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私とGのはなし

2022年6月25日。
ラグビー日本代表対ウルグアイ代表戦。
テレビの向こう側を駆け抜ける姿に吸い込まれて、気付いたら私はテレビの前にしゃがみこんでいた。


えどりくでゲーフラを見た日のはなし

「G」という選手がいるらしい、と初めて知ったのは、ウルグアイ戦の日から遡ること4か月前。
2月のえどりくで、ヴェルブリッツ対スピアーズの試合を見た時のことだった。

私は2019年のワールドカップで初めてラグビーというスポーツを知り、そのままラグビーにハマるという典型的にわかファンだった。
W杯後に開催されたトップリーグで、秩父宮に一回足を運んだところで、コロナ禍によりリーグ休止。

それから2年。
徐々に日常生活が戻り、リーグワンが2022年1月に開幕。
私もようやく観戦に行けるようになり、味スタで見たヴェルブリッツのデュトイをもう一度見たくてえどりくに行ったのが、2022年の2月のことだった。

その時たぶん、「G」と書かれたゲーフラをえどりくで見たんだと思う。
「G」とは?と思ってメンバー表を見ても、それらしき人が分からない。
「Gって誰のことだったんだろう?」と疑問に思いながらえどりくを後にしたけれど、それきり「G」のことは忘れていた。


秩父宮でファンと笑い合っていた外国人選手のはなし

次にたぶんGを見たのは、そのシーズンのプレーオフの秩父宮、だったんだと思う。

というのも、私はこの時はまだ、どの人が「G」なのか知らなかったし(放送では「ファンデンヒーファー」と呼ばれるからね)、「G」のことを思い出すことは特になかった。

試合後、選手が挨拶をしに場内を周って来た時、「G」と書かれたボードをスピアーズの外国人選手数名が見つけて手を振っている姿が目に入った。
その時、そのボードが逆さまになっていて、「逆、逆!」と笑いながら選手がジェスチャーで教えてあげているのがとても微笑ましかった。
きっとあの中の誰かがGなんだろうな、とは思ったけれど、やはり誰がGなのかは分からなかった。
試合の内容はまるで覚えていないのに、ファンとのかわいいやり取りがとても印象的で記憶に残っている。


「G」という選手が代表に選ばれたときのはなし

そのシーズンの終了後、Gは初めて代表に選出された、らしい。

その時Twitterで流れてきた色々なツイートから、あの「G」という選手が代表に選ばれたこと、「G」とは「ゲラード・ファンデンヒーファー」という何やらすごい名前を持つ選手だったということ、ファンの人たちがこんなに喜んでくれるような選手だったことを知った。
あの時の「G」はこの人だったのか、と謎が解けた気分だった。


ウルグアイ戦のはなし

そして冒頭に戻り2022年6月25日。
ウルグアイ戦の日。
東京は晴れてとても暑い日だった。

特に応援しているチームや選手があるわけでもなく、ラグビーなら何でも見るのが好きだった私にとって、代表戦はオールスター戦のようなわくわくする感覚で、でも今回は知らない選手も多いなあ、とごろごろ寝転がりながら観ていたように思う。
Gが出ていることに気付いていたのか、Gのプレーを見ていたのかどうかも、今となっては覚えていない。

ひとめぼれ、をしたことがあるだろうか

2019年のラグビーW杯が開幕した日
テレビで初めて見たラグビー
家事をしている手が止まった
テレビの前から動けなくなった
あの時から私の世界は変わった


そしてあの日。
桜のジャージを着て駆け抜けるGの姿を画面で見た瞬間。

他の選手と何が違ったのかは分からない。
それまでGのプレーを何度も見ていたはずなのに、なぜその時だけ目に止まったのかも分からない。

息を呑んだ。

私はテレビに吸い寄せられて、テレビの前にしゃがみこんでいた。
あんなに速く走っているはずなのに、今思い出すとその時の姿がスローモーションで浮かんでくる。
テレビ越しに見ていたはずなのに、私はその場に飛び込んだような、足で蹴った芝生を感じたような、不思議な感覚がした。

トライを決めた時、本当に嬉しそうに、ほっとしたように、それから皆に囲まれたのが照れくさそうに笑って、でもすぐ真顔になっていた。
不思議な人だな、と思った。


「ゲラード・ファンデンヒーファー」という選手のファンになっていったはなし


「ゲラード・ファンデンヒーファー」という何やら難しい名前は、その時から私にとって特別な名前になった。
試合のメンバー表に、その名前を探すようになっていた。

次のフランス戦をテレビで見た。
フィールドを力強く蹴って走るランも、相手に飛び込んで刈り取るようなタックルも好きだった。
今までどうして気付かなかったのか不思議だった。
次にどんなプレーをするのかわくわくして見ていた。

フランス戦の2戦目は国立に見に行った。
ボールを持っていない選手の動きを意識して見たのは初めてだった。
WTBというポジションが、テレビには映らないところでもこんなに動いてる、その面白さを初めて知った。

協会のSNSにGの姿が出てこないか楽しみに待つようになった。

オーストラリアA戦を見に秩父宮に行った。
ウォーミングアップを見るのも楽しいと知った。
すぐ目の前にいるのが何とも言えず不思議な感覚だった。
実際に間近で見ると、とても大きくて分厚い体をしていることに驚いた。

私が見ているこの瞬間を残したくて写真を撮った。
スマホのカメラの限界が歯がゆくて、中古の一眼を買った。

秩父宮の試合の時に、Gのチームメイトが日本代表のレプリカジャージを着て応援しに来ていたのをTwitterで知った。
Gのチームはどんなチームなんだろう、と気になって、スピアーズのSNSを見るようになった。
このチームでGはどんな顔を見せるんだろう、と次のシーズンが楽しみになった。

SNSで見るスピアーズはどの選手も個性的で、だんだん他の選手の顔と名前も分かるようになってきた。
ファンクラブに入ってGのネームタオルを買った。

だんだん、だんだん、私の世界が変わってきた。
一人の選手の出場や活躍に一喜一憂する気持ち。
ラグビーを見るのに少し広がった視野。
新しい道具。
常に傍らにある楽しい気持ち。

その後も、たくさんの試合を見た。
Gを見たいから、という気持ちと同じくらい、スピアーズを見たいから、という気持ちを感じるようになった。
えどりくに行き、秩父宮に行き、熊谷に行き、柏の葉に行った。
静岡に行き、花園に行き、札幌にも行った。
行った先で美味しいものを食べたり、綺麗な景色を見たり、色んな人と出会ったりした。
たぶん、Gのことを好きになっていなかったら経験することもなかったことだった。


誰かが誰かの世界を変えているはなし


Gはただ全力でラグビーをしていたラグビー選手で、私はたまたまその全力に惚れ込んだファンで、これはどこにでもありふれた選手とファンのはなし。

でも、Gを知ってから私の生活はまったく違うものになって、楽しくて新しい世界へ私を連れて行ってくれた。

どの選手にも、きっとこんなファンがいる。
どの選手も、自分の知らないところで、きっと誰かの何かを変えている。

私のこの2年間の不思議な経験と感謝の気持ちは、たとえ私が何回ファンレターを書いたって、ちゃんと伝えられる気がしない。

でも

日本の片隅で、
あなたの知らないところで、
あなたはこんなにも私に影響を与えていて、
きっとこんな経験をしているのは私だけじゃなくて、
それはとてもすごいことで、
とても素晴らしいことだよ

と、私はいつも思っている。


Gへ


怪我で長期離脱のお知らせを受けて。
またあなたのプレーを見られる日を待っています。

My held
My vlerk
Jou skop is hoër en helderder as enigiemand anders s'n.

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