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ヘンな友達のやばい話 ( 4 ) 『悪魔の舌 ( 四 ) 』 村山槐多 (むらやまかいた)

村山槐多 ( むらやま かいた ) 1896年〈明治29年〉9月15日 - 1919年〈大正8年〉2月20日


村山槐多の100年前の怪奇小説

悪魔の舌

前回の ( 三 ) に続いて ( 四 ) です。

彼金子鋭吉と始めて知合になつたのであつた。彼は今年二十七歳だから其時は二十五歳の青年詩人であつたが、其風貌は著るしく老けて見え、その異様に赤つぽい面上には数条の深い頽廃した皺が走つて居、眼は大きく青く光り、鼻は高く太かつた。殊に自分が彼と知己になるに至つた理由は其唇にあつた。宴会は病的な人物ばかりを以て催された物であつたから、何れの来会者を見ても、異様な感じを人に与へる代物ばかりで、知らない人が見たら悪魔の集会の如く見えたのであるが、其中でも殊に此青年詩人の唇が自分には眼に着いた。

悪魔の舌』( 一 ) 村山槐多 より

アイツはすごい変だと思っている友人、金子からの謎電報をうけて会いに行ってみると、なんと死んでいた。
しかも、自殺という。
典型的な少年探偵推理ロジックによって
「キタッこれだ
油紙に包まれたブラックノートを無事発見

駆け上つて其石蓋をよく見ると上から十枚目と十一枚目との間に何だか黒い物が見える。引出して見ると一箇の黒い油紙包である。『是だ是だ。』と其を掴むや宙を飛んで家へ帰つた。
 包みを解くと中から一冊の黒表紙の文書が表はれた。読み行く中に自分は始めて彼金子鋭吉の正体を眼前にした。その正体こそ世にも恐ろしい物であつた。『彼は人間ではなかつた。彼は悪魔であつた。』と自分は叫んだ。読者よ、自分はこの文書を今読者の前に発表するに当つて尚未だ戦慄の身に残れるを感じるのである。以下は其文書の全文である。

悪魔の舌』( ニ ) 村山槐多 より

オマエだけに向けた手紙だぜ 的な黒い文章を読んで、
あいつは、変人や思ってたけど、やっぱりけったいなやつやな
と思わずにはいられない金子の変態独白を読者に紹介するというのが前回の ( 三 ) です。

友よ、俺は死ぬ事に定めた。俺は吾心臓を刺す為に火箸を針の様にけづつてしまつた。君がこの文書を読む時は既に俺の生命の終つた時であらう。君は君の友として選んだ一詩人が実に類例のない恐ろしい罪人であつた事を以上の記述に依つて発見するであらう。そして俺と友たりし事を恥ぢ怒るであらう。が願はくば吾死屍を憎む前に先づ此を哀れんで呉れ、俺は実に哀む可き人間であるのだ。さらば吾汚れたる経歴を隠す所なく記述し行く事にしよう。

悪魔の舌』( 三 ) 村山槐多 より

変な奴やと思ったら、あいつ悪魔やったんやな … と読者にそのブラックノート( 手紙 ) を読む、つづきのはなしです。
つまり、おまえだけにわかって欲しいから話す、とってもやばい話です。

きくよむ文学

悪魔の舌  ( 四 ) 
村山槐多 ( むらやまかいた )

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