なぜだか心惹かれるメロンフロートの緑と白
幼い頃、色鮮やかな食べ物を食べることを許されなかった。
同居している祖母は、近所のシニアを集めて高い健康食品を売りつける健康教室なるものにせっせと通っていて、そこで教えられた「着色料が人体に与える恐ろしさ」から、孫たちに色がきれいな食べ物の一切を禁じた。
しかし幼い子どもというのは、色鮮やかな食べ物に惹かれる生き物である。ねるねるね~るというかき混ぜて色が変化するお菓子のパッケージに惹かれ、サーティーワンに行けばなんだか一番色が美しいものが美味しそうに見えた。
とりわけ憧れだったのはメロンソーダだった。氷の入っているガラスに注がれたメロンソーダは、なんだか神秘的な緑をしていて、それにバニラアイス、やけに赤いさくらんぼを載せたメロンフロートは、見るだけで心躍るものがあった。
しかしきょうだいがこっそり食べて、祖母にこっぴどく怒られているのを見ると「あそこまでして食べたり飲んだりするのも嫌だな」と思い、色がきれいな食品への憧れに蓋をして生きてきた。
そうして大学生になり、なんとなく受けたら採用してもらえたケンタッキーで働き始めた。当時、バイトさんは休憩中ドリンクが一杯無料で飲める制度があり、最初はウーロン茶ばかり頂いていた。
だがある時「もう誰も怒る人はいないし、メロンソーダ飲んじゃおうかな」と、休憩中にメニューにあった禁忌の味を飲んでみた。
喉越し爽やか、メロンの香りと甘さはとても美味しかったが、正直「ふーんこんなもんか」という感じだった。
私の知り合いで、大学の運動部での練習がとても辛く「この辛い部活を引退したら旅行に行くぞ」と旅行への想いを励みに、厳しい練習に耐えた人がいる。彼は晴れて部活を引退後、ラスベガスに行ってみたが、正直思ったほど楽しくなく「やりたいと思ったことは、その時やらないと楽しくない」ということを学んだそうだ。
自分も一番メロンソーダを飲んでみたかった幼い時に飲んだら、きっと今の何倍も美味しく感じただろう。
当時のケンタッキーは夏限定でフロートのメニューがあった。メロンソーダ・オレンジジュース・アイスコーヒー・アイスティーにプラス50円でバニラアイスが乗せられるシステムだ。
他のファーストフードではソフトクリームを乗せる店が多い中、ケンタはバニラアイスだった。私はなぜかバニラを綺麗にカップから出して、美しい形のフロートを作るのだけは得意だった。
今のケンタはドリンクは全て紙コップになってしまったが、当時はフロートメニューとアイスコーヒーは透明なカップに入れて提供していたので、幼き日に憧れたメロンフロートを夏になるとせっせと作った。
そして「お待たせしました、メロンフロートです」とお出しすると、お客さんの表情がどこか平和な感じがしていて、その顔を見るのが好きだった。
特に今となってはものすごく食べたいというものでもないのだが、今でもバニラアイスが乗ったメロンフロートを見るとなぜだか心踊るものが、ある。