安定しないピアスホール

かさぶたを剥がすのが幼少期からの癖である。
元来アトピー持ちの私は、肌を掻き壊してはかさぶたをめくり一種の悦を得ていた。
上手くやれば綺麗にめくれる爽快感はもちろんのこと、己の治癒力を水泡に帰す感覚が自傷の悦楽に近かった。
無意識のうちにやってしまう、悪しき習慣だと思う。

五月末にピアスを開けた。
理由はごく単純、敬愛するアーティストの模倣だ。
覚えたての仕事も惰性で続く人間関係も上手くいかない時期で、気分転換の意味も含ませられてちょうどよかった。
ピアスを開けると人生が変わるという俗説があるぐらいだ。
一ヶ月後にはピアスホールが安定する。
好きなピアスをつけられる。
迷走している自分を捨て、憧れの存在に近づくためピアッサーを耳に押し当てた。

四ヶ月経った今でもピアスホールは完成しない。
手入れのたびに指先に血がつく。
憧憬を宿したファーストピアスはそのままになっている。
 
かさぶたを剥がす癖は治りそうにない。





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