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【フリー台本/ #緑雨の花嫁】狐の嫁入り

世間話の流れで不思議な出来事について話す内容です。
改行は話し相手からのリアクションがあった想定で処理してください。


利用について

こちらは『#緑雨の花嫁』という企画に寄せて書いた台本です。
開催期間中は企画元のルールにも則ったご利用をお願いします。

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話の流れが変わらない程度の改変(口調や性別の変更等)はご自由に。

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台本

斜向かいの兄ちゃんがお嫁さんを迎えた?

え、私は逃げられたって聞いたけど。
……なんか、話が真逆で気持ち悪いね。
誰から聞いたの? 私はばあちゃんからだけど。
ほら、ばあちゃんアソコのおばちゃんと仲良いから。

ふーん、なるほどね。
私の情報源の方が近しいっぽいね。

良いよ。教えたげる。

えっとね、その日は夏の初めにしては暑い日だったんだって。
向こうが陽炎でユラユラ揺れるくらいに。
それからお堂に入る前から天気雨も降ってたみたい。
せっかくの日なのにちょっと嫌だよね。
……今知ると、凄く意味深な感じがするけど。
まあ、聞けばわかるよ。

でね、ちょっと珍しいんだけど、お嫁さん方(がた)の家系が熱心な仏教徒で、本人も白無垢が良いって言ってたらしくって、仏前式になる筈だったっぽい。

ほらアソコ、あのお稲荷さんを祀ってる大きなお寺で式を挙げようとしたんだってさ。

そう。お嫁さんとは学区が違ったから知り合ったのは成人してかららしいけど、お互い地元だから見知った場所だし、良いかって事で兄ちゃん達も賛成したみたい。

出来ればドレスも見たいって兄ちゃんが駄々こねて後日フォトウェディングも予定してさ。
……結局どっちもまともにしないまま居なくなっちゃったけど。

うん、居なくなった。
――お寺でどうやって結婚式を挙げるか知ってる?

まず、お坊さんが仏様とご先祖様に2人が結婚しますよ〜って事を小難しく書いてある文章を読み上げるの。
それから、数珠を交換し合う。

そうそう、指輪の代わり。
その後もお焼香焚いたり、お酒呑んだりが続く筈だったんだけど、お坊さんからお互い数珠を受け取って手を合わせるでしょ。
兄ちゃんがふと横を覗くと、居なくなってたんだって。数珠だけを残して。

ふふ、変だよね、別に兄ちゃんだけじゃないんだよ、その場に居るの。

お坊さんだって居たし、参列者だって居た。
でも兄ちゃんがそうして気付くまで誰も不思議に思ってなかった。

そっからはもうおばさんも記憶が無いって。
そりゃそうだよね、ハレの日にそんなん……ねえ?

まあ、雨降ってたとは言ったけど。意味が違うでしょ。意味が。

何? 間男がやってきてお嫁さんと2人で抜け出す想像とかしてた? 修羅場確定だけど、そっちの方がある意味良かったかもね。
行き先は分かるし。
暑さが見せる幻覚な訳もなく、これが現実よ。

お稲荷さんを祀るお寺で降った天気雨に消えたお嫁さん。
もう、狐に攫われたと思わなきゃやってらんないよね。

あら、ピンと来ない?
天気雨の別名は狐の嫁入り。
来世に結婚しましょうとでも狐と約束してたのかしらね、あのお嫁さんは。

……そういう訳だから、他の人に聞き回っちゃ駄目だよ。

与太を語りて銭を貰いつつよろづの事につかひけり。 (尾花の血肉になったり、活動を豊かにする為に使います)