2024/3/10(土)稽古茶事

早春の稽古茶事(上巳の節句)

年始に「2024年は4回稽古茶事をしましょう」と先生からうれしい提案があり今日はその初回。各季節2回ずつ計8回行えば社中の全員が役回りを一巡できる算段。今回の私は正客を担当。テーマはひな祭り。

なんて淡々と記したが、この稽古茶事は、ひとえに2週連続ですべての準備をしながら笑顔で全役割の指導をしてくださる先生の胆力とお人柄なくては成立しない!!ということも感謝を込めて冒頭に記しておきたい。

根性なしの私は正客として参加しただけでHPゼロに近づいたというのに、先生のパワーたるや…! 毎回ありがたいという言葉しか出てこないけれど本当にありがたいの一言。

準備からみんなで一緒に

準備と言っても9割9分先生が前日までに進めてくださっているが、皆で少し早めに集まり水屋仕事を分担して行う。

作業内容以前にそれぞれの炊事の現場を見るのが新だった。調理道具の扱い方や動き方など自分の中の「ふつう」が崩れて発見が多かった。味付けには自信がないのでしんじょうを丸めたりツマにするニンジンを切ったりした程度の補助員オレです。

水屋担当の同輩が煙草盆の用意をしているのを横目に見せてもらいテンションが上がった。火入の灰を火箸で放射状に押さえながら形をつけていくの、NHK特集で見たやつー!

↑80年代の表千家の茶事を撮ったドキュメンタリーで、なぜか年始に地上波放送されめちゃくちゃおもしろかった。業邸さんたちが精魂込めて灰の準備をしていたことが一番印象に残っていたので、まさにそれを目の前で見られてアガった!
この番組を見るまで灰を作っていたなんて知らなかった。ただの副産物だと思っていました……。

汲み出しは手作りの甘酒

汲み出しに、先週の稽古茶事に参加された同輩の手作り甘酒をいただき、茶事開始。

この時点で12時を過ぎていて、茶事とは茶事そのものよりも準備のほうが本丸だと感じる。本当に準備することが際限なくあるのな!

手作りの甘酒は市販の甘酒とは全然違い、お米の味が強くポタージュのようで、フレッシュな味わい。自身が参加しない週の分まで用意してくださるっていう気配りよ! いつも社中の皆さんの優しさに包まれているよ(合掌)。

待合

待合床のお軸はひな祭りらしくお内裏様とお雛様の絵。

そこから一度腰掛待合に移動し、亭主の迎付けを合図に、手水で手と口を清める。亭主の登場シーンがかっこいい。

手桶にたっぷりと水を入れて現れ、蹲(つくばい)の周囲の緑に蹲柄杓でパッパッ!と水をかけ、最後に一気に蹲に水を注いで去ってゆく。

言葉はないが一つひとつの所作を通して「皆さんのために清らかな水で周囲を清浄しましたよ。さあ準備が整いましたよ」という気持ちが伝わってくる。

終始無言ってところにまた勝手に茶道らしさを感じる。「察せられる」「感じ取れる」「気づける」か否かは、受け手の感受性と、対象に向き合う姿勢に委ねられる。くーーーーー。主客一体となって紡ぐ総合芸術だ!

初座・席入

蹲で手を清めいざ茶室へ。席入する際、草履は底を合わせて立てかけておくのが習わしだそうだが今回は省略。

席入り時の足の進め方は、先生のご指導がないとまったくもってたどたどしいが、茶会に参加し何度か経験しているおかげで1年前よりは多少マシになった気がする(当社比)。物覚えが悪いくせになまけ癖もひどいので、ひとと比べず当社比で良くなっていくしかない(開き直り)。

お軸は「春水満四澤(しゅんすいしたくにみち)」。文字どおり「春になり水が四方の沢に満ちる」という意味だそうで、3月にぴったりのことばだ。

とはいえ今冬は極寒日が少なかった。寒いのは大の苦手なので楽だった反面、寒さをしっかりと感じないと春の兆しに対して敏く喜べないことを初めて知った、地球沸騰化の3月です。

閑話休題。まずは主客総礼。先生が横で台詞を教えてくださるので、ほぼ幼稚園のお遊戯会レベルだが「本日は桃の節句の稽古茶事にお招きいただきありがとうございます、楽しみにしております」と順に挨拶。

初炭点前

風炉の季節と大きく違うのは、ここで初炭点前を拝見できること。

「はかんばしこうごうかまのふた」「123。456。7〜、8〜、9!」とおまじないばかり覚えていて肝心の所作はほとんど抜けている私たち…。

それでも久しぶりに炭点前を拝見するとやはり華やかで楽しかった! うやうやしくも力強く、茶事の見せ場のひとつだ。

直前に先生や同輩の水屋仕事を拝見したおかげで、炭に火をつけるのがいかに大変なことかも理解できた。毎回先生がお釜が沸いているか気にかける理由がよくよくわかった。

懐石料理

さて懐石。先生と水屋を担当された同輩の心くばりが詰まった献立の数々は、正直、濃茶以上に楽しみ!

飯・汁

塗りのお椀が二つと向付が折敷の上に乗せられて亭主が運んでくださる。宙で受け渡しし折敷を持ったまま主客一礼。

この所作がとても不思議。「お盆を持ったまま礼するの?」とつい思ってしまう。一度置いてしっかりと両手をついて礼をしたほうが良さそうなのにそうじゃない。きっと理由があるのだろうが、まだわからない。その後、下がって畳縁半がかりの位置に折敷を置くのもまた不思議。子どものころに「畳の縁は踏んだらあかん」と言われていたので「掛けてていいの?」とつい思ってしまう。ああ、おもしろいなぁ。

汁の中身はよもぎ麩。もちもちしていておいしい!が、箸でうまく切れそうになく一口で食べた。お行儀よ……。

向付は鯛の昆布締め。繊細そうで強い旨味がおいしい。日本酒が進む!(進むな)

箸の上げ下ろしや椀の蓋の扱いは、日常生活の中でも使える作法なので、こうして学べてありがたい。特に箸の所作は日常にも応用している。

途中まで箸元を折敷の右端にかけていたが、箸先を左縁にかけておくのが正解だった。そのほうが折敷を汚さないとのこと。なるほどー!

一献

冷酒をいただく。ここで酒癖露呈。盃に注がれた冷酒を一気飲みしてしまった……。注いでもらったお酒はよろこんでその場で開けようとする謎の体育会系ノリ何なん……。恥ず……。

続けて飯器をもって亭主が登場し「おつけいたしましょう」と給仕のことばをかけてくれる。その際、正客は「どうぞおまかせを」と言って辞退する問答の型があるのに、私は「ありがとうございます」と丸盆の上に飯碗を乗せてしまった……。ねえこの正客、いい加減にして!

一方、汁替えは甘えてOK。蓋をした汁椀を亭主の持つ丸盆に乗せおかわりをいただく。

煮物碗

ごはん2膳と汁2杯をいただきつつ煮物碗の登場。大きな蛤と蛤しんじょうと菜の花。菜の花は午前中の水屋仕事の際に私がカットしたのだが、碗の中におさまるその量を見て、私が用意したカット数では全然足りていなかったと気づいた。ゴールが見えていなかった〜! 仕事のできないヤツ〜! 反省。

二献目

二献目は遠慮したが、時すでに遅し。一献目で素性がバレているので「遠慮なさらず」と亭主がすすめてくださりもちろんいただく。うれし恥ずかし……。

焼き物

焼き物は鰆の幽庵焼き。鉢に全員分が盛られて出てくるので、次客に「お先に」と声をかけ向付の器にのせる。そのために向付は食べ終わった後に懐紙で器を綺麗に拭いておく必要がある。

ことほどさように、一見、懐石は上げ膳据え膳にも思えるが、亭主がもてなしを滞りなく進められるよう、客側も間合を見てあれこれ進めておかなければならず、意外と忙しい! 特に三客のお詰は仕事が多そうだった。

預け鉢

預け鉢は白和え。白和えってたまにコンビニのお惣菜で買うくらいなので、出来立てのみずみずしさに驚いた! 午前中の下準備の際、先生が白和えの食材を混ぜるタイミングを気にしていらしたが、そういうことだったのか! 私、どんな時もたぶん先生の言動の意図を1割も汲み取れていないわ……。

飯器

今回も亭主が飯をつごうとしてくれるが、辞退するのが型。自身で飯器の蓋を取る。するときれいなちらし寿司! エビ、きぬさや、ゆりね、紅生姜、錦糸卵、椎茸が彩りよく飾られていて華やか。ゆりねの先端がピンクに染まり花びらのような形にカットされていて可愛かった。

この間に水屋のほうで亭主、水屋担当、先生の御三方も食事を取られる。客側の私たちは食事が終わり次第、お詰めの三客が茶道口に鉢や飯器を返却する。

小吸物碗

食事を終えたタイミングで小吸物碗が運ばれてくる。中身は梅干しと針生姜。さっぱりとしておいしい。お口直しのシャーベット的な位置付けなのかな。客全員で動きを揃えて椀を持ち上げ、蓋を取り、一斉に口をつけるのがおもしろい。集団行動の始祖かな(違う)。

八寸・三献目

八寸はのし梅とほたて貝。海のものと山のものを載せるのが八寸のルール。のし梅は初めていただいた。和風の高級グミという感じでおいしかった(グルメレポがえげつない低脳)。

ここで主客で盃をかわす「千鳥の盃」があるが今回は省略。

湯斗(ゆとう)・香の物

最後に湯斗と香の物。焦げ飯に湯をかけた湯づけとお漬物3種。食後それぞれの器と箸先を懐紙で拭き、全員で一斉に箸を膳の内側に落とす。

主菓子

箸を落とす音を聞き、亭主が膳を下げてくださる。続けて縁高に入った主菓子が登場。
「春の水」と名付けられたお菓子は求肥のお布団の中に真っ赤な苺のジャム! 求肥をピンク、白、水色とパステルカラーのグラデーションで表現してあるのも見目麗しいし、味わいにもサプライズがあって、いつも以上にスペシャルな茶菓だった。

中立ち

中立ち後「大、小、中、中、大」と銅鑼を叩く音が聞こえたら再度席入りの合図。

私、早く亭主をやってみたいなと思う理由の第一位は「銅鑼を鳴らしたいから」なので、とてもうずうずした。オーケストラのシンバルだったり、除夜の鐘だったり。ひとは金属を打ち鳴らすことに果たして本能的な欲求があるのだろうか(主語クソデカ)。早く銅鑼を鳴らしたくてたまらない!

後座の席入

再び席入り。茶花は桃と菜の花。ピンクと黄色が春らしくて、パステルカラーの圧倒的な多幸感を感じる。茶花から隣に飾られた雛人形、釜と順に拝見して再び正客のポジションへ。

濃茶点前

亭主のお点前が見事だった。先生が隣にいらっしゃらない時間も長かったのにお一人で淀みなく進めていらして思わず見入ってしまった。濃茶も温かく、ちょうどいい濃さでおいしかった!

それにしても濃茶は薄茶以上に点てるひとによって味わいが大きく異なるなと思う。自分はいい感じでお出しできているだろうかと毎回不安になる。

主客の問答も私のほうがもたつきながらもなんとか乗り越えられた。

薄茶点前

続いて薄茶。濃茶よりもさらに美しいお手前で本当にお見事! 

途中で先生と水屋担当の同輩がお菓子を持って登場! 食い意地とミーハーマインドが主成分の私は視界に入った瞬間にめざとく「ダミエだ!」と声に出してしまった……。本当に浅ましく食い意地のはったにんげんだよ……。いったい茶道で何を教わっているの……。サプライズ登場のお菓子に、またこの社中の優しさに包まれたのでした。感謝。

クラシックなフランス菓子の世界。我、一生推す。

徒然棚のおままごと感!

今日の棚は初めて見る「徒然棚」。棚の上部が引き戸になっている。雛飾りの六、七段あたりに飾られる小さな引き出し箪笥のような小じんまりとした可愛らしさがあり、上巳の節句にもぴったりに感じた。幼いころ小さな引き出しを開けたり閉めたりするのが好きだったことを思い出す。

すっかり忘れていたことをふとしたきっかけで思い出して懐かしむの、年齢を重ねたからこそ味わえるひとり遊びの最たるものだと思う。

正客とは砂かぶり席

終われば17時半! 丸一日お茶の世界に浸る贅沢な時間だった。駅までの道中に富士山も見え、とても清々しい気持ちで一日を終えた。

今回の感想を一言で言うなら「正客最高〜!」でした。最前列でコンサートを見ているような感覚。砂かぶり席で大相撲を見ている白鷺の姉御感覚(日曜天国)。

お手前も一番よく見える席で拝見できる。懐石も鉢や八寸は最初に箸をつけさせてもらえるので最もきれいに盛り付けられた状態で見られる。今日のしつらえについて亭主と自ら会話ができる。今回は銘々に点てていただいたが、コロナ禍以前なら濃茶も最初のひと口をいただける。いやもうありがたい尽くしです。

順番からいうと、次回の稽古茶事ではきっと水屋か亭主役なので、こんなにもお気楽能天気に楽しめる機会はしばらくなさそうだが、まずはお客側として一番良いものを楽しませていただいた!
次回からはその舞台裏を知ると思うと、不安も多いが楽しみ。

備忘録

亭主:SZさん
正客:me
次客:ITさん
お詰:TNさん
水屋:IWさん

次回に向けての改善点

・大きめのタオルか手拭い(水屋仕事の際にハンドタオルだと頼らない)
・ジップロック(濡れたタオルを入れて持ち帰りたい)
・小茶巾入(使い捨ての紙の小茶巾入れも良いが小茶巾入れを使いたい)
・タイツNG(足袋ソックスが履けず腰掛待合に向かう際の草履が履けない)


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