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午後のひかり

午後のひかり

galaxy20,000yearslater series
第3段
ミーターの大冒険 余白

第1話

午後の穏やかな光が部屋の中を満たしていた。「午後一のひかり」と名付けられたその部屋は、温かみのあるオレンジ色の光に包まれ、アース・オービターの中で最も安らぎを感じさせる場所の一つだった。銀河復興の記念的宇宙船であるアース・オービターは、地球の上空を静かに周回しており、その中でヴァーチャル看護婦のヴァレリー・ダムが、昏睡状態から目覚めたばかりのジスカルド・ハニスを見守っていた。

ハニスは目を開け、ゆっくりと周囲を見回した。彼の意識はまだぼんやりとしており、夢と現実の境界が曖昧だった。しばらくして、目の前に立つ女性の姿が目に入った。彼女は優しい微笑みを浮かべ、柔らかな声で話しかけてきた。

「ジスカルド・ハニスさん、お目覚めですね。わたしはヴァレリー・ダムです、ヴァーチャル看護婦を務めています。」

ハニスは頭を振り、何が起こったのかを思い出そうとした。最後に記憶しているのは、自転車を漕いでアメリカ大陸を横断していたことだ。だが、今彼がいるのは地球のどこかではなく、宇宙だった。

「ヴァレリー?ここは一体どこなんだ?」彼は困惑しながら尋ねた。

「ここは地球の上空にあるアース・オービターの中です。あなたはかなりの幸運な方です。複数の重篤な疾患を抱えながらも、自転車でアメリカ大陸を横断しようとするなんて普通の人間には無謀な行為です。でも、倒れてから半年が経ち、ついに目覚められました。あなたを見つけた自転車旅行者がすぐに通報し、近くの病院の救急車があなたを病院へと運び、そこで救急治療が施されました。」

ハニスはヴァレリーの言葉を聞きながら、自分がどれほど危険な状況に陥っていたかを徐々に理解していった。「じゃあ、ここは、あのアース・オービターの中というわけか?」

「その通りです。あなたは銀河で最高度の治療を受けられたのです。アース・オービターは銀河復興の象徴的な宇宙船であり、ここで働くことは私にとって大変光栄です。そして、こうして銀河復興を成し遂げたミーター様の盟友であるあなたの看護をさせていただけることも、私にとっては大きな名誉です。」

ハニスは少しの間、自分の病状について考えていた。彼はその状況の深刻さを理解しつつも、どこか現実感が欠けているように感じた。「教えてくれ、俺の病気は?」

「ご存知ないようですね。あなたは、ほぼ死に至る病にかかっていました。癌、心臓病、エイズ、そして脳卒中という、複数の重篤な疾患に加えて、さらに最悪の事態として、新種のコロナウイルスに感染されていました。」

ハニスは驚愕し、言葉を失った。彼は自分がどれほど死の淵にいたのか、そして今こうして生きていることが奇跡であることを実感した。「確かに、体調がすぐれなかったのは覚えている。だが、そんなに悪かったとは . . . 」

彼はふと、目の前にいる看護婦の名前を再確認したくなった。「ところで、君の名をもう一度言ってくれないか。」

「ヴァレリーです。」

「ファミリーネームの方だよ。」

「ダムです。」

その名を聞いた瞬間、ハニスは驚きに目を見開いた。「待てよ、ダム女史?と言うことは、あのイルミナの . . . ?」

ヴァレリーは微笑みを浮かべながら、誇らしげに頷いた。「ええ、その通りです。イルミナ・ダムの分身の一人です。まあ、分身と言ってもいろいろありますけど。」

ハニスは驚きと喜びを抑えきれなかった。「あのイルミナが今、ここに . . . !俺も運が良い。もう一度イルミナに会えるなんて!」

ヴァレリーはその言葉に、彼女の存在がハニスにとって特別なものであることを感じ取った。「わたしとしても、そう言われて大変光栄で嬉しい限りです。」

ハニスは満足げに微笑んだ。「俺もだ。栄えあるひかり、って言うんだな。」

「ニフの言葉ですね。ハニスさん、いい響きですね。ここの部屋の名前も『午後一のひかり』って言うんですよ。」

ハニスはその言葉に心を和ませた。「まるで俺のことを言ってるみたいだな。」

部屋の窓からは、地球の美しい青い光が差し込み、ハニスとヴァレリーの間に穏やかな空気が流れていた。彼らの会話は、ただの再会以上の意味を持っていた。過去の記憶と未来への希望が交差するこの瞬間が、彼らにとって新たな始まりとなるかもしれない。

次話につづく ...


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