見出し画像

おすすめの映画「タイトル、拒絶」

 「私の人生なんて、クソみたいなもんだと思うんですよね」という主人公の独白から始まるこの映画は、予告を観た時から気になっていました。

 主演の伊藤沙莉さん声は、どこかノイジーでいて心地よく、そのまま続く「カチカチ山」のたとえも秀逸で、自分はタヌキ側だったというところも、主人公の独特の視点を物語っています。

 【ここからはネタバレ全開で書きます】

 とにかく、「ああ、こういう人いるわあ」という共感と「この人はタヌキなのに自分のことウサギとして見てるな」という時の痛々しさ。でも、映画を観ている自分自身も自分のことをタヌキじゃなく、ウサギだと思ってることないか、と考えさせられました。

 勿論、ウサギのままで居られる人もいるんでしょうが、なかなかどうして、作中でマヒルちゃんが、どこ空虚な笑顔と本当か嘘かわからないことを言うのが、可愛いけれど不気味でしたね。

 一人一人が、それぞれの過去や事情を持ち込みながら、お店に集まってくるんですが、その中で主人公だけが詳しい過去がないというのが(性体験の話はあるものの)、ウサギのレースの中には居ない気もしました。
 そして、自らタヌキを引き受けながらも、やはり胸の中に秘めている気持ちやストレスはあって、それが爆発するシーンや大事な何かが崩れてしまった悲しみは、観ていて心を揺さぶられました。

 ちなみに、「カチカチ山」のモチーフのごとく、「ウサギ」のマヒルちゃんは東京が燃えてしまうことを願います。だからか、彼女がライターを持つ度に、スリリングな緊張が僕の中に走りました。

 最後の自分の人生のタイトルを付けないところは、SNSで自分を装飾することが当たり前になりつつある昨今、真逆のベクトルを感じて、どこか、突き放された気もしました。「そんな簡単に分かると思うなよ」と。

 映画の中では厳しい現実に足掻く人々の、時には心が通じあったり、何気ない幸せを見つけたり、というところもちゃんとあって安心しましたが、般若さんが今回も怖い!映画「ビジランテ」の時も怖かったですが、今回も威圧感たっぷりでしたね。だからこそ、終盤の容赦ない台詞も効いてくるんですが。「とっとこハム太郎」のところは、笑ってしまいましたよ。
 
 山田監督は、初の映画ということでしたが、時間の経過があっというまで、不思議な居心地のよさまで感じてしまいました。きっと、僕もタヌキだからだと思います。次回作はどんなテーマを扱うか、今から楽しみです。

 この作品で伊藤沙莉さんが、凄く好きになったと共に、僕も「クソみたいな人生」でも「タイトル」をつけるような背伸びせずにもがいてやろうと思いましたよ。

こんな大変なご時世なので、無理をなさらずに、何か発見や心を動かしたものがあった時、良ければサポートをお願いします。励みになります。