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第1章 ポマンダーの由来

ポマンダーという言葉

あなたは、オーラソーマを知る前に「ポマンダー」という言葉を聞いたことがありましたか?
「ポマンダー」という言葉は、オーラソーマで初めて知ったという方が多いんじゃないでしょうか。

「ポマンダー」という言葉は、中世の暗黒時代に、保護とヒーリングのため、香りを発散させた方法から来ているようです。
英語辞書で「pomander」を調べてみると、「匂い玉」あるいは「匂い玉入れ」と出てきます。
「pomander ball」が「匂い玉」の意味らしいです。

ということは「pomander」って、日本語の“ 匂い袋” のような意味合でしょうか。
ただ、西欧の「pomander」は日本の匂い袋のような柔らかい袋ではなく、丸い形の固体みたいですね。

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ポマンダーの語源自体はフランス語の【pomme d’anbre】なのだそうです。
Google 翻訳で「フランス語」を選んで調べてみると、【pomme】は「リンゴ」、【anbre】は「アンバー」と出てきます。
「アンバー」というのは、琥珀(こはく)や松脂(まつやに)などの樹脂ですね。

フランス語の【de】には後続の名詞を形容詞にする働きがあるようですから、【pommed’anbre】とは、「アンバー(樹脂)のリンゴ」というような意味になるみたいです。
Google 先生に質問すると、いろんな方々が教えてれますね。
リンゴという言葉は実際のリンゴを指すだけでなく、丸いものの象徴としても使われたみたいです。
金や銀製の丸い容器なども【pomme】と呼ばれたようです。
そういう容器に樹脂や植物性の香料や、動物性香料として有名なムスク(麝香)などを入れて携帯したりしたんですね。

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この麝香(ムスク)のメスを誘因する効果は抜群で、メスの鹿どころか人間さえもセクシーな気分にさせるという不思議な力があることが知られていたのだそうです。
古くからそう信じられていたということなのかもしれません。
麝香の起源はもっとずっと古いらしく、古代ローマのディオスコリデスの「薬物誌」にも載っているそうです。

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そんな感じでヨーロッパでは、ポマンダーというのはハーブのブーケみたいに、魔よけや病気予防のためのお守りだったようです。

エリザベス朝のポマンダー

ポマンダーが一般的に知られるようになったのは十七世紀のエリザベス1世の時代です。
14 世紀に流行した「黒死病」では、わずか数年でヨーロッパ全体に広がり、人口の60 パーセントが死亡したと考えられているそうです。
ヨーロッパの全人口が半分以下になったというのですから途方もないことですね。

もっと以前の541 年から767 年にかけて、ユスティニアヌス帝時代の東ローマ帝国を中心に流行したものは、当時の人口の50 パーセント近くが死亡し、ローマ帝国の崩壊を早めたと考えられているそうです。

感染を避けるためにガスマスクを装着した当時のペストのお医者さんの姿です。むしろ黒死病そのもののイメージみたいなところもあります。

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後年十八世紀になって描かれた「ゴヤの巨人」は、圧倒的に巨大な力で猛威を振るって通り過ぎていく得体の知れない者への恐ろしさを表現した絵画だったのでしょうか。
そこにはもしかしたら黒死病の恐ろしさの記憶が刻印を残していたのかもしれませんね。

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もっともこの「ゴヤの巨人」と呼ばれてきた絵は、最近の研究では、ゴヤの真筆ではなく、その弟子のアセンシオ・フリアの作と見られているそうです。
1665 年9月から1666 年10 月まで数百人が死亡した英国中部のダービーシャー州のイーム(Eyam)村では、村全体を隔離するという、当時ほとんど前例のない手段を講じて、孤立状態で生活したことで有名なのだそうです。

当時は「香りもの」を携えていると、流行病のペストにかからないと信じられていて、ポマンダーというのは、そういう中世ヨーロッパで魔除けとして流行した香るアクセサリーの総称だったようです。

衛生概念などなかった時代に、異臭や伝染病などから身を守るために、芳香植物をミックスして護身用に身につけるのが流行したのだとか。
特権階級の婦人たちが、まわりの不潔な環境から自分を聖別して身を守るような意味合いもあったのかもしれません。

また十七世紀の英国の法廷では、裁判官が明晰な判断を下せるように、裁判官の机の上にりんごを置いて、それにクローブ(丁子)を挿していたのだそうです。
甘い香りをただよわせて、身体を洗っていない罪人の悪臭を防いだ、というような説明を聞くと、なんだか映画の世界に入っていくみたいですね。


アクセサリー化していたポマンダー

そんなポマンダーがその後アクセサリー化して、実用とお洒落を兼ねて流行ったんですね。
中世ヨーロッパの貴族たちは、練り香を入れた金銀で作られたポマンダーを首からかけたり腰にぶら下げたりして、流行病や嫌なニオイから身を守っていたのだそうです。

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クローブというのは、植物チョウジノキの開花前の花蕾を乾燥させた香辛料のことをいいます。

ところでこの「丁子」(チョウジ)という名前ですけど、植物名にしてはとてもきつい感じだと思いませんか。

字の形を見ると、むしろ鉱物的な雰囲気で、まるで「釘」みたいなところがですね、これが大当たりなんです。
なんとこの名前は、西洋でも東洋でも各国語で「釘」を意味するそうなんです。

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普通そのままなら傷むはずのフルーツが腐らないのは、果皮に刺さったクローブが果実の水分を吸い上げて、腐らせずにしっかり乾燥させてくれるからなんですね。
それが植物だけじゃなくて、動物性にも有効なようでハムにも丁子を挿したりするみたいです。

それを果物で作ったものがフルーツポマンダーと言われるものです。
現代に残っているクリスマスポマンダーはそのフルーツポマンダーの一種でしょうね。

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というわけで歴史的には「ポマンダー」という言葉には、香りや揮発成分によって邪気を払い、環境を浄化して、身を護るという護身用の聖なる香りの意味が込められていたわけです。

ハーブのポマンダーはペストの流行時に護身用に使われたわけですが、上でも述べたように時とともに神秘的で神聖な実体は失われ、その意味もぼやけていきました。

しかし、香りが聖なる儀式に使われたのは、もちろんヨーロッパにはかぎりません。
実際はそれ以前からも香りはあらゆる宗派や秘教スクールのマスターたちによって普遍的に用いられていました。

例えば、ネイティブインディアンがセイジを儀式に炊いて浄化に用いたり、仏教の伝統では、お香が寺院の儀式と浄化のために用いられているようなものです。

インカでは、中心に神聖なハーブを刺した木の実が使われました。

エリザベス王朝で、法廷の裁判官が他からの悪い影響を受けないようにハーブのブーケが渡されたのも、その伝統と無縁ではなさそうです。

いずれにせよ、人間の意識のあけぼのから、香料はいろいろな宗教の聖職者に使われてきたわけです。
しかし、科学万能が信じられる近代に入って、その聖なる香りの伝統はすっかり形骸化していました。

それで、クリスマスポマンダーのような形式化したアクセサリなどになって残っていたのでしょうね。

それを、元々の聖なる香りの伝統として現代に蘇らせたのが、ヴィッキーさん(オーラソーマの創始者、ヴィッキー・ウォール女史)のオーラソーマ・ポマンダーです。

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