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【配信を拝診⑬】世捨て人の老人が少年の純心に触れて心を取り戻すスーパーヒーロー版"アルプスの少女ハイジ" 秘められし過去の宿業と自分が生き残った意味に苦悩する暗い怒りが大爆発!! Amazon Prime独占配信映画『サマリタン』

 結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。( ・_・)
 今朝の通勤電車の込み具合と学生さんの浮かない顔を見るにつけ夏休みの終わりを感じた、O次郎です。

"夏の終わり"を感じる曲といえば個人的にはコレか。当時の『ポンキッキーズ』(鈴木蘭々さんが出ているぐらいの頃)の主題歌で、当時小学校低学年で通常視聴はもう卒業してたけど怪談特集とかが目当てで夏休み中だけ観てた記憶。
地方民だったゆえに当時人気だったライバル番組の『ウゴウゴルーガ』が観られなかった悔しさをちょっぴり思い出す…。(`・ω・´)
少年時代」や「secret base〜君がくれたもの〜」を避けたのは逆張りというよりベタ過ぎるということで。

 今回は先週末からAmazonプライムで独占配信開始となった映画『サマリタンです。
 "スタちゃん主演のスーパーヒーロー映画"ということで、スタちゃんのアクション映画としてもスーパーヒーローものとしてもなんとも中途半端でビミョ~だった『ジャッジ・ドレッド(1995)』の苦みを思い出してしまいますが、本作ではスーツと武器を装備したスーパーヒーローとしての活躍譚は遠い過去のものとして大胆に省略し、世捨て人となった彼の経緯と少年との交流を描くヒューマンドラマに重きを置きつつ、要所で老骨に鞭打っての骨太肉弾アクションを披露してくれます。
 特に己の中に存在する善悪に苦しむヒーロー像は往年の石森章太郎先生原作のヒーローの悲哀にも通ずるものがあり、そのあたりの所感も含めて語ってみようと思います。ネタバレ含みますので予めご了承をば。
 それでは・・・・・・・・・・・・・・"Cliffhanger Theme"!!

クリフハンガー』(1993)
スタちゃん映画の中で個人的に一本選ぶとすればコレ。
"その道のプロと呼ばれながら取り返しのつかないミスを犯して一線を退いた中年男性が、
未曽有の危機に直面することで己の人生の再起を掛けて挑む"
というスタ作で何十回とリピートのプロットを説教臭くならないようエンタメに昇華したレニー=ハーリン監督の手腕に、
スペクタクル物に精通してロッキー山脈の美しさと過酷さを捉えたアレックス=トムソンの撮影、劇判とシンセの融合で時代に応じて盛り上がりを演出するトレヴァー・ジョーンズの音楽、
そして『ロッキー』『ランボー』で披露した"見せ筋"と一線を画すしなやかなスタちゃんの筋肉。
"低迷した90年代スタちゃんのほぼ唯一のヒット作"ということも考えると猶更感慨深い。( ・∀・)


Ⅰ. 作品概要

 ゴッサムシティの如き格差が激しく犯罪の絶えないグラニット・シティでの双子のスーパーヒーローである善のサマリタンと悪のネメシスの対立から25年後の物語。
 "サマリタンだと思われていた渦中の善玉のスーパーパワーの老人の出自が実はネメシスだった"というオチが最大のキモなわけですが、上述の通り、"善が悪に、悪が全に、そのどちらにも人は傾き得る"というテーゼで想起させられるのは、石森章太郎先生原作漫画のヒーロー像です。

漫画版『仮面ライダーBlack』(1987)
人類滅亡後に世界を統治する「魔王」の候補者として幼馴染の信彦と戦う運命の南光太郎。
最終的に信彦を倒したが時既に遅く、秘密結社ゴルゴムの姦計による核戦争と環境汚染で
風前の灯火の地球にとり人類にとり、彼はいったい何者か・・・。
TV版『仮面ライダーBLACK』(1987)
こちらも次期創世王候補のブラックサンとシャード―ムーンとして戦うことに。
主人公南光太郎はシャドームーンを倒したことでゴルゴムの世界征服の野望を打ち砕いたものの、
同時に"親友殺し"の十字架をその後一生背負うこととなり、ゴルゴムの魔の手から逃れるべく
人々が避難した日本列島を誰からも祝福も感謝もされず何処かへ去っていく・・・。

 非道の限りを尽くしていたネメシスは弱者を虐げる悪党を放逐する義賊を気取っていたものの己が築いた屍の山に双子の兄弟であるサマリタンも加えてしまったことでその独善の暴走に気付き、人々を助けることに執心していたサマリタンは身中の悪であるネメシスを看過したことで間接的に悪を助長させてしまい、双子の兄弟に躊躇して命を落としたことで悪の芽を断つ機会を自ら放棄してしまった。
 まさしく、自分の内奥としても傍からの追求からしても善悪の相克で苦しめられることになり、おそらくはもし件の25年前の対決でサマリタンがネメシスに勝っていたとしても、『仮面ライダーBLACK』のように正義を為すために自らの同胞をその手にかけた矛盾と欺瞞はサマリタンの倫理を蝕み、己の力で"正義"を実行するネメシスに変貌を遂げていたとしてもおかしくありません

 そうして己のスーパーパワーがスーパーパワーゆえに全を為そうとしてもその枠に収まりきらず悪の側面を持つばかりか悪を誘発してしまうことも身をもって思い知ったネメシスがその後何十年も沈黙して世捨て人となったことには成程説得力が有り、その状況を動かしたのが街や国や地球の大危機ではなく近所の少年の危機というのも興味深いところです。

若い頃に"飲む打つ買う"で放蕩の限りを尽くし、
傭兵として各地を暴れまわった過去を持つハイジのおじいちゃん。
心を凍てつかせて隠居していた彼を目覚めさせたのが
偏見の曇りの無い瞳を持つ純真なハイジであったように。

 同じヒーローものとしてはスパイダーマンの掲げるテーゼである"最も親しい隣人"を思い出すが、過剰な正義を断行してそれが悪と見做されしかもフォロワーも生み出してしまった過去を悔い、加えて衰えた今の自分の身体という状況に鑑みても、”目の前の人間を救う”という行動に己の苦い経験と残された力を使う姿は罪滅ぼしの形でありながら、慎ましやかな老人の生き方としても真摯に映る


この人も過去に己が掲げて振りかざした大仰な正義の結果を悔いて
違う正義を見出した人か。そういえば最近、北海道篇追い駆けるの忘れてた…。

 その後もあの街に留まっていたらまたぞろ彼に挑戦するべく新しい悪が台頭するかもしれませんし、結果として彼の居る安心感が人々の自助意識を薄れさせることに繋がるかもしれません。個人的には、少年サムと結んだ親交で寂れた心を微かながらも暖かくしつつ、台風の目を自覚して彼はまた人知れず次の街へと流れたのだと思います。

マッドマックス 怒りのデス・ロード』や『木枯し紋次郎』シリーズのように…。



Ⅱ. 個人的ゴイスー‼な点

・70代半ばで肉弾戦オンリーでの画の映えを生み出すスタちゃん

他のおジイちゃん俳優がやったらちょっと笑っちゃいそうなスーパーパワー演出ですが、
ガタイの良さをキープしてるスタちゃんならではの説得力。
ただ、今のスタちゃんにヒーロースーツ的なものはビジュアル的に厳しいので
それを避けた製作陣のバランス感覚は流石ですね。

 近年作でも『エクスペンダブルズ』シリーズや『大脱出』シリーズでガンアクションも相変わらずバリバリこなしているスタちゃんですが、今作ではガチンコの体術とかつて取った杵柄のハンマーのみの打撃専門
 敵は重火器をふんだんに使いますがものともせず、衰えを感じさせない筋肉の張りを敢えて見せない浮浪者然としたスタイルのまま大立ち回りを演じるのがなかなか新しいです。

ちなみにハンマーではなくアックスですが、同じく近年作で格闘戦が楽しい『バレット』(2013)。
アクアマン』で知られるジェイソン=モモアとの一騎打ちは
ガチムチなだけでなく超スピーディーで楽しい。
監督ウォルター=ヒルなので演出やファッションが古臭いけどバトルシーンの迫力は素晴らしす。


・救う対象が一貫して子ども、ということの意味

救ってもらった少女は素直に謝意のみを示す。
対してそのスーパーパワーの奇跡を目撃した周囲は撮影しての"利用"にご執心。

 本作でのもう一人の主人公の少年サムはコミックヒーローに憧れる年齢より些か幼い少年、ギャングのサイラスはヴィランとしてのネメシスのカリスマ性を模倣、という具合に、スーパーヒーローの力に肖ろうという人物はそれぞれの形でどこか幼さを示しています
 MCU映画DC映画が全世代的に支持されて久しいですが、スーパーヒーロー映画にて殊更それを強調することでスーパーヒーロー映画そのものを批判しているようにも取れます。



Ⅲ. 個人的ムムムッ‼な点

・少年サムのキャラクター性の中途半端さ

貧しさの中で犯罪に手を染めますが、そこに改心した風の決意描写があるわけではなく、
ネメシスとサイラスとその時その時の自分の庇護者になびいていっただけの印象が否めない脚本。

 もう一人の主人公の少年サムですが、非常に貧しい母子家庭環境にあり、13歳ということですが学校に通っている描写は無く、窃盗やら屑鉄集めやらで日銭を稼いでなんとかアパートの立ち退きを引き延ばしにしているような生活ぶり。
 そんな中で偶然目にしたネメシスことジョーの力に憧れて彼に戦い方の指南を求めるまではいいのですが、結局彼の力でギャングの悪事から足を洗わせてもらったぐらいで彼自身の意志による成長が見られないのがストーリーとして片手落ちに映ってしまうのがなんともかんとも。
 ベタかもしれませんが、ジョーに戦い方を教わった後に結果として無用な戦いからは逃げる姿勢を見せるとか、貧しくて結果的にアパート立ち退きが目前に迫ろうとも犯罪に手を染めず真っ当な方法でお金を得るとか、スーパーヒーローの庇護を得たことで結果的に地に足の着いた判断と思考を身に着ける大人の階段を登って欲しかったところです。

喩えるなら、結果的に鬼になることを選択しなかった彼のような?


・敵キャラの魅力の無さ

腕力にモノを言わせているものの一方で警察の物量に鑑みて賄賂で黙らせたり、
といった小狡い計算も見え隠れするところがなんとも小者感を感じさせて辛いところ。

 街の中で行き場の無い孤児や問題児を糾合して一大勢力となった敵の親玉のサイラスですが、上述のように自分の権威に箔漬けしようとして25年前の対決で人の手に渡ったネメシスのハンマーとマスクを手に入れたり、サムを見込みがあると評価して取り込みつつもジョーをおびき出すためにあっさり人質に使ったりと、安易で稚拙な手が目立つのがなんとも気になります。
 悪漢なら悪漢らしく、サムに自らの意志でサマリタンを否定させるよう仕向けたり、自らの死に際に仲間を庇う姿を見せつけることでジョーに罪悪感をしっかりと植えつけたり、堂々たる姿を見せつけて欲しかったところです。
 クライマックスで数十年間も己の中の善悪の相克に悩み続けていた筈のジョーがあっさりサイラスを殺してしまったあたり、重いテーマを扱いながら最後は安易にアクション映画としてのカタルシスに逃げてしまった感が否めないのがこの上なく勿体無いところです

 また、その他にも、ジョーが高熱を発しながら傷を治癒し、冷却することで回復する設定や、彼が長年スクラップ業に身を窶しながら壊れたモノを修理し続けてきた経緯等、演出で巧く物語に落とし込めていなかったようにも思います。


Ⅳ. おまとめ

 というわけで今回はAmazonプライムで独占配信開始となった映画『サマリタン』について語ってみました。
 あらためて総括すると、"やりたいことのユニークさはわかるし、アクション映画としての要点はまずまず押さえてるけど、細かい部分の詰めが甘い"というところでしょうか。それでも、スタちゃんが苦手としてたSF作品の中では完成度として健闘したほうですし、先述の通り、スーパーヒーロー映画の体を取りながら昨今のスーパーヒーロー映画に苦言を呈したような内容はなかなかの野心ぶりだと思います。
 結末のどんでん返しや善悪の煩悶というテーマの連続性を考えると、もしかするとドラマシリーズの長尺で描いたほうが生きた作品なのかもしれません。
 ともあれ、スーパーヒーロー映画好きにもスタちゃん映画好きにも、それぞれ観た人に何かしら刺さるところは有るかと思いますので、既に観た方も未見の方も噛み締める余地のある作品だと思います。

 今回はこのへんにて。
 それでは・・・・・・どうぞよしなに。



名探偵コナン』のかなり初期のエピソードの「美術館オーナー殺人事件」も
"善もやがて悪に染まってく"みたいなオチだったっけか。


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