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夢に向かって歩くことは、誰かのギフトになる

宝塚が好きだ。元々は劇団四季や帝劇のミュージカルファンだったが、徐々に宝塚に移行した。
男役さんだけが持つカッコ良さ、娘役さんの可憐な仕草やドレス捌き、豪華な舞台に音楽。その世界観に魅了されるうちに、舞台の端っこにいた下級生が試練を乗り越え、立派なスターに成長していくプロセスを見るのが楽しみになっていた。

タカラジェンヌと一言で言っても、スターへのプロセスは様々である。
劇団が「この子は絶対にスターにする、劇団が何としてもそうする」と決めて徹底的な英才教育を施されるジェンヌさんもいれば、劇団から最初はあまり評価されなかったものの、数少ないチャンスの糸を手繰り寄せて人気スターへの階段をよじ登っていく根性系のジェンヌさんもいる。

私が応援していた元月組トップ娘役の美園さくらさんという方は、その中間に位置するようなジェンヌさんだった。
歌える・踊れるということでスター候補生の一人ではあったものの、劇団から猛烈なプッシュはあまりなかった。その後の月組の演目が歌唱力を必要としていたこともあって美園さんがトップ娘役に選ばれたが、先代のトップだった愛希さんが偉大な娘役だったせいか、最初はどこか自信なさげで萎縮したような雰囲気だったのを覚えている。

だが「地位がその人をつくる」というのはある意味本当で、美園さんはトップ娘役としてどんどん美しく、舞台の上で立派な大輪の花を咲かせるようになっていき、それを観客側として見ている私には自分のことのように嬉しく思えた。美園さんは大劇場4作を務め上げ、昨年惜しまれつつ退団。

退団した後のタカラジェンヌは、ほとんどがすぐSNSを開設する。そして芸能関係の道にそのまま進む人も多い。特にトップスターは何もしなくてもいくつかの芸能プロダクションからお声が掛かるという。
しかし美園さんはというと、退団後まてど暮らせど芸能界入りの知らせは届かなかった。SNSも一切やってないようで、ファンサイドとしては次第に「もう、さくさく(美園さんの愛称)が元気でいてさえいてくれればいい」と思っていたが、今年の春「美園さくら、慶應義塾大学院に合格」というニュースが飛び込んできた。予想もしなかった方向からの報せに、私はそのニュースを見ていたスマホを手から落としそうになった。どうやら美園さん、多忙な宝塚での生活を縫って大学の通信課程を修了し、退団後は院に進んだらしい。退団後大学に進むジェンヌさんはたまに聞くが、トップ経験者で院に進学されたのは異例中の異例で、ヅカファンの間でちょっとしたニュースになった。

美園さんは在団中辛いことがあっても「誰かに相談したら、そのことが広まってしまうのでは」と中々苦しみを吐き出せなかったらしく、今はその経験をもとに、宝塚や日本のアスリートへ安心安全なカウンセリング環境を整えることを目標に勉学に励まれている。

こうやって見ているとSNSでの反応に一喜一憂したり、人となるべく同じ道を歩くようにして安心している私と、すごい違いを感じる。他人の視線を気にして言い訳ばかりで結局一歩も動けていない私には、目標に向かってまっすぐ進む美園さんは時に眩しすぎる存在だ。その一方で自分の目標を見失いそうになった時、美園さんのことを思い出すと自分にエネルギーが戻ってくる感覚がある。

最近どうしても行きたくない・でも行かなければいけないと思っていた講座に行くべきかどうか迷ったのだが、美園さんがまっすぐ自分の行きたい方向に向かって歩いている姿をふと思い出し、辞めることにした。
でも結局その空いた時間に以前から気になっていた本を商業出版するための講座にいける事になり、これでよかったんだなと思えることがあった。

自分の夢ややりたいことに向かってまっすぐ歩く姿は、それだけで周りの人にとってギフトとなる。足元にも及ばないけど、そんな人たちを見習って、自分も自分の道を歩いていくことを目指している。


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