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令和二年度愛知県立芸術大学卒業・修了制作展:イソムラミキ作品に寄せて「#25歳女性の場合」

 西洋占星術では、2020年12月22日に所有が尊ばれた従来の「土の時代」から、共有に重きを置く「風の時代」に移ったとされてる⑴。こうした星々の節目以前に、個人所有の住居の空き部屋等を他人に貸し出すインターネット上のサービスであるAirbnbや、自家用車を利用した配車サービスであるUber、Lyft等のシェリングサービスが中心に利用者を増やしている⑵。SNSの発達や地球資源の限界もあいまって、時代は所有から共有に移ったと言えるだろう。
 そうした潮流のなかで「人場所空間をきっかけに絵画作品やインスタレーション作品を制作しているアーティスト」⑶と自称するイソムラミキは、2016年以来一貫して「私は私を共有したい」というテーマで制作・発表活動を続けてきたが、それがコロナ禍に直面して一つの転機を迎えている。マスコミの協賛による大型動員展ブロックバスター展を見直す動きの中で、コロナ禍は作品発表や展覧会をオンラインで実施する機運を一気に高めた。イソムラはそうした状況を踏まえて、昨年春に爆発的人気を誇ったNintendo Switch『あつまれ どうぶつの森』というオンラインゲーム内で作品アーカイブを試みており、これはマテリアル空間とは異なる別の仕方でゲーム内での展示空間である。 こうした過去の作品やその展示を記録し再賦活化する試みは、自身が芸術作品である以上、芸術そのものを指し示すことのできない「アートワーク」から芸術を単に指し示す非芸術作品である「アートドキュメンテーション」へ遷移したと指摘する⑷。イソムラのこの試みはそうした流れの中に位置づけることができるのではないか。
 また、「私が共有する私」は、ゲーム内のアバターであり、操作する私であり、過去に制作した作品・展示であり、「ねえかまってよ島」そのものでもあるという「私」に複数性・多重性を認める一方で、コロナ禍に伴う自粛生活の中で使用済みのコンタクトレンズやその容器、睫毛エクステンションなどをそのままパネルに貼り付けた作品や日常の景色を撮影した画像にコメントを添えた「#25歳女性」をTwitter上で公開している⑸。日常に密着した記録性の高い作品である本作は、ドキュメンテーションという独特の距離感を保ちつつ、「この私」の生活に密着した二面性の高い作品である。
 さて、今回の卒業制作展はイソムラにとっても大きな節目である。今後のイソムラの行方もまた、様々な仕方で体験される鑑賞を通して共有される先にあるだろう。

参考文献
⑴「持たない」自由を楽しむ 新たな「風の時代」にやめるべきこと
シェアリングエコノミーとは - コトバンク
https://twitter.com/isomuramiki/status/1255745377094864896
⑷表象05 特集:ネゴシエーションとしてのアート 2011年 ボリス・グロイス「生政治〔バイオポリティクス〕時代の芸術――芸術作品〔アートワーク〕からアート・ドキュメンテーションへ」訳=三本松倫代
https://twitter.com/search?q=%2325%E6%AD%B3%E5%A5%B3%E6%80%A7%E3%80%80%EF%BC%A0isomuramiki&src=typed_query

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