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【月はいつも見ている 〜兎〜 】  第1章 ep.03

嫌味をいくつか言われた駅員さんは、私たち駅の階段を降りるまで付き合ってくれた。

「すいません、ありがとうございました」

今会ったばかりなのに、私は彼女の友人になりきっていた。さっきまで顔面蒼白だった彼女の顔色は、かなりよくなってきたようだ。

「大丈夫です。歩けます。」

腰に回していた、わたしの手をゆっくりと丁寧にわたしの方に返した。まだおぼつかないけど足はしっかりとしてきた。駅からマンションまでは、目の前にあるので5分もかからない。

「かなり飲んじゃいました。ダメですよね〜記憶が飛ぶまで飲んじゃおうと思ってだけど、全然そうはならなくて‥」

「人によりけりですよね、わたしもそこまではどうかはわからないけど、母親が毎日仕事で飲んで帰ってきて、それを見てきているので深酒はした事ないんです」

何かあったんですか?そんなことは今会ったばかりなのに、そんなことは聞けない。

でも、彼女の方から事情を言ってきた

「パートナーと大喧嘩しちゃったんです。ちょくちょく些細なケンカはあったんだけど、今回ばかりは‥」

パートナー?その言葉を聞いてわたしはすぐに察知した。

「そうなんですか」

そんな話も長くは続けることができず、2人の住むマンションに到着した。

「今日はありがとうございました。差し支えなければお名前伺ってもいいですか?」

「ムカイと言います。お酒を飲まない夜の仕事をしています。」

「お酒を飲まない、夜の仕事?」

「と言っても、昼から働いてますけど、夜ってのはアッチの事ということです。」

キョトンとした顔をする彼女

「風俗です。」

「あ〜っ。そ〜なんですか、すいません名前を聞く前にわたしが先に名乗らないといけませんね。ノグチヒロミと言います。町工場の事務をしています。」

「何階ですか?」

「3階です。」

「わたしは5階です。」

「今日はありがとうございました。よかったら後日、このお礼をさせていただきたいので、部屋番教えてくれませんか?」

少し抵抗はあったけど、同性だからいいか‥

「503号です」

「ありがとうございます。私は301です。」

(いや‥聞いてないけど)

そんな会話を終え、エレベーターのボタンを押す。到着、2人中に乗ると言葉なく沈黙。それを私は嫌うように彼女に声をかけた

「顔色良くなりましたね」

「ありがとうございます。吐いちゃったらなんかスッキリしたというか」

「わかります」

いうてる間にエレベーターは3階に

「ホントにありがとうございました。」

扉が閉まるまで、ずっと頭を下げ続けるヒロミ

右手で軽く手のひらを振って

「ふうぅう!やれやれ」

今日はぐっすり寝れそうだ。




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何事も中途半端だった今年で55歳になるじじぃ。クオリティーは求めずまずは小説を完結させることを目指して書いていきたいと思っています。 書き上げたエピソードは何度も書き直し手直しをしちゃいますので、その点を踏まえて読んでいただければありがたいです。

過食症を抱える風俗嬢と、定職をもたない6歳下の青年との同棲物語。

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