オフラインの友人
「それで最近どう?元気にしてる?」
スマートフォンの向こう側にいる2人、加藤と前田に声をかける。
「加藤なんて忙しいんじゃないの?」
小さな画面に向かってそう話しかけるわたしに向かって、
加藤がビール缶を開けながらのんびりと返答する。
「そうなんだよ~最近忙しいんだよね~」
加藤の勤める会社では、コロナの影響で以前に比べ業務が忙しくなったらしい。
金曜の夜、大学時代の友人とのオンライン飲み。
明日が休みということもあって、お酒が進むペースも早い。
「やっぱり忙しくなってたか。奥、お前はどうなんだ?」
加藤に同情するかのように顔をしかめていた前田が、わたしの方に視線を移す。
「だいぶ時間に余裕が出てきたかな、おかげでゲームに時間を費やせる」
「おれは全然ゲームできてなくてな……どこまで進んだよ?」
最近、前田とわたしは同じゲームをプレイしていて、会うとその話になることが多い。
話が始まったことを確認した加藤が、ゆっくりと席を立つ。
「ちょっとトイレ行ってくるね」
席を外すいいチャンスと思ったらしい、加藤はカメラが映す世界から姿を消した。
◆
「ここまで進んだらまた報告するね」
話がひと段落したところで、わたしはちらっと時計を見る。
考えが顔に出ていたのか、前田が代弁するように疑問を口にする。
「さすがに遅くないか?」
加藤がトイレに行くと立ち上がってから、20分が経っていた。
「家の中にいるんだから、お店にいるときみたいに待つことなんてないだろうし」
前田とわたしの間に、少しずつ不安が広がっていく。
「連絡してみたらどうだろう」
「スマホでオンライン飲みに参加してるってさっき言ってた」
オンライン上だから、様子を見に行くこともできない。その上、連絡する手段もない。
わたしの不安を餌にするかのように、悪い想像だけがむくむくと膨らんでいく。
焦り始めるわたしを傍目に、前田がぽつりと言った。
「まさか倒れてる、なんてことないだろうな?」
考えないように、意識しないようにしていたのに。
わたしが冷静さを欠きそうになったちょうどそのとき、
画面の向こう側から、懐かしい声がした。
「おい!大丈夫?」
気付けば声を荒げて叫んでいた。
わたしの声が空虚にこだまする。
返事は帰ってこない。
反応を待つ時間が、とても長く感じた。
(はやく返事してよ……)
心の中で、何度も何度もそう唱えていた。
どれだけ時間が過ぎたか分からなくなったころ、小さく加藤の声が聞こえてきた。
「……てた」
「……!え!遠くて聞こえない!」
間髪入れずに聞き返す。
「ベッドに入って横になってた」
「体調悪いのか?」
前田も不安そうな顔で画面をのぞいている。
「疲れて眠かっただけ」
「「はぁ?」」
「眠たかったから寝てたんだよ~」
ふわぁ~という暢気なあくびが聞こえてくる。
どうやら、カメラに映らない場所で眠っていたらしい。
オンライン飲みの思わぬ弱点を見つけてしまったような気がした。
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