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桐朋の祝辞から見えたこと「制限は感動を生む」

話題になっております桐朋高校・卒業式の祝辞。

いや、素晴らしかったです。「教養とはこういうものだ」と見せつけんばかりの名文。何を見て何を食べたらまだ18歳の男の子がこんな文章書けるのでしょうか。自分は高校卒業したとき「これでやっと渋谷のスイーツパラダイスに行けるわ~」としか思ってませんでしたよ。でも私だってこんな文章書いてみたい。

というわけで何が素晴らしかったのか、ちょっと言語化してみたいと思います。

情景描写力もすごいのですがやはり圧巻なのは、蝶の出だしから大鵬のラストへ持っていくという発想力。

「ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきは、巡り巡ってアメリカ・テキサス州のハリケーンの原因となりうるでしょうか」

若干・・いやかなり唐突なこの出だしは、この祝辞全体を貫く「風」というテーマからブレることなく、最後の大鵬のくだりにしっかりと帰結していきます。

大鵬とは横綱や卵焼きのことではなく、中国に伝わる伝説の巨鳥のことです。
「蝶の羽ばたきのような、一見無風に近い大したことのない動き」からスタートして「我々は大空を悠々と飛ぶあの伝説の大鵬である」へもっていく、ここに自分はある種の成長物語のようなカタルシスを感じました。

古今東西、人が最も愛する物語のテーマは「成長」です。恋愛でもサスペンスでもホラーでもありません。
「主人公が困難に逢いながらも試練に立ち向かい、仲間と共に成長していく」という流れは朝ドラもハリウッド映画も日本神話も使っています。ヒーローズジャーニーとも言われる手法です。

コロナ禍であっても勉学の歩みを止めなかった我々であれば、この世界に旋風を巻き起こして見せる。

若さ、見方によっては少々傲慢にも感じるこの主張は、数々の在学時の破天荒エピソードや主張を裏付ける偉人の言葉を引用しながら、自分たちの成長物語に乗せて聴衆の心を揺さぶってきます。

いやはや、、本当に何食べたらこんな発想できるんでしょうか。。

とここまで書いて、この素晴らしい発想を生み出したのは「卒業生293名と先生方の名前の字を入れる」という制限だったのではないかと気づきました。

人は真っ白い画用紙を渡されて「これで自由に絵を描いて」と言われると却って何も描けなくなるものです。でも「リンゴの絵を描いて」「あのおっさんを描いて」と、テーマを与えられると何かしらは描けます。

テーマやルールは時に創作者の発想を縛りますが、だからこそ生み出されるものも多くあります。

きっとこの文章を書いた方は「そうだ、全員の名前を入れよう!」と思いつきながらも最初は「なんでこんなルールつくっちゃったんだろう・・いやつくったの俺か」と泣いたことと思います。

でも「風」「大鵬」「翼」といった卒業生一覧の名前を見ているうちに、少しずつこの素晴らしい祝辞の輪郭が浮かび上がってきたのではないでしょうか。いや知らんけど。

ルールは人を縛る。でも時にこんな素晴らしい感動をつくり出すリソースとなる。

素晴らしいとしか表現できない自分の語彙力の限界が憎いですが、本当に素晴らしい祝辞でした。そして、卒業おめでとうございます。






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