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【読書エッセイ】白羽の矢は犠牲者に立つ

 「白羽の矢が立つ」という慣用句。

 これ、どういうふうに使います?

 ある本を読んでいるときに、栄誉な立場に選ばれたという文脈で使われていたわけ。

 読んだときの、わたしの思考。

 はぁ?

 慣用句もちゃんと使えないとか。

 編集さんも校閲さんもちゃんと赤チェック入れろよな。

 はーありえん。

 だいいち、語源が「白羽の矢が立った家の娘は、神の供養に出されて犠牲になる」だぞ。

 なんでプラスの意味で使えるんだ?

 ありえん。

 誰か同意してくれ。

 こういう時は、毎日新聞の校閲さんたちがやっている「毎日ことば」をみにいこう。

 ……。

 3分の2の人が、文意がプラスでもマイナスでも使っているらしい。

 マジかよ。

 言葉の意味が百八十度変わってしまうこと自体は珍しくない。

 例えば、「穿った見方」。

 「裏を考えすぎ、勘ぐりすぎている」みたいな意味で使われがち。

 でも、そもそも「穿つ」という言葉は、「突き抜けて穴を開ける」という意味。
 動詞としての用例を挙げるなら、「石を穿つ」とかね。

 だから、本質を捉えた鋭い見方、というのが本来の意味。

 とりあえず、詳しくは「毎日ことば」さんを見てくれ。

 個人的には、「穿つ」の誤用はまぁ、許せるし、「そっちが大勢になっているよねー」と思っている。

 でも、「白羽の矢が立つ」は許せん。

 「穿つ」は流石に日用語じゃないじゃん。
 「穿った見方(意見)」以外ではほぼ見ない。

 ラノベで「拳が敵の肉体を穿った」とか見るくらいで。

 そりゃ、誤用も広まるわなーってなる。

 しかも「うがつ」の漢字も普通に生きていたら書けないでしょ?
 漢字「穿」にしちゃうと、「穴」に「牙」なんだから、「牙でガッと穴を開けるみたいな意味だなー」とは思ってほしいけど。

 でも。

 でもさ。

 「白羽の矢が立つ」は小学生でも理解できる言葉で構成されてるじゃん。

 しかも、小学生でも漢字で書けんじゃん。

 そう、「矢」。

 「矢」だぞ!?

 「矢が立ってる」って明らかに攻撃受けてるよね?

 射てきた相手がいるわけで。

 害意あるじゃん。

 善意で矢を射てくるやついたら、マジこえーじゃん。

 同じ「立つ」でも、茶柱じゃねーし、
 錦の旗でもない。

 「矢」って時点でマイナスの文意になってるくないか?

 矢だぞ?

 「毎日ことば」のキャプション見てみろ?
 矢が刺さっている状態で「選ばれて光栄です!」って笑っているやついたら、やばくないか?

 他に、飛んで相手に刺さる武器で考えてみそ?

 誰それに「投げ槍が立つ」とか。
 どこに立ってても、死亡かそれに近い状態じゃん。
 落ちずに刺さったまま、ぶっ立ってんだから。

 な?

 武器が刺さってる状態をプラスと捉えるのはおかしいだろ?

 だから、「白羽の矢が立っ」てんのは、犠牲者だ。

 そう思うでしょ?(圧


 はい。

 あらかた怒りを吐き出せたので楽になりました。

 まぁ、百歩譲って無生物に使うのはいいとして、人物とか動物に使うのはやめておいたほうがいいんじゃないかなーと思います。

 「本来の意味はー」とか「語源がー」とか言い出すめんどくさい、わたしみたいな人がいるかもしれないからね。

 皮肉なら別ですが。


 というか、そもそも「白羽」なんですよね。

 この、「白」って不可侵で畏怖の対象の神を象徴しているはず。

 しかも、「矢」って神道とかで使われて、こっちも象徴的だよね。

 だから、語源を知らなくても「そういう雰囲気」は感じられる慣用句だと思うんだけど……。

 まぁ、感じられないから、誤用が勢力を増して大多数になってるんですけどね。

 なんかなー。

 そう考えると寂しいものがありますよね。

 引き継がれてきた含意を受け取れないってことだから。

  「神に選ばれて光栄です」と言いながら、心の中で泣いてるし、むしろ憎しみさえある。
 でも、神には逆らえない。

 そういう、深い含意がある。
 だからこそ、どういうふうに使いこなすか? というのが文章を書く側の命題でもあると思う。

 これは、「白羽の矢が立つ」という慣用句だけではなくて。

 全ての言葉において。


 はい、というわけで。

 今回はこれくらいで。

 皆様も、たまーには、言葉の語源や意味に思いを馳せてみてください。 

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