業期間中とその後の30日は解雇できません(労働基準法19条)。参考になる有名な事件として、アイフル(旧ライフ)事件(大阪高等裁判所平成24年12月13日判決)があります。

この裁判例を踏まえると、万が一、業務上の傷病であることを看過して、私傷病休職を適用させてしまったら、休職期間が満了したときに傷病が治癒しなかったとして退職扱いにしても、無効と判断されてしまいます。

ある従業員がうつ病の診断書を提出して休職を申し出たときは、上司や周囲の同僚へのヒアリングを行うとともに、長時間労働になっていなかったかどうかなどを確認するようにしましょう。

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