俺と友人のいつもの喧嘩がお互いの会社同士を巻き込んだ壮大なバトルに発展していてクソ笑える件(1)

いや、実際はビタイチ笑えない話なんだ。

俺と友人が見舞われたクソみたいな修羅場について書く。
ちなみにまだ現在進行系であり余談は許さない状況だ。
とはいえ、あまりにもシュールな状況ではあり、これは記録の価値があるとみて、できるだけ時系列に沿って修羅場のライブ感を伝えたい。ごく些細な問題がここまで拗れるのか、という稀有なサンプルを見た思いだ。

そもそもの発端は月曜、仕事のついでに立ち寄った池袋で友人と待ち合わせをしていたことだ。その友人とは長い付き合いで、俺が仕事で運営していたWebメディアの編集やライティングを発注していた経緯もあり、貸していた資料(書籍)を返却してもらう用向きだった。仕事中に時間をとらせる手間もあり、友人が働くオフィスの近くまで来ている。

ところが、オフィスの近くに着いたことを告げても返事がない。ふだんはすぐにレスポンスがあるLINEに既読さえつかない状態だった。なにかあったのかと勘ぐる。というのも、最近いい年こいて色々あった友人が、やや精神的に不安定になっていることは知っていたからだ。共通の知人に近況を聞いたりしながら、しばらく近くのカフェでつぶした。めずらしく週末を挟んで更新のないTwitterも気になっていた。

あまり立ち寄らない池袋ということもあり、面倒ながら友人の会社を訪ねてみることにした。はじめての訪問にやや緊張しながら、入り口の内線で所属と氏名を名乗り、友人を呼び出す。できるだけお上品な笑顔も用意した。
しかし、いま思えばこれがすべての元凶だった。

しばらく待たされて知らないスタッフが出てくる。呼び出した友人のことはなにも言わず、どのようなご用件でしょうか、と警戒心を隠さない様子で聞いてくる。やや面食らいながら「友人から受け取るものがあって」と来意を告げる。スタッフは奥に引っ込んでいった。次に出てきたのはマネージャーらしき男だ。友人は欠勤しているという。驚いた。驚きながらも、連絡がつかず不躾な来訪になったことを侘びて辞去した。

アポイントがあるのに出社していない──?
嫌な予感がした。金曜の時点では元気そうだった。
歩いて数分の自宅を訪ねてみることにした。ちなみにクソ暑い。
結論からいうと、彼はピンピン生きていた。ホッとする。
台風で体調を崩して寝込んでいたとのことだった。ほんとふざけるんじゃないよ、という話なんだけど、俺も友人の電話番号を間違えていたことが判明するなど、自分の粗忽を忌々しく思った。
ひとまず、連絡がつかなかったので仕方なく会社を訪ねたことを言う。友人は会社に電話をして不意の来社についてマネージャーに説明したようだった。自宅で寝ていることを予想した共通の知人のカンの良さにふたりで驚いたりしながら、少し無駄話をして友人宅をあとにした。

「おまえな、心配させるんじゃないよ」
「いや、おまえが心配しすぎなんだよ」
ふつうはこれで済む話だった。
ところが翌日、まったく予想の斜め上に事態が急変する。

翌朝である。
広報の人間とコンプラ委員の人間からメールが来ていた。
なにやら会社の代表番号にクレームの電話があったという。相当な剣幕だったようだ。なにやら昨日友人を訪ねた会社の女社長らしい。固有名詞に配慮してメールを引用する。

「おつかれさまです。
本日9時に○○○社から本社の代表番号に朧(※俺の本名)さんへの電話がありました。
お電話の中でおっしゃっていたのは、先方にお勤めのライター様が、副業で個人事業として弊社の朧さんとお取引があり、納期の件で急ぎ女社長様がお話をされたい、とのことでした。
先方の会社様は副業を許可しているものの、本業に支障が出ている状況であることから詳しいお話を聞かせていいただきたいというようなことをおっしゃっておられます。
お話が進まない場合には弁護士を通じて、というようなこともおっしゃっており、大変お困りになられているようで、どうしても急ぎお電話を、とのことでございましたが会社の規定上、朧さんのお電話番号を直接お伝えすることは行っておりません。

*本メール確認され次第、お電話をお願いいたします。
電話に出なかった場合にも必ず折り返す、とのことでごさいました」

この時点で何がなんだか分からない。
とりあえず慌てて広報やコンプラのひとたちに電話して話を聞いてみる。ところが、話を聞けどもいまいち要領を得ない。なにやら俺が友人に発注している副業に関して問題の女社長が迷惑している趣旨のアウトラインは分かったものの、納期とか弁護士とか、ひとつも意味が分からない。聞けば電話を受け取った人間も一方的にまくしたてられただけで、女社長の話を上手く汲み取れなかったという。

話の通じにくい相手だということは想像できた。なにか誤解があるのかもしれない。やれやれといった心持ちで女社長に電話をしてみる。結果は案の定だった。俺が説明を差し挟む余地はほとんどなかった。
電話の内容を要約すると、うちの社員のところに副業の納期の件で来たのは分かっている。副業のせいでうちの社員の勤務態度が不良になり困っている。弁護士を通じて御社に開示請求をする。とかなんとか。発注は事実なんだけどそれは先月で終わっているし、副業の件で訪問したわけではないといくら説明しても分かってもらえない。うちの社員と口裏を合わせてシラを切るならもういいですからこれから弁護士に行きますからと絶叫のあと、電話が一方的に切られる。

もうね、呆然だった。
友人は副業について問題の女社長に断りを入れており、女社長もそれを分かっているようなんだけど、なぜこのようなキレ方を会社の代表番号に受けているのか。そういえば訪問時に先方の名刺だけをもらった不手際に思い至る。社会人のくせに名刺を持ち忘れていたからだ。

とりあえずヤバい事態になっていることは分かったので、渦中の友人にコンプラから来たメールを抜粋して相談すると「はぁ?マジかよ」という反応である。どうやら友人に経緯を確認することさえなく弊社の代表番号に電話してきたらしい。聞けば、友人は問題の女社長からそこそこ気に入られていたものの、先日いちどだけ居眠りをしているところを見咎められられたことがあったという。会社を訪ねたことについてひととおり抗議を受けたあと、こんどは友人が女社長に電話する。
やはり激オコで話にならないらしい。友人の言葉で話を要約すると「副業の人間(俺)が本業の会社に来て受け渡しがどうとか話をするのがナメている。先日の居眠りなどからも怒りに火が付いたっぽい」とのこと。女社長の断片的な弁をいろいろすり合わせると、どうやら「受け取るものがある」とスタッフに説明した来意が、女社長には「(副業の)納期の件できた」と勘違いして伝わったらしいことが分かってきた。まして友人は欠勤であり、これも副業の“納期”のために欠勤したことを疑われた憂慮もある。

にしても、だ。
いきなり会社の代表番号に電話してきて話さえ通じない女社長の剣幕には困惑するばかりで、とはいえ、最初に会社を突然訪問したのは自分であることにも思い至り、なんとも皮肉な対称性に目がくらむ。

連絡のつかぬ友人を心配して会社を訪問したことに事件の発端があったことはそのとおりである。この点は大いに反省している。しかし、このあたりの友人からの抗議にはすばらしい喩えと名言が続出しているので、紹介しないままでは惜しい。同時にこれは俺の落ち度を指摘する言葉でもある。

「愛人が本妻の自宅にトイレ借りにくるようなもんだぞ!」
「お前が突撃お宅訪問したのが問題なんだよ!!!!」
「納期が迫って手渡しって、俺の副業は木彫りの彫刻屋かよ!」
 ↑これは女社長の勘違いについてボヤいている
「この案件、最悪マジでクビが飛ぶからなんとかしてくれ」
「もう最悪ふたりでタピオカ屋やろうぜ」
「さもなきゃもう今からラブホのシーツ張り替えるバイト探すぞお前」

いい年こいた中年がLINEで罵倒しあいながらオロオロしているさなか、こんどは経理の人間が俺をシメに来る。毎月20日付近になると支払い処理の不備について俺が欠かさずゴメンナサイし続けているひとたちだ。こんな電話が来たんですけど...と、定型の電話メモと一緒に女社長から電話があった内容の報告を受ける。電話メモと話の内容を要約すると以下の通りである。

御社の朧(※俺の本名)を名乗る人間が納期が遅れた件で弊社に直接乗り込んで来たが、御社と弊社の取引はないため確認の電話をした。朧の上司を出せ。

あっ、、、アッ、イ、イキそう。。。
ふざけている場合じゃないんだけど、実際こんな心境だった俺は。
なにしろ納期の話などは一言もしていないし、友人は締切に遅れたことが一度もない優秀な編集ライターである。ここは強調しておきたい。なお、電話メモの片隅には「色黒で茶髪」とカッコ書きで補足されていたことも見逃せなかった。どうやら俺の風体について説明された情報らしい。そういえば、友人の会社を突撃訪問したときはTシャツにダメージジーンズを穿いていたことに思い至る。まさか身なりの問題だったのか。
少しだけ弁明をさせてもらうと、俺は茶髪ではないし、髪が茶色がかって見えるのは単に傷んでいるからだし、日焼けはバイクで焼けたもので、さらに蛇足ながらジーンズはバイクでコケて少々破れたものであり、オシャレ的な意図は皆無であり、単にボロかっただけだ。
かいつまんで経緯を説明すると経理の人間はおおむね同情的な反応だったものの──とはいえ、そんな不審者が来たら先方もどうかと思うでしょ、との指摘は辛辣であり、ぐうの音も出なかった。反省した。

さて、広報、コンプラ、経理ときたら、最後のデザートは部長である。
会社の代表番号に投げられた個人あてのクレームは、はるか天界の高みから地上を這う社員まで階層的に染み渡る仕組みだ。これが会社組織である。

部長メール「女社長と揉めた件、話を聞かせてください」

4度目になる説明はうんざりする反面、無駄なく洗練されてもきた。
おおまかに経緯を把握した部長が先方に電話をすることになった。
思い返せば先日営業と揉めたときも担ぎ出した部長であり、内心は問題ばかり起こす俺にずいぶん手を焼いているはずで、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

さて、部長が先方に電話したところ、女社長の側近が電話に出たらしい。
側近に言付けた内容を要約すると「うちの社員が不躾な訪問を失礼いたしました。事情もうかがいましたし、今後御社の社員には一切発注いたしませんので、ご容赦ください※要約」というもの。なにやらうちが全面的に悪いような言い方になっているけれど、女社長の側近は、ではそのように女社長に申し伝えるということで、いったんボールは先方に移った。

しかしここで新事実が判明する。
女社長の側近から友人が伝え聞いた内容によると、なにやら女社長がキレている理由は、友人いわく「女社長に副業申請の書類を出した際の会社がおまえの会社(=うちの会社)ではなく、おまえの会社(=うちの会社)が同じ案件で制作を委託しているWeb制作会社だった」ということらしい。これは俺としても初めて聞く話だった。
要するに、副業として友人が申請し携わっているWebメディア案件は同じなんだけど、原稿によってはうちの会社から友人に直接発注したものもあり、女社長としては、申請書面にない会社の俺が来訪したことで、友人が申請書面に違約して隠れて副業をしまくっていた、と勝手に誤解して弊社に鬼電をかましていたらしい。

この件は部長に追加で報告を上げた。
友人としては、発注者である弊社からの説明でなければ女社長の誤解は解けないという。ならばそのように説明するんだけど、書類上の違約は新事実に照らせばそのとおりではあり、いったいどうなることやら見当もつかない。

俺としては、この数奇な修羅場のどこから自分の反省なり教訓をみちびくべきなのか、いまだに言語化は及ばないまま、ひたすら友人の進退を心配しているんだけど、俺も友人も、ほとほとサラリーマン稼業には嫌気が差してきた、という点では一致している。コンプラだなんだとやかましい会社にいるのも、ワンマン社長が支配する小さな会社にいるのも、社会適正が低いやつにとってはひとしく辛い、ということかもしれない。

(続く)

CMのあと、さらに驚愕の展開が!!