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「布の庭に遊ぶ 庄司達」@名古屋市美術館

ずいぶんとご無沙汰していた名古屋市美術館、玄関をくぐるとスタッフが待機していて、チケットを見せると「入り口は2階です」と案内をしてくれた。正直驚いた。ホスピタリティとかいう以前に、そもそも人が配置されてた記憶がない。

へぇ、今回は2階が入り口なのか…と階段を上がると、展示室へ続くはずの渡り廊下は塞がれている。あたりを見回すと、なんと、ふだんは出口として使われている場所が入り口ではないか。良い意味で裏切ってくる。期待値爆上がりで「布の庭に遊ぶ 庄司達」展に足を踏み入れた。

会場内には穏やかな光が満ち、作品を静かに照らしている。天窓からの自然光をうまく利用しつつ、スポットライトを効果的に使用して、作品に美しい印影を与えると同時に落ち着いた空間を生み出していた。

白布、テグス糸、金属製のフレーム、時々木製の棒、という具合にとてもシンプルな素材で構成された作品群、〈白い布による空間〉シリーズ。「一枚の白いハンカチから着想を得た」という。静謐でありながら複雑で美しい動きが表現されており、これは好みのタイプだと直感した。

”本展は、愛知県を拠点に50年以上活動を続ける作家・庄司達(しょうじさとる)の個展です。1968年、この地方で活躍する多くの美術家を育てた桜画廊で初個展を開催して以来、布を使った作品を数々発表してきました。本展では、デビュー作である〈白い布による空間〉シリーズ7点と〈Navigation〉に加え、〈Cloth Behind〉の新作を展示します。 とくに、〈Navigation〉のシリーズから、「アーチ」「フライト」「レベル」の3種類すべてを一堂に展示するのは、本展が初めてとなります。”

(名古屋市美術館 HPより)

最初は展示台の上に乗る小ぶりの作品から始まり、次は人の背の高さ、その次は人がくぐって遊べるサイズ、と次第にスケールが大きくなる。小さいサイズの布作品を色んな方向から眺めて愛でるのも良いが、タイトルに「庭」とあるように、メインは人が中に入って空間を体感するタイプの作品たちだ。たとえば、布の屋根の下、木製の突っ支い棒の間を縫うようにして歩き回れる〈Navigation〉シリーズ、布で作られたほっそい通路をそろそろと進み、ときに隣の通路に人がいる気配を感じながら歩く〈Cloth Behind〉。

どれも心地よく優しい狭さを感じられると同時に、自分が確かに身体という質量を持っていることを知らせてくれる。子供のころ、押し入れの狭い空間に閉じこもりたくなることがあって、こもると不思議な落ち着きを感じたことを思い出す。

作品が優しい空間を生み出している影響なのか、展示室内に配置された監視員の方々の物腰もやわらかく、鑑賞時のガイドや注意事項などを受けるにしても、感じの良い案内だったのが印象に残る。

すっかり満足して最後の展示室に足を踏み入れたら、これまた驚いた。白い作品ばかりだと思っていたところへ、目に飛び込んでくる鮮やかなオレンジ色。今回の展示で唯一彩色された布を使用している〈浮かぶ布〉だった。この部屋にも天井からの自然光がさんさんと降り注ぎ、その光を受け止めるかのように張られた布は力強くて、ものすごくありふれた言い回しではあるが、エネルギーと希望を感じさせる終わり方だったのだ。


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