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一番初めは…というけれど

国際芸術祭あいちの郊外会場、有松の次は一宮を訪れた。ここは奈良美智や塩田千春など、大物作家による作品があるので、期待と緊張が入り混じっての訪問になった。

まず一宮がなぜ「一宮」と呼ばれるのかというと、

平安時代に国司がその国の神社を参拝して回る時、最初に出掛ける神社を「一の宮」と言いました。尾張の国の「一の宮」が真清田神社であったことから、その門前町であるこの地域がいつしか「いちのみや」と呼ばれるようになりました。

というわけだが、さらに続きがあり…

古くから伝統のある繊維の街として繁栄し、すでに平安時代には錦綾を生産したと伝えられています。江戸時代の享保年間から日用品の交換や綿織物の売買のために「三八市」が開かれ大変なにぎわいでした。その後、結城縞・寛大寺縞などの縞木綿や絹織物の産地として広く知られました。明治以降は織物生産も工業化され、洋服地を中心とした毛織工業の産地として急速な発展を遂げ、昭和初期には「毛織物王国・一宮」の名前が全国に知れ渡りました。

「一宮市」の誕生(一宮市ウェブサイト)より

というわけで、一宮では「繊維の町」を意識した展示作品が多かったが、それだけではなく「STILL ALIVE」の本質に迫る作品もまた多く、収穫だった。
会場は旧一宮市立中央看護専門学校やオリナス一宮、市役所などが集まる真清田神社周辺部と、やや離れた尾西エリアに分かれており、今回は時間の都合で尾西エリアは残念ながらパス。それでもボリュームが多すぎて紹介しきれないほどである。

最初に立ち寄った一宮市役所では、いきなりこのエリアを象徴する作品と出会う。羊毛で作られた「樹」だ。これは作家一人の手によるものではなく、さまざまな人達との共同作品だという。

あいちNAUプロジェクト《白維》 眞田岳彦

これは造形家で繊維研究家の眞田岳彦が愛知の繊維文化に着目し、県内6都市7美術館・博物館とともに行った「あいちNAU(綯う)プロジェクト」の成果です。県内の様々な繊維の歴史について学んだ300人近い参加者が、羊毛を繰り返しより合わせ、眞田が樹木のような太い綱へとつくり上げました。

国際芸術祭あいち2022 ウェブサイトより

続いて、バリー・マッギーによるアートな公衆トイレ。都市部でよく見かけるスプレー缶による落書きとは違う。

旧名古屋銀行一宮支店である「オリナス一宮」では1階すべてを使って奈良美智の作品を展示。館内に大道具を使って展示スペースを作り、その中に各作品を置くやり方だが、2017年に豊田市美術館で開催された「for better or worse」展を踏襲した構成となっていて、懐かしかった。

ザ・銀行な入口 
歩みを止めるな!
トイレの案内まで奈良美智仕様
豊田の展示でも一番のお気に入りだった《Fountain of Life》

商店街を抜けて昭和の香り漂う真清田神社の脇を通り、この日のメインとなる旧一宮市立中央看護専門学校へ。廃病院ではなく廃止された看護学校なのがポイント。「生命」や「生命力」にかかわる展示が多く、メインテーマである「STILL ALIVE」とうまく響き合っていたと思う。看護学校のすぐとなりには、老朽化のためやはり廃止されたスケート場があり、そこではアンネ・イムホフの映像作品《道化師》が上映されており、ライブ会場のようだった。

小杉大介《赤い森と青い雲》
模擬病室で聞く入院患者の会話、という
インスタレーション
オーストラリアの先住民族の一人である、ケイリーン・ウィスキーは、作家本人が自分の名を告げつつ、楽しげに仲間とマーチする動画を作成。これは彼女の絵画作品。とにかくパワフル。
パワフルといえば、台北とベルリンをそれぞれ活動拠点に持つ
西瓜姉妹(ウォーター・メロンシスターズ)
石黒健一《夕暮れのモーニング、二つの時のためのモニュメント》
一の宮本町の地蔵寺にあったイチイガシの切株を再現。
同じ部屋で一宮の喫茶店文化を扱った動画作品を展示

塩田千春《標本室》は、もうこれ以上ないくらい場所とテーマがマッチしている。赤い針金で彩られた臓器の禍々しく美しいこと。これだけでお腹いっぱい。

最後は、生まれてきたすべての生命を寿ぐようなこの作品で締めたい。

近藤 亜樹
《ともだちになるためにぼくらはここにいるんだよ》

一宮は古くから繊維業で栄えた町で、大規模な七夕まつりは県内で有名。だけども、中心部の商店街は昭和の雰囲気を残したまま、シャッターを下ろしたままの店が多い。今回の展示会場となった旧看護学校や旧スケート場も市の中心部にありながら閉鎖した施設だ。使われなくなった施設をアート作品の展示会場として再生するのは良いが、その後が気になる。作品が去った後はどうなるのだろう。物理的な建物がなくなったとしても、何か後に残るものがあることを願う。

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