歯を抜きました

1.あらすじ


 現在、矯正手術中の私。だいたい小学校5年生くらいから6年程続けています。現在、そろそろ終わりそうというところ。
 さて、事件が起こったのは2週間前です。何だか歯茎が痛むなぁ……と思いながらも過ごしていた日々。痛んでいる歯茎がそこそこ危ない場所なので、少し不安でした。
 というのも、私にはまだ乳歯が生えていました。その歯は虫歯でボロボロで、「いつか抜ける」と言われ放置していたのですが、それから四年、全く抜けない歯でした。しまいには乳歯が沈んでいき(=埋没)、主治医さんも「どうしようもねぇな」と、触らぬ神状態だったのです。
 そんな部分の歯茎が痛んだので、「もしや虫歯が神経に……?」という不安に駆られました。ですが、それは意外な展開を迎えます。
 なんと、歯茎の中に妙に固い感触が。骨? いや、これは……エナメル質だ!
 四年経って、今更、なんと永久歯が生えてきました。しかもあんまり宜しくない方向! どうしてくれましょうか。もう矯正も終わりだって言うのに、これではまた続いてしまう。しかし、これを放置する訳にもいかない。仕方なく、私は歯科医院に行きました。
 さて、主治医の判断。

「これ、さっさと乳歯抜いた方がいいね。一週間後に抜くよ」

 おお、なんということでしょう。手のひらつのドリルです。高校生が乳歯を抜くってどんな珍事でしょうか。私は主治医のセリフを思い出してました。

「多分もう出てこないですね。というか、この歯出てくる気ないと思います。まぁ、乳歯が虫歯なんですけど、変に抜いても歯列が崩れますし、もしかすると口から鼻まで開いちゃうかもしれないので、経過観察です。多分、インプラントとかもできないんじゃないですかね」


 ……仕方がないのです。生えてきた歯が悪いのです。先生は悪くありません。私は心の中指を立てながら、一週間後を待ちました。
 ただ、この頃はまだ気楽でした。乳歯を抜くのも、話のネタになるなぁ……としか思っていませんでしたね。実際、今は話のネタにしてるんですけど。

2.本編


 さて、当日。面白3割、恐怖7割の気持ちで病院を訪れました。今回の医者さんは中々フランクな男性です(雰囲気が私の国語の教師だったので、ネームは国語とさせていただきます)。余談ですが、私の通っている所は小児科中心の歯科なので、国語は

「今5歳児、5歳児で君が来たから、うわぁーって感じで」

などと言っていました。ごめんなさいね、大きなお友達です。
 手術開始。ベッドは私には小さかったです。今回抜く歯が全く揺れていない、取れそうにないということで、表面麻酔に加えて注射を表と裏からされました。私の筋肉は完全に麻痺、痛みなど感じません。
 まずは軽く引っ張る。ビクともしない私の歯。続いて大きなハサミみたいなのを持ってきました。大分苦戦。麻酔してあると言っても、歯が引っ張られる感覚はあります。それに苦戦しているようだったので、気持ちとしては強ばっていました。
 プチッ、と音がした気がします。
 私の歯は何とか抜けました。案外、呆気ないものでした。だがしかし。
 手術が終わりません。

「根っこの方残っちゃったみたいだから、それ取るね」

 さらなる不安です。また苦戦していますし。なんか「外科用の」とか恐ろしい言葉も聞こえてきます。心はガックガク、ブルブルでした。
 が、これは杞憂でした。レントゲンをとったら、完全に取れていたらしいです。時間返せ。
 まぁ、終わったんならいいです。呆気ないものですし。出血を止めて、私は口をゆすぐよう言われたので、うがいをしました。コップに水を入れて、口の中に。軽く全体を……
 と、その時でした。
 後に私は、こう語ります。

「最初はなんか、別の要因だと思ったんですよ。鼻水とか、花粉の時期だったので。でも出る量尋常じゃなくて。こう、鼻うがい?って言うんですかね。あんな勢いで、しかも血に染まった感じで。なんか鼻に水入った時みたいな感覚もあるし。
そしたらですよ。私気づきました。あ、口の中の水の量、減ってる

 終わった。そう思いました。だって、口と鼻が繋がるなんて、前代未聞です。私、死ぬんだな……とさえ。未来が閉じていって、もがいても意味が無いという絶望。普通ではありえない現象に、人間ではなくなったのではと疑いに満ちた不安のような、形容しがたい感情。私は、主治医のセリフを思い出していました。
 ゆすぎを適当に終えて、口を抑えながら急いで国語に報告します。

「すみません、あの、今口ゆすいでたら、なんか、鼻から出てきちゃって……」

 この間にも、鼻に行っていた水が口に戻り、口からは水が溢れ出します。タオルが濡れていきます。焦っていると共に、なんか大道芸人みたいだな、とバカみたいなことを考えていました。そうでもしないと、感情が抑えられそうにないのです。
 国語からの返答。

「あ、じゃあ貫通しちゃったんだ。そうかぁ、じゃあちょっと縫っちゃうね

 縫う。
 聞いたことはあります。傷口を塞ぐために、人体に糸を通し、接合させる。でも、聞いたことしかありません。未知の手術です。
 でも、嫌って言っても口と鼻は繋がったまま。私はもうどうにでもなれと言う気持ちで、ベッドに寝ました。

 手術はつつがなく終わりました。痛み止めと、抗生物質?の薬も貰い、私は帰宅。今も口が麻酔されてますが、そんなこんなで今に至っています。
 とにかく、私の稚拙な文章では言い難いですが……想像してください。口に入れた水が、鼻からボタボタと垂れてくるのです。口と、鼻が、繋がって。そういうことです。
 というか、今も鼻の方からは空いてるという事実が恐ろしいです。飯も食いたくないですね。ちなみに今回の事件、国語は

「君で二人目だよ」

と言っていました。鼻腔と口腔が繋がるの、珍しいんですね。恐怖に満ち満ちつつ、この文章を書きました。

3.おわり


 これ、どうなるんでしょうか。もう何もわからないです。鼻から息を吸うと口に通るような気もしますし、麻酔な気もします。血はまだ止まってません。とりあえず気を紛らわしつつ休養ですね。
 案外、呆気なく出てくるんですよ、水。

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