見出し画像

オフラインの友人


「それで最近どう?元気にしてる?」

スマートフォンの向こう側にいる2人、加藤と前田に声をかける。

「加藤なんて忙しいんじゃないの?」

小さな画面に向かってそう話しかけるわたしに向かって、
加藤がビール缶を開けながらのんびりと返答する。

「そうなんだよ~最近忙しいんだよね~」

加藤の勤める会社では、コロナの影響で以前に比べ業務が忙しくなったらしい。


金曜の夜、大学時代の友人とのオンライン飲み。

明日が休みということもあって、お酒が進むペースも早い。


「やっぱり忙しくなってたか。奥、お前はどうなんだ?」

加藤に同情するかのように顔をしかめていた前田が、わたしの方に視線を移す。

「だいぶ時間に余裕が出てきたかな、おかげでゲームに時間を費やせる」

「おれは全然ゲームできてなくてな……どこまで進んだよ?」


最近、前田とわたしは同じゲームをプレイしていて、会うとその話になることが多い。

話が始まったことを確認した加藤が、ゆっくりと席を立つ。

「ちょっとトイレ行ってくるね」

席を外すいいチャンスと思ったらしい、加藤はカメラが映す世界から姿を消した。



「ここまで進んだらまた報告するね」


話がひと段落したところで、わたしはちらっと時計を見る。

考えが顔に出ていたのか、前田が代弁するように疑問を口にする。


「さすがに遅くないか?」


加藤がトイレに行くと立ち上がってから、20分が経っていた。


「家の中にいるんだから、お店にいるときみたいに待つことなんてないだろうし」


前田とわたしの間に、少しずつ不安が広がっていく。


「連絡してみたらどうだろう」

「スマホでオンライン飲みに参加してるってさっき言ってた」


オンライン上だから、様子を見に行くこともできない。その上、連絡する手段もない。

わたしの不安を餌にするかのように、悪い想像だけがむくむくと膨らんでいく。


焦り始めるわたしを傍目に、前田がぽつりと言った。



「まさか倒れてる、なんてことないだろうな?」



考えないように、意識しないようにしていたのに。

わたしが冷静さを欠きそうになったちょうどそのとき、
画面の向こう側から、懐かしい声がした。



「おい!大丈夫?」


気付けば声を荒げて叫んでいた。

わたしの声が空虚にこだまする。

返事は帰ってこない。

反応を待つ時間が、とても長く感じた。


(はやく返事してよ……)


心の中で、何度も何度もそう唱えていた。

どれだけ時間が過ぎたか分からなくなったころ、小さく加藤の声が聞こえてきた。


「……てた」

「……!え!遠くて聞こえない!」

間髪入れずに聞き返す。


「ベッドに入って横になってた」

「体調悪いのか?」
前田も不安そうな顔で画面をのぞいている。



「疲れて眠かっただけ」


「「はぁ?」」


「眠たかったから寝てたんだよ~」



ふわぁ~という暢気なあくびが聞こえてくる。

どうやら、カメラに映らない場所で眠っていたらしい。

オンライン飲みの思わぬ弱点を見つけてしまったような気がした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?