決まり手

「清志、今日の見たか?」
「今日の。何をですか?」
「何をって、今場所の千秋楽だよ。」
「今場所の千秋楽……あ、相撲ですか。」
「そうだよ。」
「すいません、見てないです。」
「はあ、これだから最近の若いもんは。」
 竜さんは深いため息を漏らしながらそう言った。
「すいません。」
「いいか、相撲ってのは日本の国技だ。」
「はい。」
「昔はな、神事、まあつまり神前での祈りだったり、神様にお伺いを立てる時に必要なものだったんだが、ある時から国技の一つになったんだよ。」
「なるほど。」
「相撲にはそれだけ長い歴史があり、それと同時に様々な側面も併せ持つ。世界に誇るべき日本の文化なんだよ。」
「わかりました。」
「うんうん。なんか質問はあるか?」
「質問、ですか?」
 想定外であった。今の話は為になったが、正直そこまで前のめりで聞いていたわけではない。
「なんだ?」
 以前このような場面に遭遇した時、質問がないと言って説教を受けたことがある。その説教の方が、その前の話しより長くなったので、とても印象深かったが、まさか同じ過ちを繰り返してしまうとは……
「じゃあ、あの!」
「じゃああの?」
「いえ。一つうかがいたいことがあるんですけど。」
「よし。」
「外国人力士の横綱が多いじゃないですか。あれはどう思いますか?」
「まあ確かに一部では、日本の国技なのにこのような状況になってしまうのはおかしい、という意見もある。」
 俺はしっかりとうなずく。
「しかしだ。世の中はどんどんグローバルになっていく。そうだろ?」
「それは間違いないですね。」
「そうするとだ、どこ出身なんてのは関係ない。」
「ほお。」
「相撲を理解し、しっかりと取り組む。それができるものこそ、真の力士であり、そんな力士たちを応援するのが真の相撲ファンなんだ。」
「うん。確かに、排除する理由はないですもんね。」
「その通り!誰が取り組むかじゃない、どう取り組むかだ。もちろん、日本人の力士に頑張ってもらいたいという思いは持ってるぞ。」
「それもそうですね。」
「清志、いい質問をするじゃないか。」
「ありがとうございます。」
「もっと聞いてきていいぞ。」
 もっと、だと。どうしよう、別段相撲に興味を持って生きたわけではない。こんなところが関の山である。考えろ、俺!ひねり出せ、俺!
 一瞬の間に頭をフル回転させる。
「あの、色んな必殺技みたいなのがあるじゃないですか。」
「必殺技?ああ、決まり手のことか。」
「そうです、決まり手。竜さんが好きな決まり手は何なんですか?」
「かあ、悩ますなあ。」
 そう言いながら竜さんは嬉しそうな顔をしている。
「まあでも結局、押し出しなんじゃないか。持てるすべての力を出して、相手を土俵際に追いやる。」
「なるほど。確かに、相撲といえば、って感じがしますもんね。」
「そうだろう。」
 竜さんはかみしめるようにそう言った。
「よし!そのうち、相撲を見に行こう!」
「本当ですか?」
「本当だ!一から叩き込んでやる。」
「ありがとうございます!」
 一般的な若者がどう思うかはわからないが、俺は、竜さんの言うことなら何でも挑戦したいと思うのだった。