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「全滅してなお咲く華の名を」 AZKi 5th LIVE R.I.P AZHOODレポート

 バーチャルシンガーAZKiによるワンマンライブ「AZKi 5th LIVE R.I.P AZHOOD」が7月25日に開催された。

 もともとは5月に過去最大規模のリアルライブとして「AZKi 5th LIVE [three for the hood]」が開催される予定だったが、昨今の情勢により中止。そして配信ライブとして再構成されたのが今回のライブとなる。

 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、多くのライブが中止され、音楽ライブはその在り方を根本から問われることになってしまった。バーチャルな存在による配信ライブは珍しいことではないが、AZKiはリアルでのライブを特に重要なものと位置付けてきた一人である。そのたびに規模を拡大しながら、既に複数のワンマンライブを成功させていることからもその覚悟のほどがうかがえるであろう。

 そんな彼女とそのチームが、新たに創り出した配信ライブは、ものものしく掲げられた「全滅」の冠に違わず、壮絶なライブ体験を味わせるものになっていた。

#開拓者全滅

 開幕をいまかいまかと待ちわびる気持ちを言葉を介さずして共有する、熱狂の前の静かな猛りはここにはない。密集することを禁とされた私たちはPCの前で、あるいはスマホの前で各々ひとりでその瞬間を待っていた。中止となったライブが配信という形でも実現されたことへの嬉しさがあるのはもちろんだが、配信ライブへの参加をいくつ重ねてもフロアではなく部屋で踊る寂しさが薄れる気配はない。

 それゆえ配信ライブの開幕前には普段のライブでは感じ入ることのないレベルでの「楽しめるだろうか?」という不安が胸を覆ってしまう。好きなアーティストが好きな歌を歌ってくれる、それがどれだけの奇跡の上に成り立っているのかを知っていながら、全身で音楽を感じることができないだけで物足りない気持ちになってしまうとは私はなんと我儘な人間なのだろうか。

 そんな風に開演を待つ間にいろいろ考えることが好きだった。日常の不安や悩みは一切忘れて宴に興じるのではなく、あえてライブに持ち込み爆音で踊り狂う中で靄を晴らすような感覚を味わうのが好きだった。それを思い出すことができたのは、今回の「AZKi 5th LIVE R.I.P AZHOOD」が疑いようもなく至上の音楽ライブ体験だったことの証左に他ならない。

 はじまりを告げる「Ovet ture」が流れるとともに赤い閃光がフロアに射し、バーチャル空間に広がるフロアにまで伝播した興奮に火をつけてAZKiが姿を現す。配信ライブならではの演出でライブタイトルが彼女の姿に重なると、お互いに待ち望んだライブでの邂逅に涙を流す間もなくさいしょの歌が始まる。

 我々の熱狂とは裏腹に優しくピアノの旋律が鳴り響き、一瞬の静寂が訪れる。そこから音の奔流と共に一気に「ちいさな心がきめたこと」へ突入した。迷い悩み、それでも歩みを踏み出す決意の歌、やられてみればこれ以上ふさわしいオープニングもなく、はやくもボルテージは最高潮へ引き上げられる。

 勢いそのままに「虹を駆け抜けて」へ。華奢な体をいっぱいに振り回し、優雅にコートを揺らしながら歌うその姿勢に、決して忘れていたわけではないが、”これだからAZKiが好きなんだ”という確信が胸に爆ぜる。「さよならヒーロー」へと続き、イレギュラーな舞台でもパフォーマンスの絶好調ぶりを見せつけて最初のMCへ。

画面を越えるつもりで

 『画面を越えるつもりで精一杯歌う。』既に心を揺らされっぱなしの私としては、なにを今更かわいらしいことをおっしゃると思ったが、まだまだ序の口だったことを思い知らされるのはすぐ後のことである。

 つづいての「フェリシア」は、アグレッシブなロックナンバーの連打からの高低差で目がくらみそうになるほどのキュートなラブソング、いや掴みがたくも甘く切ないセンチメンタルの正体へ手を伸ばす恋のうただろうか。ともあれ私はこの歌が好きなのだが年末のライブでは聞けていなかったので嬉しかった。

 さきほどまでとうってかわって乙女の淡い恋心を可愛らしく歌い上げたかと思えば、今度は「猫ならばいける」で大シンガロングを巻き起こす。どんな曲でも楽しそうに歌いこなす彼女の笑顔を見るために今日があったのかもしれない。にゃーにゃー言いながら飛び跳ねる私の心には見た目の滑稽さとは裏腹にそんな感動が巻き起こっていた。

 その甘い歌声にすっかりとろけきってしまっていたが、「Midnight Song」のイントロが聞こえてしまっては一気に引き締まざるをえない。題目の通りの大人なナンバーは直前のあまふわ空間を瞬間で過去にするソリッドさで一気に観客をダンスへ誘う。「take me to heaven」と続き、柔らかな光に包まれて歌う彼女に導かれるまま、心地よいステップがそれぞれのフロアへ刻まれていく。

 彼女の歌声に手を引かれての舞踏はまだ終わらない。「Reflection」では視点が次々切り替わる配信ならではの演出と相まって、さっきまでとは性質の異なるダンス空間が創造される。バーチャルのライブはテクノロジーがパッションと交差する奇跡の場であることを再確認させられると共に、彼女とそのチームの苦境をものともしない強靭さ、その上で羽ばたいてみせるライブ巧者ぶりには唸らざるをえないし、部屋の畳の目を削るとしてもダンスを止めることができない。

 一曲一曲の全力投球に応えるように全開で楽しんでしまっているがまだまだ序盤。既に10曲近く歌いながらも一切失速することなく、むしろギアを上げていく歌姫から『今日は何曜日ですか?』と問われてしまってはあの歌がはじまるという喜びと共に思い思いの曜日を叫んで拳をつきあげるしかない。

 ライブでの定番となったやりとりから突入したのは「のんびりと、」。なにげない日常をなぞり、変わらない日々の色彩を歌うこの歌は、日常が失われる今聴くと少し違った味わいになるのだなと予習段階では味わえなかったフィールに出会う。つづく「リアルメランコリー」でも共感を誘う歌詞と共にコール&レスポンスでオーディエンスと心を重ねる。あの手この手でテンションが引き上げられるが、背景に夕景が映し出されると一瞬で静まり返っていく。

 暗転を挟むことなく即座に衣装チェンジして「mirror」へ。すこしだけ寂しそうな表情を浮かべながら、広がる海を思わせるスケールの大きなパフォーマンスを展開。交わるはずのないもの同士が手を取り合う、世界はそんな尊き奇跡でできていることを確認させるように、仮想の世界の歌姫が放つ確かな歌声が心に迫る。

ライブという奇跡

 『AZ輪廻が最後のライブになってしまっていたかもしれない』真剣な眼差しで彼女が放ったのはそんな言葉だった。今回のライブは過去最大規模でのリアルライブになるはずだったが、昨今の情勢に伴い中止、配信ライブとして再構成された。その現実からも実感させられる通り、ライブが開催できるということは当たり前のことではない。彼女も、我々もそのことを痛いほどに思い知る。

 目の前に広がる奇跡の不確実さを知ってなお、AZKiの道が途絶えることはない。「これが最後になってしまうかもしれない」それは我々に等しく降りかかるどうしようもない現実だ。だからこそ「生きていたことを証明したい」そう誓う彼女の覚悟に一切の疑いの持ちようはない。

 静かで熱き宣誓から始まったのは「いのち」。シンプルな演出によってより洗練され、先ほどまでを凌駕する迫力で命を歌う彼女の姿を、一瞬も欠かすことなく焼き付けたいと思う心に反して視界は滲む。気まぐれに理不尽な生命の本質に立ち向かう彼女は、命を削るように歌声を絞り出す。その光景の壮絶さに目を背けることはできず、言いようのない感情の波は胸の内で猛り狂う。

 つづく「青い夢」は、ぜひライブで聞きたいと思っていた新曲だが、この流れで繰り出されてはそのメッセージの鋭さで涙腺が切り裂かれていく。彼女の歌声もさることながら、かきむしるように鳴るギターの旋律も印象的で、ほたるのように光が浮かび上がっていく演出と相まって心を昂らせる。

 焼き尽くされてしまった感情に染み入るような潤いをもたらす鍵盤の音が響くと、やわらかな歌声と共に「世界は巡り、やがて君のものになる」が始まる。『怖がらなくていい』そう優しく手をとられて、こんな世界にあってもなにも悲観することはないことに気付かされる。このブロックをバラードの連打とまとめてしまうことは簡単だが、そう言い切るにはまりにも心に浮かび上がる風景が違いすぎた。フィナーレの予感に逸る気持ちが鼓動の速度を上げる。窓の外には花火が上がっていた。

フロアへの憧憬

 ここからは盛り上がる曲をと投入されたのは「Eternity Bright」。まさしく暗闇に光さすようにエレクトロなサウンドにのせて歌声がフロアへ広がっていく。間髪入れずにさらなるアッパーチューン「Intersection」へと繋げられては、押し込めたはずのリアルライブへの思いが開け放たれてしまう。息は苦しいし、隣のオタクとはノリが合わない、誰かが蹴った酒がこぼれて靴は汚れる。それでもあの空間で一刻も早く音楽を感じて踊りたい。そうは思いながら涙も汗も撒き散らして配信ライブを楽しむ自分がいるのもまた確かだった。受け止めきれないほどの情熱の結晶を浴びせられ、矛盾しかける思いは歪に同居して同じ夢を見る。

 喜怒哀楽では現しきれない極彩色の感情の彩りを感じさせながらもまだ終わりではない。ここからラストスパートとして放たれたのは「EROOR」、大団円へ突き進む彼女の歌に突き動かされるままちぎれるほどに頭を振っていたのは私だけではないだろう。瞬く間に装いを変え「I can’t control myself」から「ひかりのまちへ」とメロディアスなハードロックを連打し、まだまだこんなもんじゃないだろと開拓者たちを焚きつける。

 最終局面へ突入する直前、ふたたび彼女の口からこのライブへ、そして愛すべき音楽へ対する思いが語られる。『歌うことがだれかのなにかになってればいいな』少し照れくさそうに紡いだそれが今の彼女に言える精一杯だったのかもしれない、だが真剣な思いに聞き入って静まり返った画面にひとすじ『生きる糧になってるよ』とコメントが流れたように、彼女の歌はすでに我々にとって欠かすことのできないものになっている。

 開拓者たちと思いを一つにしたところで「フロンティアローカス」へ。次元を越えて共に手を振り、体も心もリンクさせて「from A to Z」でフィナーレ。『これから起こるすべてのことを 一緒に創ろう』この世界で生きる意味を探して、歌い続ける彼女の思いは変わらない。なればこそ開拓者たちの思いもまた一つなのだ。

世界を創る

 大団円を迎えこれ以上ない充足感に包まれていると『あーずーき、あーずーき』と声が鳴り響く。抑えきれない情念がネットの海へ流出して具現化してしまったのかと思ったが、これは事前に収録されていた開拓者たちによるアンコールボイスだった。

 大歓迎の中再びAZKiが登場すると「Fake.Fake.Fake」でアンコールスタート。さっき20曲くらい歌ったはずでは?!と浮かんだ疑問が吹き飛ぶ全開っぷりで、「嘘嘘嘘嘘」へと繋げ、カロリー高めのハードロック波状攻撃でさらなる攻勢をかける。息も絶え絶えだが、苦境にこそ命は燃え上がる。『全滅していくぞー!』の掛け声のもと突入した「自己アレルギー」で本日何度目かの全滅を訪れさせ、今度こそグランドフィナーレへ。

 改めて振り返ると、彼女の曲にはその存在を確かめるようなメッセージが込められていることがある。それは仮想の歌姫という彼女の特異性によるものなのか、それとも繰り返し問わずにはいられない彼女の性分によるものなのか、ともあれそのたびに様々な切り口でもって歌姫AZKiの存在を聴くものの人生に刻み付ける。

 特にそう考えさせられるのがやはり「without U」「Creating World」の2曲だ。聴かずにしてライブを終えることなどできなかった。今始まったかのように軽快で、それでも確かにここまでの歩みを伴う重厚さを併せ持ちながら、雄大に歌声は響く。次元の壁を貫く圧巻のステージングでもって全25曲以上に及んだ大公演を締めくくり、万雷の拍手に包まれて幕は閉じた。

彼女が冠する『Virtual Diva』の称号の時点でだいぶ大仰に感じるひともいるだろうし、”世界を創る”というテーマはもはやファンタジーにも見えるだろう。だがこれほどまでにリアリティを伴わせながら魂を込めてそのテーマを歌うことができる歌姫は彼女しかいない、それを再確認させられる約3時間の旅路だった。

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