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2030年までに日本政府が作ろうとしている医療情報プラットフォーム①

未来の世界では、どんな医療が受けられるのでしょう。

現在のお年寄りたちは、月曜日は内科、火曜日はリハビリ、水曜は歯医者で、金曜はまたリハビリと整形外科の診察、などと、通院の用事で一週間のスケジュールがいっぱいのように見えます。でもわたしがお年寄りになるころには、どうやらそんな生活はしなくて済むようです。

というのも、日本政府は現在「医療DX令和ビジョン2030」を掲げて、医療分野のデジタル化を推進しているから。

日本は2022年10月、医療分野でのDXを通じたサービスの効率化・質の向上を実現するために、内閣に「医療DX推進本部」を設置。パーソナルヘルスレコード(PHR)の利活用を中心としたデータヘルス改革を推し進めています。

この改革によって、未来の日本の医療サービスがどれほど便利になるのだろう、というのが今回のテーマなのだけど、その前に、

この改革のために日本がお手本とした、北欧のデジタル医療先進国の「今すでに社会実装されているデジタル医療システム」を学んでいこうと思います。

そして「これらの国々のシステムの良いところを取り入れて日本のシステムを作るのだとしたら、未来の日本の医療はこうなるんじゃない?」という考察を、次回シリーズ②のほうで考えていきます。


1:フィンランドの健康情報ポータル「Kanta」

フィンランドは2022年、国連の電子政府ランキング第2位となった、言わずと知れたデジタル先進国です。

そのフィンランドで2010年に導入にされた、健康情報ポータル「Kanta」には、大きく3つの機能があります。

一つ目は「医療記録機能」。その人がこれまでに受けた治療の全記録、検査結果、検査画像、ワクチン接種の記録、医療証明書など、全ての医療情報が管理されています。

この情報は本人が同意しておけば、医療機関が必要な範囲内でアクセスでき、これまでの治療歴を参照したうえで新たな治療に取り組むことができます。

二つ目が「処方箋機能」。医師はがすべての処方箋をデジタルで発行または署名します。この処方箋の有効期間は2年(一部1年)で、更新リクエストが可能。患者はKantaページ内で閲覧したり、処方箋の発行を依頼したりすることもできます。

過去の処方箋は「処方箋データベース」と呼ばれる中央データベースに保管され、医師や看護師が薬全体をチェックして飲み合わせの確認も行います。患者は自分で選んだ薬局へ行き、フィンランド版マイナンバーカードである「Kelaカード」を提示して薬を受け取るだけ。
          
三つめが「健康データ機能」。患者自身が、自身の日々の健康データ(血圧や心拍数、血糖値、歩数や移動距離など)を保存するもので、これらのデータはスマホなどのデバイスからKantaに自動入力されます。

将来的にはこれらのデータを医療や社会福祉の専門家と共有できるようになる予定(クライアントデータ法)なのだそう。

北欧の国フィンランド

2:エストニア健康情報システム「e-Health」

エストニアも2020年、国連の電子政府ランキング第3位となった国で、行政のほとんどがデジタル化されている事で有名です。

この「e-Health」は2008年導入されました。

病院や医師によって生成されるデータの95%以上がデジタル化されていて、それらのデータはブロックチェーン技術によってセキュリティが確保されています。

フィンランドと同じように、「e-Prescription」(電子処方箋)というシステム上で医師が処方箋を発行。患者は薬局へいき、IDカードを提示して薬を受け取るだけです。薬剤師はシステムから患者の情報を取得して薬を用意。国の健康保険データを勝手に参照して適用してくれます。

同じ薬を処方してもらうだけなら医師にメールやSkype、電話で連絡を取って出してもらえますし、医師がすでに処方済みの薬と重複する作用の薬を処方しようとするとシステムから警告が鳴るので、処方ミスを防ぐことができます。

便利なのは「National eBooking system」というシステムで、国民が病院で診療を受けたいとき、オンラインで診察の種類や地域・希望期間を指定して検索すると、エストニアにあるすべての病院からその専門医師の予約可能な時間を割り出して、オンライン上で予約を完了させることができます。

自分の医療データは「e-Patientポータル」で閲覧することができます。
同意しておけば、必要時医療機関がアクセスすることができるので、例えば救急車を呼んだ時、本人の意識がなくても救急車内で持病や既往歴、服薬中の薬を確認することができます。

もちろん他の誰が自分のデータにアクセスしたのかも見ることができますし、必要であればデータをシステムから分離することも可能です。

バルト三国の一国、エストニア

3:スウェーデンのデジタルヘルスサービス「1177.se」

1177.seはスウェーデンの公式健康情報ポータルサイトで、2003年にストックホルム地域ではじまり、2011年には国内の全地域が参加するようになりました。

フィンランドやエストニアと同じように、処方箋の取得、自分自身のカルテの閲覧、医療機関への予約サービスなどがすべてオンラインで行えます。

また、健康診断結果や治療履歴などから自分自身にパーソナライズされた医療アドバイスも受けられます。

睡眠障害・うつ病・ストレス・不安などの問題や、ギャンブル・アルコールなどの依存症を持つ人びとはオンラインで治療を受けることができ、いわゆる「未病」というか、病気になる前の「不調」の段階からもケアが行われたり、受診のハードルが高い依存症にもしっかりとアウトリーチしている印象です。

医療情報は、本人の同意なしに第三者と共有されることはありませんが、特定の状況下で警察や裁判所の要求に応じて情報が共有されることはあるようです。これらは2008年に発行された「患者データ法」に基づいて行われています。

フィンランドのお隣スウェーデン

以上、今回は北欧の3つの国々で導入されている医療情報プラットフォームを調べてみました。

各国、導入された年を記載したのですが、びっくりしますよね。日本が2030年の導入を目指しているのだとすれば、これらの国々より20年遅れということになります。医療DXに関しては日本は5周遅れと言われるのも、うなづけますね。

次回は、この内容を参考に、2030年までに確立される予定の、日本版医療情報プラットフォームの中身を予想してみようと思います。

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