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【虎に翼 感想】第108話 それぞれの道の作り方


益岡少年は小橋だったし、小橋は益岡少年だった。

小橋の話は、益岡少年の質問に直接答えるものではなかったかもしれない。

物心ついたときから “平等” のスタートラインに立たされた中学生の彼ら。
その場所から相手を排除して相対的に前になろうとするのか、自分の力で前に進もうとするのか、その意味も、その人の人生に与える影響も大きく異なる。
その岐路に立たされ、優等生でもなく不良でもなく誰からも目に留めてもらえず埋もれていた益岡少年を、小橋は見つけてくれたのだ。

小橋は自分(と益岡少年)を、“中途半端な俺たち” と表現していたが、昨日も書いたとおり彼は決して無能ではない。高等試験に合格しているし、さらには裁判官にもなっている。
はたから見れば優秀で立派な裁判官である小橋でさえも、法曹の世界ではイマイチ出世できず、(修習期が上とはいえ)稲垣に先を越され、自分はいまだにヒラ裁判官だ。
優秀な稲垣に加え、優秀な女性裁判官の寅子は上司に目をかけられ、海外視察に行ったりラジオに出演するなど、家庭裁判所の顔として活躍していた。

そんな中でも小橋は、口では卑屈なことを言いながらも自分の仕事を全うしようと努めていたではないか。

小橋は変わった。本作は寅子の物語だけでなく、その周囲の人、一人ひとりの物語でもある。はじめは明律大学の同級生というだけで終わるかと思っていたが、それは違って、小橋の成長をずっと描いてくれていたのだ。

法廷劇のときには女子部の皆を魔女扱いして揶揄し、よねに蹴り上げられ、おとなしくなったと思ったら、当時はまだ虚勢を張っていた花岡に同調し、轟に諫められていた。
戦時中は裁判官がゆえに徴兵を免除され、戦後、司法省で寅子と再会し、東京家庭裁判所で共に仕事をしてきた。
寅子が新潟に異動するときには、素直に「うらやましい」と言えるまでになっていたのである。

相手を選んで揶揄していた中途半端な小橋は、少年の心に入り込み、道筋を作ってあげられる人間になっていた。家庭裁判所の裁判官に適任ではないか。

日本国憲法は、皆が待ち望んだはずのものだった。寅子は登戸の川辺で涙を流していた。今日の小橋の話は、そのことに適応できていない人もいると示してくれたように思えたのだ。


真理子が妊娠した。彼女にとっては平等という言葉ほど空虚なものはない。

話を聞かされて、寅子は「おめでとう」とは言わなかった。
“あの頃の私” であり、地獄にいる人に言えるわけがないのだ。

ブランク、子持ち、同期との差……寅子はすべて経験してきた。

「あなたの居場所は必ず残す」
朋一と同じことを考えてしまった。期待させた分、真理子が傷つくのではないかと。

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芸術について語らい合う高尚な夜遊び……のどかが本当に学びたいことなのではないか。本当に明律大学に進学したかったのかと思ってしまった。
始めて目にする生身の照子の姿。航一は照子との関係性においては “愛される” 立場だったようだが、今は “愛する” 立場が強いように見える。

照子が作ろうとしていた星家の道はまだまだ溝が多い。今、この道を歩いたら皆ころんでしまう。完成にはまだまだ時間がかかりそうだ。
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寅子は、自分が妊娠したときに他人の口から明かされてしまった苦い経験がある。だから桂場に真理子のことなのかと問われても口を割らなかった。

寅子は、提案書を桂場から突き返されることは織り込み済みだったのではなかったか。もちろん、桂場が最高裁判所に通してくれれば願ったりではあるのだが。一度は桂場を通したという事実を作り、義理を果たすための通過点のようにも思えてしまった。

”時期尚早“
寅子も桂場も、別の意味で “今” を見ている。
寅子は、今、起きている問題を先送りにせず、今、なんとかしたいと考えている。
桂場は、今ある法律や規律に忠実でいようとしている。

食らいついて生き残った者だけが、男性裁判官と同じ場所に立てるバトルロワイアル。

あの明律大学の医務室での出来事が、今になって生きてくるとは……あのとき桂場は、中途半端に投げ出すなら手を出すなと穂高教授に意見していた。

穂高教授は、一人でなんとかしようとして、結局手放してしまった。寅子も誰にも助けを求められず、一人でもがき、苦しんでしまった。
寅子は分かっていたのではないか。自分一人で頑張っても真理子の希望は叶えられないと。しかも今は助けを求める相手もいる。だから周囲の力を借りることにした。

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度肝を抜かれるほどの生ぬるさだな」
「同期の誰よりも出世して、社会を変えるとキャンキャン吠えていた」
「ご婦人のお化粧は紳士の髭剃りと同じ。良識ある大人の証だ」

真理子とよねは同期だった。
よねと梅子の口から語られる真理子のエピソード。よねは既視感満載だっただろうな。

おそらく同期の男性や職場の男性たちにも強気なことを言っていたのではないだろうか。これではなおさら妊娠したことを言えるまい。
真理子が最初に登場したときの漆間の態度は含みを持たせていたけど、単に彼女が苦手なだけなのかもしれないね。

でも、強気発言も化粧も、男性の3倍も5倍も頑張ろうとしていた結果なのだ。

“よねよね”
以前予想したはるか斜め上をいくニックネームだった。なぜ文字数を増やす……久藤、ネタ切れ……。

女性法曹者の道は、開拓はされたものの、これから舗装する段階なのである。

女性法曹者たちと轟が署名を集めて来てくれた。
よねが感慨深げにしている……あのとき寅子が孤独だったことも、自分は何もできなかったことも、二人の間に溝ができたことも……今となっては恩讐の彼方にいってしまったことよ……。

そこに絶妙のタイミングで現れる久藤と桂場……きっと物事は動くと信じているが、権力者である桂場との対立構造が始まるのではと、一抹の不安を覚えた竹もとでの遭遇だった。


「虎に翼」 8/28 より

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