俺と友人のいつもの喧嘩がお互いの会社同士を巻き込んだ壮大なバトルに発展していてクソ笑える件(2)

さて、事件の続きである。

理非はさておき、問題の女社長の側近に「うちの社員が不躾な訪問を失礼いたしました。事情もうかがいましたし、今後御社の社員には一切発注いたしませんので、ご容赦ください※要約」と相手のクレームに対応するかたちでうちの部長から侘びをいれた、その続きだ。

なにしろ俺としては会社を突然訪問することになった不躾はあるにせよ、会社と会社の関係としてはそれ以上の落ち度はないはずで、そこから先は自社の社員の副業の取り扱いについての問題になる。ふつうは昨日の説明で終了しそうな話なんだけど、回答したボールはなぜか、女社長の側近を通じてさらに質問を重ねられるかたちになって戻ってきた。いまさら不条理は言わないけれど、当然、誤解を詫びる言葉はない。
質問は以下の2点である。これについて詳らかに説明せよ、という申し渡しである。
いいか?カタチとしては「申し渡し」だぞ?ここは笑うところだ。

うちの社員に発注した業務について
① 業務内容
② 発注期間
を開示してください。


え、いまさら??
というか弁護士先生はどこへ?

なんというか、ごくあたりまえの質問であり、女社長が俺と電話した時点で質問も回答もできる内容なんだけど、一方的にまくしたてるだけで話にならなかったのは説明した通り。逆に言うと、この情報さえ友人に確認しないまま弊社の代表番号に電話された不条理がより浮き彫りになった形だ。そもそも、従業員の副業について、雇用会社がその取引先に業務内容を問い合わせられる法的な根拠はどこにあるのか。

とはいえ──
なにやら申請書面に違約したかのように疑われている友人である。弊社からの発注が、友人が女社長に約束した同一の案件であることを説明して嫌疑を晴らさなければならない。わざわざ部長視点のメールで報告した。

友人さん(※友人の本名)に弊社から発注していた業務はWebメディアの記事の編集。当該Webメディアはもともと2015年から弊社が協力会社であるT社と一緒に企画制作運用にあたっていたが、編集者の入れ替えがあり友人さんは2018年4月から稼働。当初はT社からのみ支払いを受ける形だったが、ライターとの相性や関係性などもあり、一部の原稿は弊社から発注する形に落ち着いた。先月2019年8月、Webメディアの終了決定にともなって友人さんへの発注は終了しており、今後の発注予定はありません。
弊社の朧(※俺の本名)が御社に伺ったのは、仕事で貸していた資料(書籍)を受け取るために約束のうえ立ち寄ったもので、副業の納期とは無関係とのことでした。不躾な訪問となり失礼いたしました。


われながら大人になったな、と感じ入る文面である。殺すぞババアなどの縦読みもなく、友人の嫌疑にも暗に釈明を与え、事実関係としてはこれ以上でもこれ以下でもない簡潔さである。なぜこの説明を聞くまえに納期だの弁護士だのが出てきた理由はいまだに不明のままだ。とはいえ、やっとこれで長い戦いが終わったと思った。

ところが、である。以上説明した顛末を俺が友人にLINEで共有していると、部長からさらに電話がある。なんでも、女社長が“いま”怒っているのは来意への疑念でも発注元への疑念でもなく、それら当初の怒りはすっかり忘れ去られ「自社の業務に逸失利益があったかどうか」という内容に移っているらしい。これはどう説明しても悪文になるので重ねて補足する。
実は女社長の会社はある趣味分野のライティングを売りにしている(俺は聞いたこともないが)らしく、要するに、「友人が俺から受けた発注が自社の趣味分野と重複し、本来会社として正面から受けられたかもしれない仕事を逸失したのではないか」という確認(言いがかり)である。こんどはその点に関して説明を求められているようだった。

もうね、勘弁してくれよ、と。
友人に発注した業務は「編集」であり、これは特定の趣味分野について友人が企画やライティングをする業務とは根本的に異なり、女社長サマの会社の利益は妨げようもない。かなりの無理筋である。
このあたりで気づいたんだけど、問題の女社長は自分の怒りや疑念に正当性が失われると、その疑念や怒りの矛先をさらに探しはじめる精神構造らしい。まったく迷惑千万な話なんだけど、そういう人間がいないわけでもない。はっきり言ってしまうと、女のひとに特有の精神構造だ。

とにかく部長への回答は「一切関係ない」のひとことで済んだ。
とはいえ、副業で本業への逸失利益を疑われるのは、たとえ潔白であれ友人にとっては悩ましい。というのも、本業務に関しては守秘義務(機密保持条項)のために自分のアウトプットを開示して本業の趣味分野と無関係であることを証明できないからだ。ましてや確証もなく弊社の代表番号に怒鳴り込んできた女社長である。記事の内容についてもメディアについても、固有名詞は一切明かせない会社の判断は当然であり、ここは譲歩の余地もない。
いろいろ悩んだものの、友人には「女社長から記事の内容について聞かれたら、守秘義務を盾に弊社に照会させろ」と指示するほかなかった。
というか、この不条理な修羅場にもし弁護士サマの出番があるとすれば、それはこうした守秘義務で争うような局面になってからだ。電話口で弁護士ソングを連呼するのはいささか早すぎた印象を受ける。


長くなったけれど、友人と俺の行き違いに端を発する基地外バトルの顛末はたぶんこれで終了だ。というか、終了して欲しいと切に願う。俺としては経緯はどうあれ不躾な訪問になったこと、社会人らしい身なりを心がけるべき徳目について会社から譴責を受けた形である。残る問題は、俺の軽率な訪問のせいで女社長の機嫌を損ねることになってしまった友人の進退だ。これについては明日以降に分かるという。

なんというか、この3日にわたる事件を綴った本稿のタイトルについてもずいぶん悩んだんだけど、本件の修羅場からは様々な教訓が引き出せそうではある。
実際、弊社の管理の人間からは「フリーランスに業務を発注する際のトラブル事例」として、アンケートの配布を検討している話があった。反対側から見れば最近話題の「従業員の副業についての企業のありかた問題」である。これは受注側としても発注側としても見落としていた注意がありそうだ。実際あった。本件の特殊性はさらに、それが会社対会社の壮大なバトルに発展したことなんだけど、これは「特殊な個性を持ったお客様が会社の代表番号に電凸してきた場合の対応問題」としても教訓になる。明日以降は「感情的に暴走しやすいボスの下で働く社員の身の振り方」について教訓が得られそうだ。

(続く)

CMのあと、さらに驚愕の展開が!!