見出し画像

下着を使って意識を変える ~バストとコンプレックスと幸せ~ 龍 多美子


多かれ少なかれ、仕事とは常に他人との関わりの中で進められてゆくもの。
であれば、相手を尊重し、丁寧に、大切に接し、必要があればそっと寄り添う。これこそ、「スピリチュアリティを仕事に生かす」こと。
ー龍 多美子

直観に従ってみると

 今日、「スピリチュアル」という言葉ほど、よく意味を理解されずになんとなく、しかも頻繁に使われている言葉も少ないのではないでしょうか。
 私が「スピリチュアル」という言葉の響きから受け取るニュアンスは、物質的な豊かさや、他人や社会からの評価や称賛による充足感や優越感を得ることを目的とせず、本質的な自分から湧き上がる欲求や直感などを重視する、といったところでしょうか。
 そもそも私は、物心がついたあたりから、比較的直感に忠実に生きて来ました。そして大人になり、歳を重ねるに従ってその傾向は益々強くなって来たように思います。つまりそれは、できる限り自分の内側からやって来る感覚を信頼してゆだねてみるというやり方です。
 これを続けてみると、頭であれこれ考えて行動した時よりも、直感に従って行動した時の方が、「うまくいっている感」を感じやすいことが分かって来ます。
 自分の内側で起きる事を信頼し始めると、不思議なことに、目の前の相手の心の中で何が起きているかを察して、それを尊重することが出来るようになって来ます。

だれでも身体の青写真を持っている

 実は、私の仕事は下着屋です。18歳でこの仕事に就いて以来42年間、ずっと女性の身体を背後から見続けて来ました。その結果、分かったことがあります。
 それは、「その人が発する言葉や行動をこえたところに、その人が〈今生で持つ〉と決めた『肉体の形』というものが存在する」ということでした。それは、どんな人でも必ず持っている、言わば肉体の青写真のようなものです。
 しかし、青写真通りの形で生きている人は全体の20%くらいでしょうか。何らかの理由、例えば、病気なり、薬の副作用で20キロ太ってしまったとか、拒食症や、自律神経のアンバランスでどうしても太れないとか・・・色々な理由で、意図してきたはずの身体から逸脱してしまっている状態の
方が本当に多いのです。もちろん、その逸脱のプロセスも青写真に含まれているかもしれませんが。
 いずれにしても、ご本人が気持ち良く、女に生まれたことを心から喜び、幸せに生きて行けるような身体になって頂けるように、ご本人の主張と、この青写真からの情報を合わせて、最適な下着を選んで差し上げるのが、私の表の仕事です。

画像1

自己否定の檻から解き放たれて

 もう一つの仕事、つまり裏の仕事というのは・・・下着を使って、意識を変えて頂くことなんです。
 女性はどんな人でも、身体に関するコンプレックスの一つや二つ、持っているものですが、このコンプレックス、悪さをしなければ自虐ネタで笑って済むのですが、時折、どうしようもなくその人の精神を蝕んでしまうことがあります。
 例えば・・・
 ある女性がやって来ました。ごく普通の感じのその女性に、いつも通りにその人の青写真を見ながら現在の身体との間の距離を測って(といってもあくまで感覚です)一つのブラジャーを手渡しました。
 フィッティングルームのカーテンを少しだけ開けて、身体を滑り込ませ、鏡の中の彼女の身体に目をやった時、とても奇妙なものが目に飛び込んできました。それは、線のような、筋のような・・・。腕や胸、お腹などいたるところにそれはありました。
 それでも私は気に留めることなく、脇や背中に流れてしまった胸の脂肪に言って聞かせ、丁寧にブラジャーのカップの中に連れ戻し、あなたの居場所は本来はここなんだからと優しくさとし、淡々とフィッティングを続けていました。
 いつしか、彼女の胸は、ふっくらと膨らみ、綺麗なまあるい谷間が恥ずかしそうに姿を現しました。
 その瞬間、彼女の表情が崩れると、堰を切ったように涙があふれだしたのです。
 「わたし、自分の身体が嫌いで嫌いで仕方がなかったんです。だからこうやって身体を傷付けてしまうんです。貧弱だし、垂れてるし、こんな身体で生きていくくらいなら、いっそ死んだ方がましだと思ってました。でも、死ぬ前にこのお店に来てみようと思ったんです。」
 私は思わず彼女を後ろから抱きしめていました。気が付くと、私も一緒に泣いていました。

画像2


 こんな風に、時としてコンプレックスはその人の人格を破壊しかねないような猛威を振るうことがあります。でも、コンプレックスの種は、たいがい、子供のころの誰かの心無い一言であったりと、根拠のない思い込みであることがほとんどです。
 例えば「○○ちゃんて、胸小っちゃーい」という子供同士の悪意の無いやり取りであったり、もしかすると、スキニーなお母さんからグラマラスなお嬢さんに対する、何気ない一言かもしれません。「あなたったら誰に似たのかしらねー!」
 そんな小さな棘のような一言から、「自己否定」という檻を作ってしまい、自分自身を閉じ込めて、何年も、何十年もその中で苦しみながら暮らしている女性が本当にたくさんいます。私は、そんな彼女たちに「檻を作ったのも、閉じこもったのも自分」であることに一刻も早く気付いてほしいと思うのです。
 そして、一刻も早く檻を出て自由に、幸せに、「あー女で良かった」と生き生きと生きてほしいと心底思います。これが私の裏の、いや、本当の仕事です。

バストの在り様はその人のキャラクターに影響する

 では、下着を使ってどうしてそんなことが出来るのでしょう。そのカラクリを少しお話しすると・・・。
 今、世の中の下着売り場で行われているブラジャーの選び方では、本当に身体に合うサイズを選ぶことは出来ません。なぜなら女性の身体は、骨格も胸の形も千差万別なのにもかかわらず、どんな人でもたった二つの数字、つまり、「トップバスト」と、「アンダーバスト」だけでサイズを割り出そう
とするところに無理があるのです。
 そもそも胴体のサイズと、バスト自体のサイズは別々に推しはかるもので、この二つの情報を組み合わせたものが正しいサイズとなるのですが、より簡単に、画一的にサイズを判断する方法として、「アンダーバストのサイズを基準にして、カップの大きさはトップバストとの数値の差を適当に当てはめる」というのが、今のサイズの測り方です。これでは、本当に身体に合うサイズなど到底選べないどころか、せっかくのバストの丸みを押さえつけ、ふっくらと胸の上に乗っていた脂肪を脇へ脇へと追いやってしまう。
 その結果、気付いた時には胸の姿が消えていた・・・。なんていうことになってしまうのです。
 女性にとってバストの存在はとても大きく重要です。
 何故なら、女性が自分以外の誰かと向き合う時、たとえ、目を見て話していたとしても、視野の中に入る映像の真ん中にバストは位置していますから、いやでもバストの在り様は、その人のキャラクターに大きな影響を及ぼします。
 バストの在り様が、美しくすっきりと自立していたら、その人の人となりもきっとそうに違いないと、感じてしまうのは無理もないことです。
 こんなにも女性の存在に影響を与えるバストに、もしも「私の胸は最高!」と、文字通り胸を張ってオッケーサインが出せたなら、自分自身に対するそれまでのネガティブな意識は180度変わってしまうのです。
 前述の女性があの後、来た時とは別人になって、目をキラキラ輝かせながら嬉しそうにブラジャーを抱えて帰ったのを見て、ああ、この仕事をやっていて本当に良かったと、つくづく思うのです。 
 多かれ少なかれ、仕事とは常に他人との関わりの中で進められてゆくもの。
 であれば、相手を尊重し、丁寧に、大切に接し、必要があればそっと寄り添う。これこそ、「スピリチュアリティを仕事に生かす」ことではなかろうか。
 あれっ? これって自分にも言えること?
 そうなれば、もう、内側も外側もない。   
 あなたも私も消えてゆく・・・。

龍 多美子

1957 年生まれ。ランジェリーショップ Rue de Ryu 代表。
大学在学中にランジェリーショップでアルバイトを始める。24 歳の時に「女性が安心して着けられる」「本来の自分らしい身体になって、自分を好きになれる下着」を提供しようと独立、代官山に“ リュー・ドゥ・リュー” をオープン(現在は吉祥寺本店)。多くの雑誌や新聞、マスコミに取り上げられ、これまでにのべ7 万人に下着を提供。真摯なサイズ判断と愛に溢れたフィッティングで、全国に多くのファンを持つ。オリジナル商品「修行ブラ」を開発。2005 年より、自身の開発したフィッティング技術を「龍美術」として、下着業界で働く人、これから下着の仕事を志す人に向け発信、人材育成をスタート。業界発展のため、会社を問わず希望者全員に極意を伝授しているそのスタンスには、多くの称賛の声が上がる。


ここから先は

0字
このnoteでのOauマガジンは、すでに出版されているOauマガジンのWEB版です。 既刊(紙媒体)のOauマガジンをご希望の方は、こちらからご購入いただけます。 https://artbeing.com/cd_book/institute.html

今回の特集は、「スピリチュアリティを仕事に生かす」です。 さまざまなお仕事の方に執筆していただきました。 見えないものを言葉にするというの…

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?